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Beautiful Days

初めてのデート

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「すごくおいしいっ!」

 某有名な牛丼屋で瑞希と向かい合って座り、菜花はそれを口に運んだ。
 染み込んだ牛肉と玉ねぎの味加減が絶妙で、自然と口が綻ぶ。

「ただの牛丼ですよ」
「そうですけど、でも私じゃ絶対に作れないし」
「そりゃあ菜花先生は料理音痴ですからね」

 穏やかに笑って優しい瞳を向けられると、それだけでまた鼓動がひとつ大きく跳ねた。

 こんなところでいいのか、と瑞希は言ったけど、そんなことは全係ない。
 彼といられるなら、牛丼でもマックでもコンビニのおにぎりでも構わない。
 一緒にいて食べて同じ時間を過ごせるなら、ただそれだけで。
 どんなに短い時間だったとしても幸せに感じて、彼といられることが大事だと思うから。


「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

 食べている時、瑞希は躊躇いがちに切り出した。
 菜花は口をモグモグとさせながら、彼をまっすぐ見つめる。

「…付き合ってる人、いるんですか?」
「いませんよ。いたら、毎週のように瑞希くんに会ったりしませんって」
「…好きな人も、ですか?」

 そう聞かれて、ドキンッ、とした。
 真っ先に浮かんだのは智志じゃなくて目の前にいる瑞希で、まだ気持ちは伝えていなくても、自分の気持ちはもう彼に向けられていた。

「さあ、どうなんでしょうね」

 さすがに今はまだはっきり言うほどの勇気はなく曖昧に答え、口元に緩めて小さな笑みを浮かべるだけだった。

 いつか、この胸の中にある気持ちを伝える日が来るんだろうか。
 それは今はまだ想像できなくて、この先のことは見えなかった。

「瑞希くんはいるんですか?」
「え?」
「…だから……彼女、とか」

 ほとんど無意識のうちに、菜花はそんなことを聞いていた。

 保育園のママ達のあいだで人気の彼だ、彼女くらいはいるかもしれない。
 普通に考えればいないほうがおかしいし、女が近づいてこないわけがない。
 そう考えるだけで痛みが胸に走り、そんなのは嫌だと心が強く拒絶反応を見せた。

「俺もいませんよ、そんなの」

 だから、その返答に思った以上に安心した。
 彼女がいないことが心に響いて、そんな些細なことがこんなにも嬉しくて仕方ないなんて。

「そっか。……よかった」

 自然と漏れた言葉に瑞希が小さく声を上げたけどそれだけで、それ以上のことはなにも言わなかった。

「知ってます? 瑞希くん、保育園のママ達のあいだで人気なんですよ」
「え?」
「あまり話さないけど、見せる笑顔が素敵だって」

 それは自分自身も思っていたことだ。
 ふっと落とすように笑う顔には、どこか影をも感じさせられる。
 なにかを抱えているような瞳や笑顔が、更に心を引き寄せるんだ。
 その〝なにか〟を知りたいとは思うけど、側にいられればそれでいい。
 もっと笑ってほしい、もっと幸せそうに、楽しそうに笑ってる顔が見たい。

「私も、瑞希くんはとても魅力的な人だと思います」

 そう言ってしまった後で恥ずかしくなって、また静かに牛丼を口に運んだ。
 ふっと視線が絡まるとドキドキと鼓動がすごい速さで脈打ち始め、はにかむように笑った。




***

 瑞希は自分が食べ終わった後も、菜花が終わるのを待っててくれた。
 急かすこともスマートフォンで時間を潰すこともなく、他愛ない話をしながら菜花が食べるのを満足そうに見ていた。
 そんな些細なことでも、心が引っ張られて止まらない。

「まだ時間大丈夫ですか?」

 お店を出た後でそう聞かれて、驚くと同時に嬉しかった。
 てっきりご飯だけだと思っていたから、彼がすぐに別れようとしないことに心が躍った。

「菜花先生、どこか行きたいところとかありますか?」
「…いえ、瑞希くんと一緒なら、どこでも嬉しいです」

 気持ちが舞い上がってるせいか、余計なことまで口走ってしまった。
 言ってしまった後ではもう取り消すこともできず、顔を赤くさせるだけだった。

「…じゃあ、適当にぶらぶら散歩でもしましょうか?」

 菜花は口元を緩めて嬉しそうに微笑んだ。
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