17 / 28
Beautiful Days
初めてのデート
しおりを挟む
「すごくおいしいっ!」
某有名な牛丼屋で瑞希と向かい合って座り、菜花はそれを口に運んだ。
染み込んだ牛肉と玉ねぎの味加減が絶妙で、自然と口が綻ぶ。
「ただの牛丼ですよ」
「そうですけど、でも私じゃ絶対に作れないし」
「そりゃあ菜花先生は料理音痴ですからね」
穏やかに笑って優しい瞳を向けられると、それだけでまた鼓動がひとつ大きく跳ねた。
こんなところでいいのか、と瑞希は言ったけど、そんなことは全係ない。
彼といられるなら、牛丼でもマックでもコンビニのおにぎりでも構わない。
一緒にいて食べて同じ時間を過ごせるなら、ただそれだけで。
どんなに短い時間だったとしても幸せに感じて、彼といられることが大事だと思うから。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
食べている時、瑞希は躊躇いがちに切り出した。
菜花は口をモグモグとさせながら、彼をまっすぐ見つめる。
「…付き合ってる人、いるんですか?」
「いませんよ。いたら、毎週のように瑞希くんに会ったりしませんって」
「…好きな人も、ですか?」
そう聞かれて、ドキンッ、とした。
真っ先に浮かんだのは智志じゃなくて目の前にいる瑞希で、まだ気持ちは伝えていなくても、自分の気持ちはもう彼に向けられていた。
「さあ、どうなんでしょうね」
さすがに今はまだはっきり言うほどの勇気はなく曖昧に答え、口元に緩めて小さな笑みを浮かべるだけだった。
いつか、この胸の中にある気持ちを伝える日が来るんだろうか。
それは今はまだ想像できなくて、この先のことは見えなかった。
「瑞希くんはいるんですか?」
「え?」
「…だから……彼女、とか」
ほとんど無意識のうちに、菜花はそんなことを聞いていた。
保育園のママ達のあいだで人気の彼だ、彼女くらいはいるかもしれない。
普通に考えればいないほうがおかしいし、女が近づいてこないわけがない。
そう考えるだけで痛みが胸に走り、そんなのは嫌だと心が強く拒絶反応を見せた。
「俺もいませんよ、そんなの」
だから、その返答に思った以上に安心した。
彼女がいないことが心に響いて、そんな些細なことがこんなにも嬉しくて仕方ないなんて。
「そっか。……よかった」
自然と漏れた言葉に瑞希が小さく声を上げたけどそれだけで、それ以上のことはなにも言わなかった。
「知ってます? 瑞希くん、保育園のママ達のあいだで人気なんですよ」
「え?」
「あまり話さないけど、見せる笑顔が素敵だって」
それは自分自身も思っていたことだ。
ふっと落とすように笑う顔には、どこか影をも感じさせられる。
なにかを抱えているような瞳や笑顔が、更に心を引き寄せるんだ。
その〝なにか〟を知りたいとは思うけど、側にいられればそれでいい。
もっと笑ってほしい、もっと幸せそうに、楽しそうに笑ってる顔が見たい。
「私も、瑞希くんはとても魅力的な人だと思います」
そう言ってしまった後で恥ずかしくなって、また静かに牛丼を口に運んだ。
ふっと視線が絡まるとドキドキと鼓動がすごい速さで脈打ち始め、はにかむように笑った。
***
瑞希は自分が食べ終わった後も、菜花が終わるのを待っててくれた。
急かすこともスマートフォンで時間を潰すこともなく、他愛ない話をしながら菜花が食べるのを満足そうに見ていた。
そんな些細なことでも、心が引っ張られて止まらない。
「まだ時間大丈夫ですか?」
お店を出た後でそう聞かれて、驚くと同時に嬉しかった。
てっきりご飯だけだと思っていたから、彼がすぐに別れようとしないことに心が躍った。
「菜花先生、どこか行きたいところとかありますか?」
「…いえ、瑞希くんと一緒なら、どこでも嬉しいです」
気持ちが舞い上がってるせいか、余計なことまで口走ってしまった。
言ってしまった後ではもう取り消すこともできず、顔を赤くさせるだけだった。
「…じゃあ、適当にぶらぶら散歩でもしましょうか?」
菜花は口元を緩めて嬉しそうに微笑んだ。
某有名な牛丼屋で瑞希と向かい合って座り、菜花はそれを口に運んだ。
染み込んだ牛肉と玉ねぎの味加減が絶妙で、自然と口が綻ぶ。
「ただの牛丼ですよ」
「そうですけど、でも私じゃ絶対に作れないし」
「そりゃあ菜花先生は料理音痴ですからね」
穏やかに笑って優しい瞳を向けられると、それだけでまた鼓動がひとつ大きく跳ねた。
こんなところでいいのか、と瑞希は言ったけど、そんなことは全係ない。
彼といられるなら、牛丼でもマックでもコンビニのおにぎりでも構わない。
一緒にいて食べて同じ時間を過ごせるなら、ただそれだけで。
どんなに短い時間だったとしても幸せに感じて、彼といられることが大事だと思うから。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
食べている時、瑞希は躊躇いがちに切り出した。
菜花は口をモグモグとさせながら、彼をまっすぐ見つめる。
「…付き合ってる人、いるんですか?」
「いませんよ。いたら、毎週のように瑞希くんに会ったりしませんって」
「…好きな人も、ですか?」
そう聞かれて、ドキンッ、とした。
真っ先に浮かんだのは智志じゃなくて目の前にいる瑞希で、まだ気持ちは伝えていなくても、自分の気持ちはもう彼に向けられていた。
「さあ、どうなんでしょうね」
さすがに今はまだはっきり言うほどの勇気はなく曖昧に答え、口元に緩めて小さな笑みを浮かべるだけだった。
いつか、この胸の中にある気持ちを伝える日が来るんだろうか。
それは今はまだ想像できなくて、この先のことは見えなかった。
「瑞希くんはいるんですか?」
「え?」
「…だから……彼女、とか」
ほとんど無意識のうちに、菜花はそんなことを聞いていた。
保育園のママ達のあいだで人気の彼だ、彼女くらいはいるかもしれない。
普通に考えればいないほうがおかしいし、女が近づいてこないわけがない。
そう考えるだけで痛みが胸に走り、そんなのは嫌だと心が強く拒絶反応を見せた。
「俺もいませんよ、そんなの」
だから、その返答に思った以上に安心した。
彼女がいないことが心に響いて、そんな些細なことがこんなにも嬉しくて仕方ないなんて。
「そっか。……よかった」
自然と漏れた言葉に瑞希が小さく声を上げたけどそれだけで、それ以上のことはなにも言わなかった。
「知ってます? 瑞希くん、保育園のママ達のあいだで人気なんですよ」
「え?」
「あまり話さないけど、見せる笑顔が素敵だって」
それは自分自身も思っていたことだ。
ふっと落とすように笑う顔には、どこか影をも感じさせられる。
なにかを抱えているような瞳や笑顔が、更に心を引き寄せるんだ。
その〝なにか〟を知りたいとは思うけど、側にいられればそれでいい。
もっと笑ってほしい、もっと幸せそうに、楽しそうに笑ってる顔が見たい。
「私も、瑞希くんはとても魅力的な人だと思います」
そう言ってしまった後で恥ずかしくなって、また静かに牛丼を口に運んだ。
ふっと視線が絡まるとドキドキと鼓動がすごい速さで脈打ち始め、はにかむように笑った。
***
瑞希は自分が食べ終わった後も、菜花が終わるのを待っててくれた。
急かすこともスマートフォンで時間を潰すこともなく、他愛ない話をしながら菜花が食べるのを満足そうに見ていた。
そんな些細なことでも、心が引っ張られて止まらない。
「まだ時間大丈夫ですか?」
お店を出た後でそう聞かれて、驚くと同時に嬉しかった。
てっきりご飯だけだと思っていたから、彼がすぐに別れようとしないことに心が躍った。
「菜花先生、どこか行きたいところとかありますか?」
「…いえ、瑞希くんと一緒なら、どこでも嬉しいです」
気持ちが舞い上がってるせいか、余計なことまで口走ってしまった。
言ってしまった後ではもう取り消すこともできず、顔を赤くさせるだけだった。
「…じゃあ、適当にぶらぶら散歩でもしましょうか?」
菜花は口元を緩めて嬉しそうに微笑んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる