6 / 9
6.マイロのその後④
しおりを挟む
「あ! 商会長! 俺だ! グランブスト伯爵だ! あんたに話があるんだ! 少し時間をくれ!」
数人の従業員に宥められていたマイロが、ヨゼスの姿を見つけてそう叫んだ。
「……仕方ないですね。奥の応接室へどうぞ」
ヨゼスに案内されて、マイロは応接室に入るなり、すぐに用件を訴える。
「あの宝石! クズ宝石じゃないか! あんな宝石の原石を高値で契約させるなんて、それでも大手の商会なのか⁉︎ 今すぐ独占契約の破棄を申し立てる!」
そう言い切ったマイロに、ヨゼスは小馬鹿にしたような態度でゆったりとソファに座った。
「あの契約は、貴方から独占契約がしたいと申し立てたから行ったもの。あの宝石を貴方が手に取って確認したではありませんか。
それを勝手に契約の破棄とは……ではこちらは、契約不履行で損害賠償請求を申し立てましょう」
ヨゼスからそう言われて、マイロは顔色を悪くする。
「ま、待ってくれ。あんまりじゃないか。あの宝石に希少価値があると言ったのは、あんただろう? 俺はそれを信じたんだぞ? 何年も取引をしている相手を騙すなんて酷いじゃないか」
真っ青な顔色をしながらそう訴えるマイロに、ヨゼスはほとほと呆れていた。
「何故こちらが悪いと? 品物の鑑定をするのは当然の事。目利きの鋭いミラ様でさえ、宝石にはより注意深くルーペを使用しながら鑑定を行なっていました。
ミラ様と取り引きをする上で、我々はみんなミラ様と勝負をしていたのですよ。
ミラ様が我々が持ち込んだ粗悪品を当てられたらミラ様の勝ち。その時はいい品を安く提供する。そして当てられなかった時は、我々の勝ちとして、その粗悪品を言い値で買い取ってもらうというね。
毎回勝負しましたが、ミラ様には一度も勝てなかった。
でも、そこがまた楽しくて。
他の商人達も皆一様に同じ勝負をしていましたよ。だから随分と伯爵家は美味しい思いが出来たはずだ。ミラ様のおかげでね。
でも、ミラ様がいない伯爵家では、もう他の商人達も寄り付かなくなるでしょうね。
物の価値も全くわからず、見せかけばかりで中身を知ろうともしない貴方が跡を継いで、ミラ様以外の女を早々に迎え入れておられるから」
そう言ったヨゼスに、マイロは無性に腹が立って、掴みかかろうとした。
しかし、すぐに従業員たちに取り押さえられる。
「お前達! 俺が誰だか分からないのか! 伯爵の俺にこのような仕打ちをしてタダで済むと思うなよ!」
そう叫ぶマイロに、執事の格好をした従業員の一人が呆れたように話す。
「貴方こそ、誰に掴み掛かろうとしたのです?
この方は、商会長であると同時に、ハルマス王国で侯爵位を賜っております。
そして、この度こちらの国には、親善大使としても招かれているのですよ?
貴方の行いは、国同士の交流に水を差す行為として報告させて頂きます」
その説明にマイロはびっくりする。
身体中から噴き出る冷や汗を感じながら、恐る恐るヨゼスを見ると、ヨゼスは冷ややかな目で、マイロを見下ろしていた。
「も、申し訳ございません! そのような大役をされている方とは知らず、大変なご無礼を!
謝罪致しますので、どうか報告するのはご容赦ください!」
マイロは取り押さえられている者たちの手を振り払い、土下座しながらそう訴えた。
その姿を見ながら、ヨゼスは溜め息を吐く。
「お立ちなさい。こちらも事を荒立てる事は望んでいない。謝罪は受けよう」
ヨゼスの言葉に、マイロはホッと息を吐き立ち上がる。
そんなマイロを横目に、ヨゼスは一枚の書類を渡してきた。
「あの石の独占契約を解除する書類だ。もちろん損害賠償として向こう3ヶ月分の金額を支払ってもらうがね」
ヨゼスの言葉に、マイロは力無く頷く。
「不服か?」
ヨゼスにそう聞かれて、慌ててマイロは首を横に振り、
「とんでもございません! 有難う御座います!」
と、慌ててその書類にサインした。
「では、お引き取り願おう」
ヨゼスの言葉に、マイロは従業員たちに部屋から出された。
「あれで伯爵ですか。
書類の中身を確認する事なくサインするなんて、なんて迂闊な男なのでしょう」
ヨゼスの執事であるサウザーが、呆れたようにそう言った。
「まぁ、そう言うなサウザー。あんな男だからこそ、ミラ様の価値が分からずに白い結婚で離縁したのだからな」
「全くでございますね」
そう言って二人は満足気に笑った。
数人の従業員に宥められていたマイロが、ヨゼスの姿を見つけてそう叫んだ。
「……仕方ないですね。奥の応接室へどうぞ」
ヨゼスに案内されて、マイロは応接室に入るなり、すぐに用件を訴える。
「あの宝石! クズ宝石じゃないか! あんな宝石の原石を高値で契約させるなんて、それでも大手の商会なのか⁉︎ 今すぐ独占契約の破棄を申し立てる!」
そう言い切ったマイロに、ヨゼスは小馬鹿にしたような態度でゆったりとソファに座った。
「あの契約は、貴方から独占契約がしたいと申し立てたから行ったもの。あの宝石を貴方が手に取って確認したではありませんか。
それを勝手に契約の破棄とは……ではこちらは、契約不履行で損害賠償請求を申し立てましょう」
ヨゼスからそう言われて、マイロは顔色を悪くする。
「ま、待ってくれ。あんまりじゃないか。あの宝石に希少価値があると言ったのは、あんただろう? 俺はそれを信じたんだぞ? 何年も取引をしている相手を騙すなんて酷いじゃないか」
真っ青な顔色をしながらそう訴えるマイロに、ヨゼスはほとほと呆れていた。
「何故こちらが悪いと? 品物の鑑定をするのは当然の事。目利きの鋭いミラ様でさえ、宝石にはより注意深くルーペを使用しながら鑑定を行なっていました。
ミラ様と取り引きをする上で、我々はみんなミラ様と勝負をしていたのですよ。
ミラ様が我々が持ち込んだ粗悪品を当てられたらミラ様の勝ち。その時はいい品を安く提供する。そして当てられなかった時は、我々の勝ちとして、その粗悪品を言い値で買い取ってもらうというね。
毎回勝負しましたが、ミラ様には一度も勝てなかった。
でも、そこがまた楽しくて。
他の商人達も皆一様に同じ勝負をしていましたよ。だから随分と伯爵家は美味しい思いが出来たはずだ。ミラ様のおかげでね。
でも、ミラ様がいない伯爵家では、もう他の商人達も寄り付かなくなるでしょうね。
物の価値も全くわからず、見せかけばかりで中身を知ろうともしない貴方が跡を継いで、ミラ様以外の女を早々に迎え入れておられるから」
そう言ったヨゼスに、マイロは無性に腹が立って、掴みかかろうとした。
しかし、すぐに従業員たちに取り押さえられる。
「お前達! 俺が誰だか分からないのか! 伯爵の俺にこのような仕打ちをしてタダで済むと思うなよ!」
そう叫ぶマイロに、執事の格好をした従業員の一人が呆れたように話す。
「貴方こそ、誰に掴み掛かろうとしたのです?
この方は、商会長であると同時に、ハルマス王国で侯爵位を賜っております。
そして、この度こちらの国には、親善大使としても招かれているのですよ?
貴方の行いは、国同士の交流に水を差す行為として報告させて頂きます」
その説明にマイロはびっくりする。
身体中から噴き出る冷や汗を感じながら、恐る恐るヨゼスを見ると、ヨゼスは冷ややかな目で、マイロを見下ろしていた。
「も、申し訳ございません! そのような大役をされている方とは知らず、大変なご無礼を!
謝罪致しますので、どうか報告するのはご容赦ください!」
マイロは取り押さえられている者たちの手を振り払い、土下座しながらそう訴えた。
その姿を見ながら、ヨゼスは溜め息を吐く。
「お立ちなさい。こちらも事を荒立てる事は望んでいない。謝罪は受けよう」
ヨゼスの言葉に、マイロはホッと息を吐き立ち上がる。
そんなマイロを横目に、ヨゼスは一枚の書類を渡してきた。
「あの石の独占契約を解除する書類だ。もちろん損害賠償として向こう3ヶ月分の金額を支払ってもらうがね」
ヨゼスの言葉に、マイロは力無く頷く。
「不服か?」
ヨゼスにそう聞かれて、慌ててマイロは首を横に振り、
「とんでもございません! 有難う御座います!」
と、慌ててその書類にサインした。
「では、お引き取り願おう」
ヨゼスの言葉に、マイロは従業員たちに部屋から出された。
「あれで伯爵ですか。
書類の中身を確認する事なくサインするなんて、なんて迂闊な男なのでしょう」
ヨゼスの執事であるサウザーが、呆れたようにそう言った。
「まぁ、そう言うなサウザー。あんな男だからこそ、ミラ様の価値が分からずに白い結婚で離縁したのだからな」
「全くでございますね」
そう言って二人は満足気に笑った。
572
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』
ふわふわ
恋愛
了解です。
では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。
(本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です)
---
内容紹介
婚約破棄を告げられたとき、
ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。
それは政略結婚。
家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。
貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。
――だから、その後の人生は自由に生きることにした。
捨て猫を拾い、
行き倒れの孤児の少女を保護し、
「収容するだけではない」孤児院を作る。
教育を施し、働く力を与え、
やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。
しかしその制度は、
貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。
反発、批判、正論という名の圧力。
それでもノエリアは感情を振り回さず、
ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。
ざまぁは叫ばれない。
断罪も復讐もない。
あるのは、
「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、
彼女がいなくても回り続ける世界。
これは、
恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、
静かに国を変えていく物語。
---
併せておすすめタグ(参考)
婚約破棄
女主人公
貴族令嬢
孤児院
内政
知的ヒロイン
スローざまぁ
日常系
猫
『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』
鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」
――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。
理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。
あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。
マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。
「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」
それは諫言であり、同時に――予告だった。
彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。
調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。
一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、
「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。
戻らない。
復縁しない。
選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。
これは、
愚かな王太子が壊した国と、
“何も壊さずに離れた令嬢”の物語。
静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。
【完結】運命の赤い糸が見えるようになりまして。
櫻野くるみ
恋愛
伯爵令嬢のアリシアは目を瞬かせていた。
なぜなら、突然赤い糸が見えるようになってしまったからだ。
糸は、幼馴染のジェシカの小指からびろーんと垂れていて——。
大切な幼馴染のために、くっつけおばさん……もとい、くっつけ令嬢になることを決意したアリシア。
自分の小指に赤い糸が見えないことを気にかけつつも、周囲の幸せのために行動を始める。
すると、アリシア本人にも——?
赤い糸が見えるようになったアリシアが、ハッピーエンドを迎えるお話です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』
ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。
現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる