【完結】白い結婚が成立した女神の愛し子は、隣国で狼に狙われる

らんか

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6.マイロのその後④

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「あ! 商会長! 俺だ! グランブスト伯爵だ! あんたに話があるんだ! 少し時間をくれ!」

 数人の従業員に宥められていたマイロが、ヨゼスの姿を見つけてそう叫んだ。

「……仕方ないですね。奥の応接室へどうぞ」

 ヨゼスに案内されて、マイロは応接室に入るなり、すぐに用件を訴える。

「あの宝石! クズ宝石じゃないか! あんな宝石の原石を高値で契約させるなんて、それでも大手の商会なのか⁉︎ 今すぐ独占契約の破棄を申し立てる!」

 そう言い切ったマイロに、ヨゼスは小馬鹿にしたような態度でゆったりとソファに座った。

「あの契約は、貴方から独占契約がしたいと申し立てたから行ったもの。あの宝石を貴方が手に取って確認したではありませんか。
 それを勝手に契約の破棄とは……ではこちらは、契約不履行で損害賠償請求を申し立てましょう」

 ヨゼスからそう言われて、マイロは顔色を悪くする。

「ま、待ってくれ。あんまりじゃないか。あの宝石に希少価値があると言ったのは、あんただろう? 俺はそれを信じたんだぞ? 何年も取引をしている相手を騙すなんて酷いじゃないか」

 真っ青な顔色をしながらそう訴えるマイロに、ヨゼスはほとほと呆れていた。

「何故こちらが悪いと? 品物の鑑定をするのは当然の事。目利きの鋭いミラ様でさえ、宝石にはより注意深くルーペを使用しながら鑑定を行なっていました。
 ミラ様と取り引きをする上で、我々はみんなミラ様と勝負をしていたのですよ。
 ミラ様が我々が持ち込んだ粗悪品を当てられたらミラ様の勝ち。その時はいい品を安く提供する。そして当てられなかった時は、我々の勝ちとして、その粗悪品を言い値で買い取ってもらうというね。
 毎回勝負しましたが、ミラ様には一度も勝てなかった。  
 でも、そこがまた楽しくて。
 他の商人達も皆一様に同じ勝負をしていましたよ。だから随分と伯爵家は美味しい思いが出来たはずだ。ミラ様のおかげでね。
 でも、ミラ様がいない伯爵家では、もう他の商人達も寄り付かなくなるでしょうね。
 物の価値も全くわからず、見せかけばかりで中身を知ろうともしない貴方が跡を継いで、ミラ様以外の女を早々に迎え入れておられるから」

 そう言ったヨゼスに、マイロは無性に腹が立って、掴みかかろうとした。
 しかし、すぐに従業員たちに取り押さえられる。

「お前達! 俺が誰だか分からないのか! 伯爵の俺にこのような仕打ちをしてタダで済むと思うなよ!」

 そう叫ぶマイロに、執事の格好をした従業員の一人が呆れたように話す。

「貴方こそ、誰に掴み掛かろうとしたのです?
 この方は、商会長であると同時に、ハルマス王国で侯爵位を賜っております。
 そして、この度こちらの国には、親善大使としても招かれているのですよ?
 貴方の行いは、国同士の交流に水を差す行為として報告させて頂きます」

 その説明にマイロはびっくりする。
 身体中から噴き出る冷や汗を感じながら、恐る恐るヨゼスを見ると、ヨゼスは冷ややかな目で、マイロを見下ろしていた。

「も、申し訳ございません! そのような大役をされている方とは知らず、大変なご無礼を!
 謝罪致しますので、どうか報告するのはご容赦ください!」

 マイロは取り押さえられている者たちの手を振り払い、土下座しながらそう訴えた。
 その姿を見ながら、ヨゼスは溜め息を吐く。

「お立ちなさい。こちらも事を荒立てる事は望んでいない。謝罪は受けよう」

 ヨゼスの言葉に、マイロはホッと息を吐き立ち上がる。
 そんなマイロを横目に、ヨゼスは一枚の書類を渡してきた。

「あのの独占契約を解除する書類だ。もちろん損害賠償として向こう3ヶ月分の金額を支払ってもらうがね」

 ヨゼスの言葉に、マイロは力無く頷く。

「不服か?」

 ヨゼスにそう聞かれて、慌ててマイロは首を横に振り、
「とんでもございません! 有難う御座います!」
 と、慌ててその書類にサインした。

「では、お引き取り願おう」

 ヨゼスの言葉に、マイロは従業員たちに部屋から出された。

「あれで伯爵ですか。
 書類の中身を確認する事なくサインするなんて、なんて迂闊な男なのでしょう」

 ヨゼスの執事であるサウザーが、呆れたようにそう言った。

「まぁ、そう言うなサウザー。あんな男だからこそ、ミラ様の価値が分からずに白い結婚で離縁したのだからな」

「全くでございますね」

 そう言って二人は満足気に笑った。
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