【完結】運命の宝玉~悪役令嬢にはなりません~

らんか

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歳月の流れ編~

58.溢れる感情

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「そ……んな……。グレイが死んだって事?」
 
 
 
 自分で自分の言葉に傷ついて涙が溢れた。
 
 いつも飄々として、全然熱血な風じゃなかったのに。
 こんな風に自分の命を懸けて皆を守るようなキャラじゃなかったでしょ?
 なんでそんなに格好つけた事したのよ。
 そりゃ、あの時は誰も動けなかったけど、でもグレイ1人が犠牲にならなきゃいけなかった事?
 
 
「ラケシス様! 元はと言えば、あなたがちゃんと宝玉の管理をしていなかったから!
 いいえ! それよりも、アリアの魂をあんな人に渡したりしなかったら、こんな事にはならなかった!」
 
 
 相手は女神様である事も忘れ、ラケシス様を罵倒する。
 グレイを失って、どうしようもないこの虚無感を誰かにぶつけなければ、おかしくなりそうだった。
 
 
 
 
『エマ、ごめんね。
 私が不甲斐ないばかりに、貴女にもグレイにも、レイラにだって迷惑ばかり掛けちゃったよね。女神として駆け出しだったとはいえ、今回の件は自分でも本当に駄目だったって自覚はあるの』
 
 
 ラケシス様が謝ってくれているけど、心にどうにも響かない……。
 グレイともう二度と会えないんだと思っただけで、気が遠くなりそうになる。
 
 もはや依存レベルでグレイが傍に居てくれないと落ち着かなくて……。
 
 
 
 私、グレイの事、好きだったのかな……。
 
 ううん。好きなんて言葉では当てはまらないくらい、自然に当たり前のように存在する人だったから。
 
 まだラケシス様が何か言ってるけど、全く耳に入ってこない……
 
 
『でね。原子レベルまで散りばったグレイの霊魂の核を集めたら、また蘇生出来るのではないかなって』
 
 
 ん?
 
 
『凄く時間はかかるだろうけど、やってみる価値はあるのかもしれないって、ディオーネ様とも話してて』
 
 
 は?
 
 
「そ、そそそ、それって、グレイが甦るって事ですか!?」
 
 
『あら。急に元気になったわね』
 
 
「答えて下さい! グレイは甦るのですか!?」
 
 
 私はまたラケシス様の襟首を持って、強く尋ねる。
 
 
『だから、力が強いってば~!』
 
 
 ラケシス様からそう言われてハッとして手を離す。
 
「ごめんなさい」
 
『いいわよ。そうさせたのは私だものね』
 
 
 そう言ってラケシス様は真剣な表情で私を見た。
 
 
『確実に甦らせる事が出来るかどうかは分からないの。それこそ神業の中でも最上級レベルの難しさだから。
 でも、やらなきゃ申し訳なくて、私この先、女神を続けていくことなんて出来ないわ』
 
 
 そう言って、にっこりと私を見て微笑む。
 
『だから、エマにも協力をしてほしいの』
 
「協力?」
 
『そう。この神業は、人の想いが重要となってくるの。人の想いは奇跡を呼ぶわ。その奇跡が霊魂の核を集めやすくする』
 
 
 奇跡……。
 きっと、それはとてつもなく不可能に近いレベルの難しさなのだろう。
 
 でも、ラケシス様は真剣にそれをやろうとしてくれている。
 
 ディオーネ様も手伝ってくれる。
 
 なら、私も全力で協力しなきゃ!
 
 グレイを想う気持ちは誰にも負けない自負がある。
 
 どれくらいかかる分からないけど、私はずっとグレイを待つわ。
 
 
「ラケシス様! 私、全力でグレイを想って奇跡を呼びます!」
 
 
『ええ。頼んだわよエマ。
 さぁ、そろそろ下界に帰らなきゃ。
 貴女まで死んだと思われちゃうわよ』
 
 
 そんなダークな冗談を言って、私を送り出してくれる。
 
 
「ありがとうございます。ラケシス様。
 グレイの事、よろしくお願いします」
 
 
 私はラケシス様にそう言って、目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 次に目を開けると、そこは何処かの豪華な部屋で……。
 
「あっ! エマ様! 気が付かれましたか!?」
「良かった! 目覚めなければどうしようかと思ったわ」
 
 私が横たわっているベッドの側に、レイラとセリーヌが半泣き状態で私を見ていた。
 
 
「レイラ。セリーヌ。心配かけてごめんね」
 
 
 そう言って、私はベッドから上半身を起こした。
 
「もう大丈夫なの!? お城で倒れたって聞いてびっくりしたんだから!」
 
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「うん、もう大丈夫。ありがとう、セリーヌ」
 
 私がそう言うとセリーヌは嬉しそうに笑う。
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「レイラ? 何故そんなに小さくなってるの?」
 
「だって……グ……幻獣様が私のせいで……」
 
 
 セリーヌはグレイと幻獣が同一だとは知らない。グレイが居ない今は、伝えるのは控えた方がいいだろう。
 
 
「バカね。貴女のせいじゃないって、何度も言ってるでしょ? それに、希望は捨てないことにしたの」
 
「希望?」
 
「そう。またいつか私の前に現れてくれるっていう希望」
 
 
 私のその言葉にレイラは頷く。
 
 
「そうですね。幻獣様はきっとすぐに戻ってきてくれますよ。なんたって女神様がついていますもんね」
 
 
 その言葉にセリーヌも食い付いてくる。
 
 
「あ! 聞いたわ! あの爆発、本当はもっと大きなものだったんでしょう? でも幻獣様が身を呈して私達を守って下さったとか!
 街や各領地なども、まだめちゃくちゃだけど、人的被害が少なかったのは幻獣様のお陰だって、王国中で噂になってるわ!
 2人はその幻獣様にお会いしたのよね?
 いいなぁ! 私も会ってみたかった!」
 
 
 
 うん、セリーヌ。会ってるよ。
 それこそ学園で毎日のようにね。
 
 この事はグレイが帰ってきた時のお楽しみにしてもらおう。
 
 
「だから、セリーヌもレイラも、幻獣様がまた帰って来れるように祈ってほしいの。
 人の想いは奇跡を呼ぶそうよ」
 
 
 私はそう言って2人にもお願いした。
 1人でも多くの想いが集まれば、それだけ早くグレイが帰ってきてくれる気がするから。
 
 
「任せて! 他の人にも願ってもらうわ!
 だって、幻獣様を見た人が幻獣様はとても愛らしかったって言っていたのよ!
 絶対にお目にかかりたいもの!」
 
 
 セリーヌが力強くそう語っている。
 
 愛らしい?
 
 ふふっ。
 グレイと幻獣が同じだと知った時のセリーヌが早く見てみたいわ。
 きっと、愛らしいなんて言った人に凄く怒りそう。
 
 
 グレイ。
 これからもあなたを願う人は増えてくるからね。
 だから早く帰ってきてね。
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