ツンデレ更生AI

切羽未依

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校正AI

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 本文に登場する校正AIは、アルファポリス様の校正AIとは一切関係ありません


 つやつやの黒髪は、伸びかけで、結べるほどの長さに、ちょっと足らなくて、下ろしてるのが、さらさら流れるのが、萌え。
 隣に座ってると、俺の座高が高すぎるので、顔を見れないのが、|残念(ザ~ンネン)。
 青っぽい黒いスーツは、めっちゃ速く泳げそうな魚のヒレみたいなえりが、カッコ
 きっちり締めた、細い青いネクタイは、よ~く見ると、ち~っちゃな泡みたいな水玉が、散らばってる。


 はるの細い指が、ぱたぱた、ノートパソコンのキーボードを打つ。
「死ね バカ 消えろ」
 うわ~お。いきなし誹謗中傷ワード!!!
 そして、校正ボタンを押す。
 画面から誹謗中傷ワードは消え失せて、
「誹謗中傷にあたる表現は投稿できません」
 って、表示された。

 俺は、晴の隣から手を伸ばして、キーボードを、ぱたぱた、打つ。
「ちび」
 って打った時点で、テーブルの下、晴に足を蹴られた。DVでちゅ~。俺は負けずに続きを入力する。
「知ったかぶり」
 晴に、ぎゅむ~っと、足を踏まれても負けず、俺は打ち続ける。
「うんち」
「運痴」って打ちたいのに、変換候補に、出て来ねえぞ。うんちマークは出て来んのに。仕方ないので、変換を分けて、「運」で確定させて、「痴」が、なかなか出て来ねえなあ…あ、あった。
「ちび 知ったかぶり 運痴」
 そして、校正ボタンを押す。晴、ぎゅむっと、俺の足を踏み込むのと、シンクロさせないで~。

 画面から、俺が入力したワードは消え失せて、
「小柄 知識先行 体を動かすことが得意な方ではない」
 って、表示された。
「ぅぶぶ」
 笑いのツボ笑(わら)ツボ浅々あさあさの晴が、校正された自分のキャラ説明で、ウケる。

「小柄」って読み方もわかんない、おバカな俺は、「小」って字が入ってるのに、晴的にOKなの?と思う…

 晴が、また、ぱたぱた、キーボードを打つ。
 俺をディスって来るのを覚悟してたら、
「タヒね コ〇ス」
 お。よく知ってんね~、誹謗中傷ワード。

 晴は、校正ボタンを押すと同時に、俺の足を、ぎゅむっと踏み込む。
 俺の足踏みボタン、気に入ったらしい…
 晴に全体重かけられたとしても、痛くないけどね。

 画面から、晴が入力したネットスラングは消え失せて、
「誹謗中傷にあたる表現は投稿できません」
 って、表示された。
 校正AI、そーゆーワードも学習してんだ。


「現在でも、そういう直接的な誹謗中傷は、投稿できない仕様になっていますが、校正AIの導入で、誤字脱字の訂正、誹謗中傷にあたる表現の言い換えをおこないます」
 苦笑くしょう気味ぎみで、ご担当様に言われた。


 日本での仕事始めは、俺たちsecureセキュアの公式SNSを運用してくれる大手広告代理店の子会社の方々かたがたと、リアル打ち合わせです。

 ご担当者様とは、リモートでは何度か、話したことあったけど、リアルでは初めて会って、意外と、背が高くて、びっくりした。公称165cmの晴より、ハイヒールの高さを抜いたとしても、確実に高いと思う…

 炎上、こわいんで、公式SNSは、プロのかたに運用してもらってます。
 こっちからは、出演情報とか写真とか動画とか、素材を提供して、加工・編集してもらって、SNSに上げてもらってる。
 「加工」って、顔じゃないよ!映っちゃいけないものが、映った時。ありがちなのは、スタッフ様とか他の出演者様とか映り込んじゃったのと、俺らがCMやってるメーカーさん食べ物・飲み物が映っちゃった時な。
 スマホのCMでもやってるけど、ほんと消去技術、パない。


「校正AI」の導入の説明を聞いてて、俺は気になって気になって、しょーもないことがあって、説明が終わって、やっと聞いた。
「そこのかたは、どうして、いるんですか?同じ子会社でも、ちがう子会社ですよね?」
 俺の斜め前に座ってる灰色スーツ野郎に、俺は言った。

想太そうたくん、人前で、ほんと、それ、やめなさい」
 しまった!晴の隣に座ってるマネージャーの森野さんに、怒られちゃった!ちゃんと敬語で言ったのに!
「や~い、や~い、怒られたぁ~」って顔で、にやにやする灰色スーツ野郎・有生ありうが、さらにムカつく!!


 すっと、有生がイスを立った。あ゛?やんのか、こら。俺もイスを立とうと、
「ご不快に思われましたら、誠に申し訳ありません」
 有生は、オサレなナチュラルヘアの頭を下げて、上げた。
「想太さんと晴さんとは、高校の同級生なんです。どうしても、こういうノリになってしまいまして。」
 俺は、上げかけたおちりを、イスに着地。
「本日は、校正AIのマーケターとして、同席させていただいています」
「マーヌケー?」
「マーヌケー?」
 奇跡が起きた!!俺と晴が同じことを同時に聞き返す、愛の合唱ハーモニー

 失笑が、ラウンドテーブルを囲む皆々様に巡る。
「スベリもしない、ウケもしない、一番、ずいヤツだぞ、おい」
 有生がツッコミつつ、ひゅるる~んと、座った。

「質問してよろしいでしょうか」
 晴が何にも言わなかったようなツラしやがって、手を上げた。
「今後は、全て、この校正AIを通してから、アップロードされるという認識で、よろしいですか?」
「校正AIの使用に、ご同意をいただければ、そうなります。ただ、最終的なアップロードの可否については、人間が行ないます」
 ご担当者様が、すらすら、答えた。


 俺は、晴の横顔、チラ見。
 晴は、AI否定派なんだよね~。
 同意しないのかな~?


「こちらが提供した文章や画像や映像は、AIの学習に使用されるのでしょうか?」
 晴が質問する。
 ぬ!それは、よくないぞ!!
『美少年』
 って、AIに入力したら、まんま、無許可に晴の画像が出力されるなんて、許さないからな!!俺が!!

「同意書にも明記していますが、校正した対象を、この校正AIの学習に使用することはありません」
「『この』?」
 晴様が、重箱のすみっこを、ほじくり始めたぞ!!
 有生も気付いて、斜め下を向いて、笑いをこらえている。

「はい」
 ご担当者様は、ほじくられてることを気付かずに、フツーに答えた。
「他のAIの学習には、使用されるんですか?」
 晴が、丁寧に質問し直して、ほじくる。
「えーと…」
 ご担当者様が、下を向き、タブレットケースに立て掛けたタブレットを、しゅんしゅん、スクロールする。
 ほんと、すんません。こまいヤツで。

「そのご質問に関しては――調べまして、回答いたします」
 あせった声で、ご担当者様が言う。
 ご担当者様の隣に座ってる、エラそうなひと2人も、眉根寄せて、こっちに聞こえないように、小声で、耳打ちし合ってるがな。

「よろしくお願いいたします」
 晴は、少し頭を下げた。
 晴は、それ以上は質問せず、公式SNSの運用の契約は事務所がしてるんで、同意書のデータを、森野さんのノートパソコンにダウンロードして、おしまい。

「こちらからも、質問、よろしいでしょうか?」
 有生ありうが小さく手を上げた。
「よろしいわけねえだろが!」と、俺は心の中で言い返す。リアルに言い返すと、また森野さんに怒られるので。

「この質問のご回答については、個人名や御社名とは紐付ひもづけされずに、記録されます。この校正AIの開発にのみ使用されて、他の目的には、使用されません。趣旨しゅしに、ご同意いただけなければ、ご回答いただかなくても、かまいません」
「てめえ、自分の前のノートパソコノーパンの画面に表示されてる文章、読んでるだけだろうが。てめえで、てめえの言ってることの意味わかってねえよな?」と、俺は心の中で以下同文。

「生成AIについて、どう感じていますか?」
「『感じて』」
 晴が、その言葉の意味をわかんないような感じで、オウム返しした。そして、ふっと笑った。
 俺は戸惑う。晴が、有生ごときの質問の意味を理解できないわけがなく、おまけに、笑った理由がわかんなかった。

「その質問の仕方って、有生くんが考えたんですか?」
 晴が聞く。「有生如きに、敬語なんて使わなくていいんだよ」と、俺は心の中で以下同文。
「いや、うちのブラック上司が考えた」

 有生の答えに、SNSご担当者様の隣に座ってる、エラそうなひと2人がいた。
「いや、すみません」
「どうぞ、続けてください」
 口々に言ったけど、口に手を当てたり、拳を当てたりして、完全にウケてる。


「『感じて』かぁ…」
 晴が言いながら、背もたれにもたれて、背を伸ばす。
 俺の頭の中、ブルース・リーが『Don‘t think,Feel』と言ってます。映画、見たことないけど。

「ぼくの担当教授がおっしゃられるには、AIは『借りパクソ野郎』だそうです」
「晴~。それ、記録していいの?」
 む!有生如きが、晴を呼び捨てして、敬語も使わずに聞き返す。
「俺の名前は、記録されないんだろ?」
「そうだけど。『借りパクソ野郎』ね。記録した。」
「現在の生成AIは、広大なネットに人間が入力した知識を、あたかも自分の知能に見せかけて出力しているだけだと、ぼくの担当教授は、おっしゃられていました。ぼくも、そう感じます」
 晴が、有生のタイピング速度に合わせて、ゆっくり、言う。

「こういう単純なチェックに用いるのは、生成AIは最適だとは思います。ただ、やはり、文章や画像や映像の投稿可否まで、生成AI任せにされるのは、抵抗がありますね。たとえば、うーん、バズるポストを学習して、『暴力的な言葉がバズる』と、生成AIが学習してしまったら、逆に、暴力的な言葉に校正されることも、有り得るわけですよね?」
「晴、言葉が長い~」
 有生がギブアップ。

「生成AIを単純なチェックに使用することは賛成。投稿可否の判断までは認められない。誤った学習で、誤った校正をされないか不安。」
 パパッと、晴が箇条書きで要約する。こーゆーとこ、うっとりしちゃうくらい、晴ちゃん、かしこくって、だいちゅき~。

 他の人たちも、尊敬の眼差しで、晴を見てる。俺の晴、最高でしょっ!!と、うれしくなってしまう。

 有生は打ち終わると、ノーパから顔を上げた。
「一応、聞くけど、想太は?」
「一応かよっ!」
「想太くん。」
 またマネージャーの森野さんに、怒られちった。

 一応、聞かれたので、俺も答える。
「便利だけど、やっぱ、絵とか映像とか、作らせるのは、どうかなと思う。『AIが作りました』って、明記するべきだよね。あ、あと音楽とか。AI俳優とか。」
「仕事なくなっちゃうもんな」
「それもそうだけど。晴の答えとも重なるかもだけど、結局、それも過去の絵とか音楽とか演技とか、パクってるわけだよね?ナントカふうのイラストとか、俺は、めっちゃ気持ちわりい」
「あ~、わかるわかる」
「そうそうそう」
 有生と俺は、うなずき合う。


 その後は、secureの1stファーストフルアルバムの(最初に出したアルバムは、『デビューミニアルバム』だそうです)、SNSでの宣伝と、初ツアーのチケット販売の、SNSとの接続の打ち合わせ。
 知らない人が、俺らサイドに座ってると思ってたら、音楽制作会社のプロモーションのご担当者様と、チケット販売会社のご担当者様だった。
 マジで、俺たち、リアルライブ、やるんだな~…
 知らないうちに、すんげ~(K)カッケー、ツアーロゴができてて、マジ、ビビった。
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