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しおりを挟むブルーな感情を持て余したまま、俺は膝を抱えてソファに横に転がった。
目の前の視界が一瞬だけ傾斜の曲線を描く。ソファ前に置かれた電源オフの暗いテレビ画面を見つめながらふと、隅にある段ボールに視点が止まった。
「……“みそコーンチャウダー”…」
段ボールに書かれた文字を口に出してぽつりと呟く。
「──…あれ、もしかしてこの間のマリオのオファーのヤツ?」
「ああ」
「なんか旨そうじゃん、食べていい?」
「ああ、ついでに俺の分も頼む」
昼をだいぶ過ぎてから小腹が空いた。チャウダーってクラムチャウダー風味ってことだろ?
貝の風味たっぷりってイメージでつい口に唾が溢れる。
俺はまだ閉じられていた段ボールを開けてインスタントのカップ麺を二つ手にすると、ポットのお湯を注いでひとつを社長のデスクに置いてやった。
麺はバリ堅派の俺だ。
ソファに戻り、一分を待たずにまだ固まったままの麺を無理矢理ほぐすと、俺は片手間でテレビのリモコンを操作する。
ほぐしきれず少し絡まったままの麺を口に運び一啜りすると俺は明るくなったテレビ画面を向いて思いっきり噴き出していた──。
・
「あ──…シマッタ…」
俺がテーブルを汚すと同時に社長の口からそんな言葉が漏れて俺を見る。
「なんだよこれっ!?」
汚れた口回りをティッシュで拭いながら目が合った社長を俺は咄嗟に責めていた。
「ちっ…しょうがねえな…」
何がしょうがねえんだ!?
社長の呟きに視線だけで返す。頭を掻きながら気まずい表情を浮かべる社長とテレビ画面を俺は交互に見ていた。
社長が先程まで視ていたのだろう。テレビに挿入されたままのディスクが作動して画面の中では短いストーリーが繰り返し流れる──
たぶん、それはこの間撮ったこのカップラーメンのCMだ。
オレンジ色と影で彩られたモノトーン。薄暗い夕焼けの景色に囲まれて、何かの上に二人仲良く腰を下ろして笑い合う映像がアップになっている。
ファー付きのモコモコとしたフードに小さな顔を包まれて、めちゃめちゃ素のままの可愛い笑顔でマリオと見つめ合う俺の恋人。
ショートバージョンのCMが流れたあとから、少しストーリーを変えたらしいロングバージョンのCM映像が流れていた。
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