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しおりを挟む「お、手際いいな…」
マスターのそんな声が聞こえてきていた。
「料理得意か?」
「はい、結構。家で自炊します」
「それはまた…」
マスターが感心した目を夏希ちゃんに向けている。
カメラは卵を解きほぐす夏希ちゃんの手元をしっかりと映していた。
今日のランチメニューは和らぎ特製オムライス。
当店の看板メニューだ。
あたしさえまだまだ作らせて貰えない料理を夏希ちゃんは任されている。
「やばいな…教えることがない……」
呟いて苦笑うマスターがアップでカメラに撮られている。
火加減や卵の返し方。何をやらせても夏希ちゃんは軽くこなしていく…
あたしはその腕を見て少し嫉妬した。
上手い…
匠だ。
家で料理の技は何度か見た。炒飯の腕を知ってるけどオムライスはまだ作ってもらったことがないっ!
「晶、見てみろ! これが金取れるオムライスだ。ははっ!お前より上だな」
「……っ!…」
こらこら、全国放送でなんてことをっ!?…
焦って熊のADにカットするように目配せすると、あろうことか、ニヤニヤしながら手を拝むように合わせて頭を提げる。
「ははっ、俺、番組的に絶対今のは使うと思う」
笑いながらそう口にした夏希ちゃんと、キョドってカメラを探すあたしに背後から一台のカメラがしっかり向けられていた。
四つのオムライスを手早く作り、マスターがその試食を一口ずつしていく。
「うん、見たままだな」
マスターは頷くとあたしにオムライスの皿を渡した。
・
夏希ちゃんはあたしがそれを味見する姿を見つめている。
「……うん。お金取れる…」
「……っ…」
ポツリ呟いたあたしに夏希ちゃんは嬉しそうな笑みを見せていた。
黄金色の滑らかな包み具合。とろり蕩ける半熟卵のまろやかさとケチャップライスの酸味が絶妙に絡まっている。
うちのオムライスが人気なのは、食べる前にお客自らが卵を割いてその半熟感を目で味わえるからだ。
これなら春子姉に値切られることもない──
悔しいけどこれは認めざるをえなかった。
「どう?雇う気になった?」
「え?」
小さな声でそう口にした夏希ちゃんに顔を上げた。
「晶さんの珈琲ショップ厨房担当…」
「……」
「給料要らないよ…」
「………」
「晶さんがずっと傍に居てくれれば無償で働くから……」
夏希ちゃんが優しく笑いながら口にする。
思わずカメラを気にするあたしに夏希ちゃんは熊のADに向けてカットするよう仕種で伝えていた。
「ここで番組企画のバイトしたいって頼んだの俺だから、少しは融通利かせてもらえる」
「じゃ、さっきのっ…」
「あれは番組的にオイシイからダメだと思う」
夏希ちゃんはクスリと笑う。
「ん、二人仲いいな? いつの間にそんなに仲良くなった?」
マスターが次の仕込みに取り掛かりながらこそこそ話すあたしと夏希ちゃんに疑いの目を掛ける。
「そろそろ開店だぞ!」
マスターの声に急かされて、あたしは慌てて外の看板を返しにいった。
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