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6章 2
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「お勘定お願いします」
レジまできて伝票を差し出すと楠木さんはさっそく壁に飾られた夏希ちゃんのサインに目を止めていた。
「ありがとう。いいお店だね、また社長とくるよ」
お釣りを受けとると財布に仕舞い、ニッコリ笑いかける。
「彼はまだ居るみたいなんで私はお先に…」
語尾を濁しながらあたしを見つめ
「また…近いうちに」
そう言って微笑んだ──。
背を向けて店の入り口へ向かう。ドアのノブを手にしかけた瞬間に勢いよくドアが開いた。
「やふーい!忙しいのに来てやったぞぃ~!」
夕方を前にして現れた常連客の春子さん登場に、間近でかち合わせた楠木さんは少し牽き気味だ…
賑やかに現れた春姉は楠木さんを見るなり指を指した。
「やだなにっイイ男っ!?え、もう帰るの!?うそっ」
やって来た早々、テンション高めだ…。
苦笑いながら楠木さんは逃げるように会釈してドアをすり抜けていく──
その姿を見送ると春姉はツカツカとカウンターまでやって来た。
・
手には小さなトランクケースを持っている。
いつもの指定の席に座るなり春姉は切り出した。
「今のお客常連さん!?あたし見たことない!?いつも何曜日に来てんの!?」
質問責めだ…
「今日が初めてだよ」
見かねたマスターが口にした。
「これから通ってくれるそうだから…頼むから怯えさせないで欲しいな」
マスターは真剣にお願いしていた。
「まじっ?来たら連絡頂戴!」
マスターのお願いが伝わったかどうかは不明のようだ。鼻唄を歌い始めた春姉にあたしは声をかけた。
「その荷物どうしたの?」
「ああ、研修旅行の引率で伊勢にいってきたの、さっき帰りついたとこ。みて、赤福!!」
春姉はそう言って思い出したように手土産の赤福餅を差し出した。
「高田ちゃんも要る?」
「独り身だからそんなに貰っても…」
六個入りを差し出されて高田さんはそう口ごもる。
「そうよね、そうよね~っ!早く赤福一緒に食べてくれる彼女見つけなきゃね~」
「なんで赤福限定?」
テンション高い春姉に高田さんは笑いながら答えている。
「これ開けちゃうか」
マスターが貰った赤福を開け始めた。
・
やかましい春姉のお喋りは静かだった店内に賑わいをもたらす。
「混雑時より喧しいな…」
「あら高田ちゃんあたしにそんなこと言っちゃう?もう味方しないわよ?」
「なんの味方?」
「ま~、シラきっちゃってこれだから独り身の男って絡み難いったらありゃしない!──晶ちゃん、この淋しい男と結婚してあげて!」
「あはは、なんでそうなるの~」
ほんとになんでそうなるんだっ?
離れた位置からバシバシ飛んでくる夏希ちゃんの視線が怖いっ
笑いながら受け流しても春姉の大きな声に内心焦りまくりだ。
「春子さん、頼むから赤福頬張りながら喋んないでっ…」
強引にそっちへ話を持っていく春姉に高田さんも地味に慌てている。
他人に買ってきた土産を真っ先に口にしてお茶を啜る──
さすがは、ご家老様だとあたしは思った。
今日のテンションだと他に何を言い出すか堪ったもんじゃない。
ピリピリとした空気を纏うテーブル席の夏希ちゃんに水入れを持ってあたしは近付いた。
「他に何か追加する?……」
何気に帰れと諭してみる。
「ブルマン追加!まだ面白い話聞けそうだから居るっ」
「……──」
おいおい、全然面白いって顔してないけど?
完全に不貞腐れ顔だ…
夏希ちゃんはぶーたれた顔を反らして俯いてテーブルを見る…
・
「ブルマン追加ね…」
しょうがないと思いつつ、ポケットから伝票を取り出すと
「やっぱ帰る……」
下を向いたままそう呟いた。
「今日何時まで?ご飯作っとくから…」
「定時だよ」
「わかった。ケーキ、テイクアウトできるよね?」
水を入れに行ったわりに話し込むこちらにマスター達の視線が飛んでくる。
夏希ちゃんは視線を気にしながら追加を頼んでその場を誤魔化そうとしてくれていた。
「好きなのテキトーに注文で書いて、お金出すから」
「オケ」
頼んだ品を包むと夏希ちゃんはレジにくる。
本物の藤沢聖夜を間近で凝視する春姉。さすがに本物に圧倒されたせいか、さっきまで煩かった春姉は静かだ。
お会計を済ませケーキを手にすると夏希ちゃんは言った。
「じゃあ待ってるから…」
「──…っ…」
はっ!?
何言い出すの夏希ちゃんっ!?
去り際に一言放った夏希ちゃんに皆が目を見開く。
夏希ちゃんは振り返ると高田さんに視線を流して立ち去っていった。
「……なに?今の伝言のような言葉?…」
「俺──…睨まれた気がしたけど…」
「すごいな晶…」
口々に皆が呟く…
「な、何言ってんのみんなってばっ!?あはっ」
誤魔化しようのない夏希ちゃんの捨て台詞に阿波おどりするしか術はなし──
興奮しはじめた春姉に追及されながら、苦しい言い訳を延々とあたしは繰り返していた──。
レジまできて伝票を差し出すと楠木さんはさっそく壁に飾られた夏希ちゃんのサインに目を止めていた。
「ありがとう。いいお店だね、また社長とくるよ」
お釣りを受けとると財布に仕舞い、ニッコリ笑いかける。
「彼はまだ居るみたいなんで私はお先に…」
語尾を濁しながらあたしを見つめ
「また…近いうちに」
そう言って微笑んだ──。
背を向けて店の入り口へ向かう。ドアのノブを手にしかけた瞬間に勢いよくドアが開いた。
「やふーい!忙しいのに来てやったぞぃ~!」
夕方を前にして現れた常連客の春子さん登場に、間近でかち合わせた楠木さんは少し牽き気味だ…
賑やかに現れた春姉は楠木さんを見るなり指を指した。
「やだなにっイイ男っ!?え、もう帰るの!?うそっ」
やって来た早々、テンション高めだ…。
苦笑いながら楠木さんは逃げるように会釈してドアをすり抜けていく──
その姿を見送ると春姉はツカツカとカウンターまでやって来た。
・
手には小さなトランクケースを持っている。
いつもの指定の席に座るなり春姉は切り出した。
「今のお客常連さん!?あたし見たことない!?いつも何曜日に来てんの!?」
質問責めだ…
「今日が初めてだよ」
見かねたマスターが口にした。
「これから通ってくれるそうだから…頼むから怯えさせないで欲しいな」
マスターは真剣にお願いしていた。
「まじっ?来たら連絡頂戴!」
マスターのお願いが伝わったかどうかは不明のようだ。鼻唄を歌い始めた春姉にあたしは声をかけた。
「その荷物どうしたの?」
「ああ、研修旅行の引率で伊勢にいってきたの、さっき帰りついたとこ。みて、赤福!!」
春姉はそう言って思い出したように手土産の赤福餅を差し出した。
「高田ちゃんも要る?」
「独り身だからそんなに貰っても…」
六個入りを差し出されて高田さんはそう口ごもる。
「そうよね、そうよね~っ!早く赤福一緒に食べてくれる彼女見つけなきゃね~」
「なんで赤福限定?」
テンション高い春姉に高田さんは笑いながら答えている。
「これ開けちゃうか」
マスターが貰った赤福を開け始めた。
・
やかましい春姉のお喋りは静かだった店内に賑わいをもたらす。
「混雑時より喧しいな…」
「あら高田ちゃんあたしにそんなこと言っちゃう?もう味方しないわよ?」
「なんの味方?」
「ま~、シラきっちゃってこれだから独り身の男って絡み難いったらありゃしない!──晶ちゃん、この淋しい男と結婚してあげて!」
「あはは、なんでそうなるの~」
ほんとになんでそうなるんだっ?
離れた位置からバシバシ飛んでくる夏希ちゃんの視線が怖いっ
笑いながら受け流しても春姉の大きな声に内心焦りまくりだ。
「春子さん、頼むから赤福頬張りながら喋んないでっ…」
強引にそっちへ話を持っていく春姉に高田さんも地味に慌てている。
他人に買ってきた土産を真っ先に口にしてお茶を啜る──
さすがは、ご家老様だとあたしは思った。
今日のテンションだと他に何を言い出すか堪ったもんじゃない。
ピリピリとした空気を纏うテーブル席の夏希ちゃんに水入れを持ってあたしは近付いた。
「他に何か追加する?……」
何気に帰れと諭してみる。
「ブルマン追加!まだ面白い話聞けそうだから居るっ」
「……──」
おいおい、全然面白いって顔してないけど?
完全に不貞腐れ顔だ…
夏希ちゃんはぶーたれた顔を反らして俯いてテーブルを見る…
・
「ブルマン追加ね…」
しょうがないと思いつつ、ポケットから伝票を取り出すと
「やっぱ帰る……」
下を向いたままそう呟いた。
「今日何時まで?ご飯作っとくから…」
「定時だよ」
「わかった。ケーキ、テイクアウトできるよね?」
水を入れに行ったわりに話し込むこちらにマスター達の視線が飛んでくる。
夏希ちゃんは視線を気にしながら追加を頼んでその場を誤魔化そうとしてくれていた。
「好きなのテキトーに注文で書いて、お金出すから」
「オケ」
頼んだ品を包むと夏希ちゃんはレジにくる。
本物の藤沢聖夜を間近で凝視する春姉。さすがに本物に圧倒されたせいか、さっきまで煩かった春姉は静かだ。
お会計を済ませケーキを手にすると夏希ちゃんは言った。
「じゃあ待ってるから…」
「──…っ…」
はっ!?
何言い出すの夏希ちゃんっ!?
去り際に一言放った夏希ちゃんに皆が目を見開く。
夏希ちゃんは振り返ると高田さんに視線を流して立ち去っていった。
「……なに?今の伝言のような言葉?…」
「俺──…睨まれた気がしたけど…」
「すごいな晶…」
口々に皆が呟く…
「な、何言ってんのみんなってばっ!?あはっ」
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