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第五章 冒険編
2話 選ばれし者
しおりを挟む白い波が漂っていた
その波は穏やかな水面を撫でて泡立ちながら引いていく…
砂は銀色に輝いていた
柔らかな感触
まるでシフォンのスカーフの上を歩いているよう
白い波の向こうにはなだらかな地平線が広がっている
どこまでも
どこまでも…
ずーっと同じ
銀色の砂、白い波、柔らかな心地…
歩いても…
歩いても……
同じ。
ずっと
ずーっと…
輝く砂の道は果てしなく続いていた
“…そう
それでいいのです…
そのまま まっすぐ…
まっすぐと歩みなさい──”
何処からか声がした…
雲のない空に透き通った声が響く。
澄んだ音
とても耳に心地いい。
真っ白だった世界が急に大きく歪むと目の前の景色が鮮明に姿を現した。
・
聞こえてきた声は山びこのように辺りに響き反音する。
どこまでも続く遠浅の海の真ん中を、白銀に輝く砂浜が横断するように走り、まるで銀の橋が架かけられているようにみえる。
その上を歩いていると、風もないのに真綿のように柔らかくて暖かい空気が肌を撫で、そして包んだ。
目を閉じて感触を味わうとふわふわしていて気持ちいい。
すごく幸せな気分になる。
このままずっと包まれていたい…
このままずっとここで…
そうやって愛しむように細い肩を抱きしめて、幸せな笑みを浮かべ目を閉じているとまた声が響いた。
“……歩みなさい…
そのまま まっすぐ
まっすぐと──”
うっとりと心地よさに浸っていると響いた声に後押しされたように、肌を包んでいた空気が急に背中を押した。
追い風が吹き、急き立てながら体をどんどんと前に押しやる。それに付いていこうとする足がもつれないようにと必死で前に出ていた。
・
花など影も形もないのに真っ白な花びらが流れるように舞っている。
自らの意思で足を進めると、また柔らかな風が優しくくるむように体にまとわりついた。
まるでシルフの妖精のケープを纏っているみたいだ。ゆっくりとした足どりが宙に浮かび、ふわりふわりと跳ねながら前に進む。
どうしよう
何だか楽しくなってきた。
思い出さなきゃいけない事があったはずなのに…
すごく大事なことだった筈なのに……
もう…
どうでもいい
爪先に勢いをつけて、ふわりと大きく跳ねると一段と高く身体が舞い上がった。
蹴った銀色の砂地が飛び散りきらきらと反射する。
身体がとても軽くて全身が羽根になったように思えた。
跳ねる度に風が耳元でそよぎ可愛い声で何かを語りかける。
“そうよ! もっともっと
高く翔んで!”
もっと高く?
“そうよ! もっともっとっ
もっと高く!”
もっと高く…
それすごく楽しそう!
はしゃぎながら急き立てるその声に誘われて、気が付けばめいいっぱい弾みを着けて翔んでいた。
・
高く高く、何処までも高く。
跳ね上がる身体は落ちることなく何処までも翔んで行く──
下を見ると銀色の砂の橋と、それを挟むコバルトブルーの海がはるか彼方にあった。
いつの間にか背中に生えた透きとおった大きな翼が、上空でゆっくりと羽ばたいている。
足下の景色に驚きながら頭上を見上げると、あまりの眩さで咄嗟に手をかざした。
天から伸びた黄金に輝く光りの柱が周りを囲うように降り注ぐ。翼はもっと上を目指し黄金の柱の中を旋回すると、急に羽ばたきの速さを増し、上へ上へと上昇した。
すごい勢いなのに、切り抜けていく風が気持ちいい。
前髪が泳ぎ、おでこ全開で向かい風を受けながら、自分の意思とは関係無しに昇っていく。
そうやって輝く柱の中を進んでいると急に視界が移り変わった。
目の前には緑の庭園が広がっている。そして古代彫刻の石像、立派な石造りの建物。
辺りを見回していると、黄金の柱はいつの間にか消えていた。つい今まで背中にあった大きな翼も見当たらない。
なんだか少し、残念な気持ちになってしまう…
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