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第五章 冒険編
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・
ブランデールはセラスのその表情から全てを見た。
「うむ…急な命(めい)にも慌てぬ切り替えの早さは次なる王にふさわしい。国を守る為には状況に合わせた判断力が物をいう場合もある。キエラ大王も貴殿に期待して居ることだろう──」
「はい、大王と私自身の名誉の為にも期待に応えねばなりません」
セラスはブランデールからの賛辞を有り難く受けとめていた。
四大大陸の中でも一番大きな国勢を誇るルバール王国の王に認められたら話しは早い。各国にもジャワールの次世代の王“セラス・オルガ”の名前が轟くことは間違いないだろう。
東へ自ら出向かせたのは、大王の策略だったのかも知れぬ。
王などと呼ばれることに欲もわかぬセラスに使命として与えて仕舞えば承けざるおえない。
しかもとても難儀な大役だ。
セラスは「やられた…」と呟くと心密かににやりと笑みを浮かべていた。
雨音に紛れ、十時を知らせる鐘が鳴る──
大木の生い茂る山林の奥深く、石を積み上げた祠の中でずぶ濡れになった逞しい肩が揺れていた。
・
壁際には二本の剣が無造作に立て掛けられている。しかし、よく見れば二本ともボロボロに刃こぼれしていた。
一体、何を斬ってここまで傷んだのか。剣の持ち主は自分の大事にしていた銘刀“斬風剣”には見向きもせず、目の前に祀られた一族の宝剣、二本の“疾風剣”と“迅雷剣”に手を伸ばした。
“なんだかレオにもう逢えない気がして──”
手作りの木笛を届け、背を向けたレオにアルが言った言葉。
その時のアルを思い出し、土に埋もれていく棺を最後まで見届ける事はおろか、レオはその場に居ることさえ出来なかった。
大剣の大きなぎざついた刃が暗闇でも鋭く光る。
両手を伸ばし、二本の剣の柄を同時に握りるとレオはその手に力を込めた。
「アル…待ってろよ…仇なんか直ぐに討ってやるっ」
握り締めた手の甲が青く光る──
剣を手に取りシャッと風を唸らすと、レオは空を斬る素早さで両脇の腰に収めた。
認めの印が共鳴する──
三の勇者が集うとき
神の住む村への扉が開かれる
三の勇者の心一つなら
聖女の丘に女神降臨す──
・
突然、会議室の扉が勢いよく開かれた。
そこにいた皆が扉の方をいっせいに向く。
入り口に立って居たのはロイドだった。
突然のロイドの行いを止めきれなかった兵士がロイドの背後でオロオロとしている。
「どうした?」
読み終えた文書を丸めながらルイスは表情の堅いロイドに何事かと声を掛けた。
「もう今更遅いと思って報告もしなかったんだが…」
ロイドは沈痛な面持ちで口を開き始めた。躊躇いが溜め息となって静かに吐き出される。
ロイドは自分の手の平に視線を落とした。
自分も勇者の一人として選ばれた。それをまだ目覚めぬアルの枕元で報告だけでもと急いだ夜道。切れてしまったチョーカーに不安を煽られながらも雨の中を懸命に走ったのに…
涙を堪えきれず震えるレオの腕に抱かれたまま、アルは息絶えた姿でロイドを迎えていた。
周りで泣いている皆が嘘をついているように思え、そして悪い夢が続いていると自分自身にも思い込ませた。
だが冷たい現実は降り頻る雨と共に全てを曝す。
棺の中のアルに別れも告げられぬほど辛かった。だが一番辛かったのはアルに違いない。
・
“子供達をお願い──”
その言葉を残すことしか出来なかった。
傍に居たかったのも
守りたかったのも
アルが成し得られなかったことを──
守りたくても守り抜けなかったものを──
俺が必ず叶える
ロイドは拳を握った。
「──ロイっ!?」
ロイドの拳に皆の視線が集まった。握り締めた右手から赤い光りが漏れ、皆の目が釘付けになる。
それに呼応するようにルイスの右手からも光りが浮かび上がった。
「おお、これか…勇者の刻印とは…」
国王は有り難いものでも目にしたように瞳を細めた。
ルイスは光る自分の右手とロイドの右手を交互に見ると、崩れるように笑みを浮かべた。
「は…そういうことか……」
何故にもっと早く気づかなかったんだろうか…従者の元に 集う者たち…
探すのではなく──
皆、自然に従者に惹き付けられた者達だ。
遠のとっくに手筈は整っていた訳だ。
だが、もうアルはいない──
勇者として俺達は何をすればいい!?
誰か教えてくれ──っ
光りに魅入る回りをよそに、ルイスはまた苦悩の表情を浮かべた。その途端にロイドの後ろに一つの影が立った。
・
腰には先に持っていた剣よりも一段と大きな剣を提げている、ずぶ濡れのまま荒い息を返すレオだった。
そして立ち塞ぐレオの右手も青く輝いている。
「──! 三つが…揃った」
バルギリーがそう呟いた瞬間だった──
激しい雷鳴が雨空に響いた。
三つに別れた稲妻が二、三度光り、斜めに夜空を破る。それは上空で一つになると巨大な雷となって城の直ぐ近くに落雷した。
雷が落ちた辺りから一瞬、火柱が立ち上る。会議室にいた皆が驚いて窓際に立つと、その場所が一気に真っ赤な炎で包み込まれた。
「なんてことだ──」
城の裏庭が燃え上がる。だが、老師が呟いたその後に、降り頻る雨が炎を瞬時に消し去っていた。
ルイスがカチャッと剣を手にした。
「異常がないかちょっと見てくる──」
落ち着きながらも足早に会議室を出ていく。そしてロイド達もその跡を追った。
また珍しい所に落ちたものだ。城の避雷針を避け、わざわざ裏庭に落ちようとは…
あそこには、今日埋葬したばかりのアルが眠っている。神はアルをどこまで無慈悲に晒せば気がすむというのだろうか。
ブランデールはセラスのその表情から全てを見た。
「うむ…急な命(めい)にも慌てぬ切り替えの早さは次なる王にふさわしい。国を守る為には状況に合わせた判断力が物をいう場合もある。キエラ大王も貴殿に期待して居ることだろう──」
「はい、大王と私自身の名誉の為にも期待に応えねばなりません」
セラスはブランデールからの賛辞を有り難く受けとめていた。
四大大陸の中でも一番大きな国勢を誇るルバール王国の王に認められたら話しは早い。各国にもジャワールの次世代の王“セラス・オルガ”の名前が轟くことは間違いないだろう。
東へ自ら出向かせたのは、大王の策略だったのかも知れぬ。
王などと呼ばれることに欲もわかぬセラスに使命として与えて仕舞えば承けざるおえない。
しかもとても難儀な大役だ。
セラスは「やられた…」と呟くと心密かににやりと笑みを浮かべていた。
雨音に紛れ、十時を知らせる鐘が鳴る──
大木の生い茂る山林の奥深く、石を積み上げた祠の中でずぶ濡れになった逞しい肩が揺れていた。
・
壁際には二本の剣が無造作に立て掛けられている。しかし、よく見れば二本ともボロボロに刃こぼれしていた。
一体、何を斬ってここまで傷んだのか。剣の持ち主は自分の大事にしていた銘刀“斬風剣”には見向きもせず、目の前に祀られた一族の宝剣、二本の“疾風剣”と“迅雷剣”に手を伸ばした。
“なんだかレオにもう逢えない気がして──”
手作りの木笛を届け、背を向けたレオにアルが言った言葉。
その時のアルを思い出し、土に埋もれていく棺を最後まで見届ける事はおろか、レオはその場に居ることさえ出来なかった。
大剣の大きなぎざついた刃が暗闇でも鋭く光る。
両手を伸ばし、二本の剣の柄を同時に握りるとレオはその手に力を込めた。
「アル…待ってろよ…仇なんか直ぐに討ってやるっ」
握り締めた手の甲が青く光る──
剣を手に取りシャッと風を唸らすと、レオは空を斬る素早さで両脇の腰に収めた。
認めの印が共鳴する──
三の勇者が集うとき
神の住む村への扉が開かれる
三の勇者の心一つなら
聖女の丘に女神降臨す──
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突然、会議室の扉が勢いよく開かれた。
そこにいた皆が扉の方をいっせいに向く。
入り口に立って居たのはロイドだった。
突然のロイドの行いを止めきれなかった兵士がロイドの背後でオロオロとしている。
「どうした?」
読み終えた文書を丸めながらルイスは表情の堅いロイドに何事かと声を掛けた。
「もう今更遅いと思って報告もしなかったんだが…」
ロイドは沈痛な面持ちで口を開き始めた。躊躇いが溜め息となって静かに吐き出される。
ロイドは自分の手の平に視線を落とした。
自分も勇者の一人として選ばれた。それをまだ目覚めぬアルの枕元で報告だけでもと急いだ夜道。切れてしまったチョーカーに不安を煽られながらも雨の中を懸命に走ったのに…
涙を堪えきれず震えるレオの腕に抱かれたまま、アルは息絶えた姿でロイドを迎えていた。
周りで泣いている皆が嘘をついているように思え、そして悪い夢が続いていると自分自身にも思い込ませた。
だが冷たい現実は降り頻る雨と共に全てを曝す。
棺の中のアルに別れも告げられぬほど辛かった。だが一番辛かったのはアルに違いない。
・
“子供達をお願い──”
その言葉を残すことしか出来なかった。
傍に居たかったのも
守りたかったのも
アルが成し得られなかったことを──
守りたくても守り抜けなかったものを──
俺が必ず叶える
ロイドは拳を握った。
「──ロイっ!?」
ロイドの拳に皆の視線が集まった。握り締めた右手から赤い光りが漏れ、皆の目が釘付けになる。
それに呼応するようにルイスの右手からも光りが浮かび上がった。
「おお、これか…勇者の刻印とは…」
国王は有り難いものでも目にしたように瞳を細めた。
ルイスは光る自分の右手とロイドの右手を交互に見ると、崩れるように笑みを浮かべた。
「は…そういうことか……」
何故にもっと早く気づかなかったんだろうか…従者の元に 集う者たち…
探すのではなく──
皆、自然に従者に惹き付けられた者達だ。
遠のとっくに手筈は整っていた訳だ。
だが、もうアルはいない──
勇者として俺達は何をすればいい!?
誰か教えてくれ──っ
光りに魅入る回りをよそに、ルイスはまた苦悩の表情を浮かべた。その途端にロイドの後ろに一つの影が立った。
・
腰には先に持っていた剣よりも一段と大きな剣を提げている、ずぶ濡れのまま荒い息を返すレオだった。
そして立ち塞ぐレオの右手も青く輝いている。
「──! 三つが…揃った」
バルギリーがそう呟いた瞬間だった──
激しい雷鳴が雨空に響いた。
三つに別れた稲妻が二、三度光り、斜めに夜空を破る。それは上空で一つになると巨大な雷となって城の直ぐ近くに落雷した。
雷が落ちた辺りから一瞬、火柱が立ち上る。会議室にいた皆が驚いて窓際に立つと、その場所が一気に真っ赤な炎で包み込まれた。
「なんてことだ──」
城の裏庭が燃え上がる。だが、老師が呟いたその後に、降り頻る雨が炎を瞬時に消し去っていた。
ルイスがカチャッと剣を手にした。
「異常がないかちょっと見てくる──」
落ち着きながらも足早に会議室を出ていく。そしてロイド達もその跡を追った。
また珍しい所に落ちたものだ。城の避雷針を避け、わざわざ裏庭に落ちようとは…
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