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第五章 冒険編

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◇◇◇

東の大国、ルバール城では慌ただしい動きが見えていた。雨の中を走り回る足音が飛び交う。精鋭隊長の号令で城の隊員達が装備を整えあちらこちらに散らばっていた。

目的は行方不明になったアルを捜し出す為だ。

果たしてどういった姿で居なくなってしまったのか…。

「こんな時に墓荒しか!?」

「さあわからんっ、とにもかくにも早く捜し出さなきゃならん!取り合えず遺体は青いワンピースを着てる可能性があるって…」

「男なのになんでワンピース!?」

「さ…あな……と、とにかく急ぐぞ!!」

疑問は尽きぬ。名目は遺体捜索となっているが集まった隊員達は何が何だか解らぬまま、その捜索に駆り出されていた。

「ロイすまなかった、待たせたな」

「ああ、詫びは後にしてくれ!!」

正門に来たルイスに言うなり直ぐにロイドは黒馬にハッ!と声を掛けて腹に合図を送った。高いいな鳴きを上げ、精悍な黒馬は後ろ足で大きく立ち上がる。

ルイスが自分の愛馬に跨がった瞬間にロイドは待ちきれずに黒馬を走らせていた。



どしゃ降りの冷たい雨が肌を叩きつける。強い雨のせいで前は見え難く、視界はただ闇を彷徨うばかりだ。

静まり返った夜の街に明りの灯った家はない。辺りは闇の王を恐れ息をひそめたようにしんとしていた。

リストンの街から南に目をやれば、赤ちゃけた煉瓦色の高い屋根が見える。街の中にある大聖堂の屋根だ。その屋根のすぐ下で大きな時計の針がもうすぐ0時を指そうとしていた。

「どこか変わったことはないか?」

「異常なしです!!」

「そうか…」

捜索に当たっていた部下の答えを聞き、ルイスは暗い街道に目を凝らした。雨の降りしきる道、遠くを見つめながら冷たい雨に濡れた身体が身震いを起こす。

“アルが見つかったら城の警鐘を3つ鳴らす”

そう取り決め、ロイドとは一旦別れて隊に指示を出しながらの捜索が続く。他国への兵士の派遣で人手不足の上に、わざわざ死んだ者を捜し出す為に隊員をこの雨の中に駆り出していいものか。

ルイスは考えあぐねたが、ただ、何かを知らせるように緑の光りを放ち続ける右手だけは異様に熱い。

行方知れずになったアルの身体はいったい何処へいったのだろうか──。




捜索に駆り出された隊員逹も、勿論ルイスも、原因が解らぬまま街中を駆け回るしか術がなかった。


「各自の判断で合間に休憩を挟んで任務に当たってくれ」

「はい!隊長も無理を為さらずに」


指示を出したルイスに副長はそう応えた。ルイスは黙って頷き返すと街の奥へと馬を走らせた。


「くそっ…アルッいったいどこにいったんだ!?」


一本に束ねた長い黒髪が風雨になびく。


ロイドは向かい風で叩き付けてくる雨粒を頬に受けながら険しい顔をした。

焦りを浮かべた漆黒の瞳に夜の街を映す。立ち止まっては走り、走り出しては立ち止まり、辺りを見回せど何処を捜してもアルの姿は見当たらない。

「アルっ…何処に居る…っ…」

頼むからこれ以上俺から離れて行かないでくれ!

死してもなお傍にいることが叶わない。ロイドは途方に暮れた表情を浮かべた。

手綱を握り締め一瞬の人影も見失わない様にと辺りを見回していると、黒馬の尖った耳がピンッとはりつめた。

立てた細長い耳がピクリと動くとロイドの黒馬はいきなり向きを変えた。

「──っ!?急にどうした!?」

慌てて手綱を握り直したが、黒馬は全くロイドの言うことを聞こうとしなかった。



まるで野生の馬だ。ロイドの黒馬は手綱を振り切るように自分の思うまま脚を速めたのだ。

「こんなときにどうしたっていうんだ!?」

顔をしかめ、首にしがみ付くように手綱を短く握り締めると、ロイドは苛立たし気に黒馬の頭上からそう問い掛けた。駆け抜ける速さで街中の景色が一気に流れる。無心で走る黒馬の背の上でロイドはそれを横目にやり過ごすしかなかった。
皆が懸命に捜索にあたる。

方々へと精鋭の隊達が散り、雨の中、街中でチラチラと灯りがちらつく。高い屋敷の屋根の上からそれを目でさらりと追った後、額を流れる雨の雫を腕で強引に拭うとレオは灯りの点らぬ人気のなさそうな場所に目をやった。

走り続けたせいで息が上がり、熱をもつ逞しい背中が打ち付ける雨を弾き返し蒸気を立たせる。

前を見据えると

「……直ぐに連れ戻してやるっ──」

強い意志を感じさせる眼孔を鋭く光らせ、誰に誓うでもなくレオはそう小さく呟いた。


大量に天から注ぐ雨。

そのせいで草花に埋もれていた地の至るところに大きな水溜まりが出来ている。

白い素足はその水をぴちゃりと跳ね上げながらゆっくりと歩を進めた。



綺麗なうすい桃色の足の裏に青い草が絡み付き、小指の爪程もない可愛らしい小花が華奢なくるぶしを飾るように数枚、ぴたりと貼り付いていた。

強い風に青い衣服の裾が揺れる──

傍に寄り添うようにして白銀の翼を持つ白馬を従え、その裸足の主は湖のまん中に浮かぶ遺跡の入り口の前にいた。


「──…っ」


どこからともなく駆け付けた足音が遠く先で見付けた人影に立ち止まり息を飲む。

「アルッ!!──」


雨の煙りの中にある人影。見覚えのある青いワンピース、その衣服を纏った少女…

間違いなくあれはアルだ!!──


黒馬で湖の近くまで駆け付けるとロイドは驚きとそれを遥かに凌ぐ喜びの表情を浮かべ、アルの名を叫んだ。

もっと近くへ!

そんな思いのまま、ロイドは落ちるような勢いで黒馬から飛び降りる。

「待てロイッ!!──」

湖の石橋を渡ろうとしたロイドを誰かがそう呼び止めていた。

急く心のままに止められた長い脚が行き場を失う。引き止めた声を振り返ると、また別の方からも声がした。

「ああ、隊長さんの言う通りだ──」

戸惑うロイドに低い静かな声で返したのはレオであった。

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