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第一章 出会い編
15話 白いお馬さん
しおりを挟む「はぁー 楽しかったね!」
「おお、そうか!そりゃあ、連れて行った甲斐があるってもんだ」
子供達の笑みに、ザドルも嬉しそうに応える。
時刻は午後の3時を少し回った頃。アル達は街散策を終えて帰って来ていた。
「部屋に帰る前にエバにお土産があるからついでに食堂でお茶入れてもらおうかっ?」
「うん♪」
「おっ、それもいいなぁ」
アルの提案に皆が賛成した。
「あ、アル!先に行って。アタシ、髪飾り無くさないうちに部屋に置いてくる」
ユリアは街を散策する間、髪飾りを無くしはしないかとずっと気掛かりだった。
ロイドとの面会が済んだらすぐ取るつもりでいたのだが「せっかくお洒落したんだから…」アルがそう言って取らせてくれなかったからだ。
「わかった。先に行くから」
でも、そんなに気にしなくてもいいのに……
アルは思っていた…。形見だと言ってもそれよりも大事なものがある。何にも代えがたい思い出というものが。
どんなに大事にしても形ある物はいつかは壊れるのにな……
そう考えながらもユリアの気遣いは嬉しかった。
ユリアは部屋に行くために近道をした。正門から入り広場の裏の庭を突っ切ると宿舎はすぐ目の前にある。
隠れんぼをしながら見つけた道だ。
・
はっきり言ってこの敷地内のことならアルよりも子供達の方が詳しいだろう。
ユリアが裏庭を歩いていると、野薔薇の垣根から何やら見えていた。
「…え、あれは……人の足?みたいたけど…っ…」
怖い物見たさに、そーっと近づいてみると……
「──!っ…」
この人っ…たしかロイドを犯人だとか言って捕まえてた人だわ……
足の正体は昼寝をしていたルイスだったのだ。
‥こんなところで何してるのかしら?‥‥お昼寝?
──まあっ…すごく綺麗な顔っ…
そーっとルイスの寝顔を覗き込んだユリアの目からハートが沢山飛び散った。
耀くプラチナブロンドの髪に白い肌。形のいい唇が血色よく艶めいている……。
…っ…うぁ!睫毛も長くてお馬さんみたいっ!!
ロイドが勇ましく荒野を駆け巡る黒馬なら、さしずめルイスは薔薇の庭園を優雅に走り抜く白馬と言ったところだろうか。
真っ青な隊服に白い手袋とブーツ。白いマントは昼寝には邪魔だったのだろう。勲章入りの留め具と共に外して傍に置いてあった。
ユリアはルイスの髪にそぉっと触れてみた……
きゃー! 軟らかいわっ…
あまりの手触りの良さに頬を染めて興奮する。
・
そして何を思ったのか、そこにあった野薔薇の花を三輪摘み取るとルイスの髪に飾って眺めた。
…素敵…っ……まるでお姫様みたいだわっ──
ユリアは美しい物が大好きなビューティフルフェチだった。
薄くて白い瞼はとても中性的だ。ユリアはもう一輪を手にしてルイスの胸のポケットにゆっくり手を延ばした。
その瞬間、ルイスに手首を引き寄せられていた。
…っ……きゃーっすごく近いわっ…近すぎるわっ…
起き上がったルイスにいきなり膝の上に抱っこされ、ユリアは顔を真っ赤にする。
ルイスはユリアを覗き込み、くすりと妖しく微笑した。
「散々、俺をおもちゃにしてくれたね……」
ルイスは青灰色の瞳を優しく緩め、ユリアが自分の頭に飾り付けた薔薇の花を髪から外した。
「──っ……ご、ごめんなさい…」
ユリアはこの距離に堪えられず下を向く。
ルイスは俯いたユリアの顎を指先で掬い、上を向かせた。
「こういうのは俺じゃなくて……」
ひゃー!?やめてっ刺激が強すぎるわっ!これじゃっアタシまたっ──…っ
「ほら…やっぱり君の方が似合う……」
ルイスは花をユリアの耳元に飾ると、可愛い…そう囁いておでこにキスをしたのだ。
…っ…ああもうダメっ…あたし限界っ
― ツツーーー‥‥
・
赤面して固まるユリアの鼻からゆっくりと赤い雫が伝う。
「──……君は……少々、鼻の粘膜が敏感過ぎるようだね…」
「……う…はい…っ」
驚きながらもルイスはポケットからハンカチを取り出して、ユリアの鼻にそっと押し当てる。
「ぷぷっ‥‥」
途端に笑いが込みあげていた。
……やっぱり笑われちゃったわ…
「ああ、ごめん。君を笑った訳じゃないよっ?」
ルイスは恥ずかしそうにするユリアにそう詫びていた。
「そういえば、実はアルもこのハンカチで顔を拭いてあげた事があってね。その事を思い出したんだ」
カクンと肩を落とし、落ち込むユリアにルイスは慌てて口を開く。
「アルも?」
「ああ。前に受付の時にトラブってね‥‥聞いてない?」
「聞いていないわ……アルはアタシ達が心配しそうな事は言わないの……アタシ達はちゃんと言ってほしいのに……」
ユリアはハンカチで鼻を押さえながら悲しそうな顔をした。
そんなユリアをなだめるようにルイスは優しく頭を撫でると、ふと、ユリアの髪留めに目が止まった。
光り方からして純度の高い金を丁寧に研磨していることがよくわかる。
「……綺麗な髪飾りだね?ちょっと見てもいい?」
「ええ、いいわ。 アルに借りた物なの」
「アルの持ち物?」
「あ、持ち物っていうか、…形見っ…アルのお母さんのよっ…」
・
「ああ、形見か?……アルがそんな趣味なのかと思った」
「そっ…そんな趣味はアルはないわっ」
ふふふっと作り笑いを向けながらユリアは焦った。
……いけないっ!この国に来るまでアルが使ってた…て言うとこだった…
危ない危ないっ…秘密だもんね、アルが女の子だってことは……
ルイスはユリアの髪から飾りを外すとじっくりとそれを眺める。
細工もかなり凝っている。さぞかし腕のある職人の手掛けた品に違いない。
「結構……値打ち物だね……アルはお坊ちゃまかな?」
「アタシ達の生まれた村はすごく大昔からあったんだって……だからこういった細工の飾りは古くからの物ばっかりよ。お金持ちとかじゃないわ……村ではお金は必要なかったから」
「へぇ…通貨は使われてなかったのか……じゃあ村は自給自足か」
ルイスは髪飾りを眺めていると留め金の部分に小さな模様を見つけた。
「この模様は?アルの家紋か何か?」
ユリアはルイスの指差す部分を覗く。
「これは村の紋章よ。みんなの家に古くからあるものは全部この紋章がついてるの!
アタシの家にもあったわ…すごく大きな盾だったから持って来れなかったけど……」
「村の紋章……か──ところで君達は兄弟ではないのか? どうして子供だけで村を出たんだ?」
・
・
ユリアはまた悲しそうな表情で俯いた。
それでもぽつりぽつりと呟くように口を開く。
「アタシ達は兄弟じゃないわ…でも村全体が家族みたいだったから……村を出たのは長の遺言なの…村の人達はみんな…死んじゃった……生き残ったのはアタシ達だけ…親や兄弟…っ…お友達も…っ…」
ユリアの声が強く上擦った。
「ごめん……もういいよ。嫌な事を思い出させちゃったね……」
ルイスは詫びながらユリアをそっと抱きしめた。
幼くして両親を亡くす悲しみはルイスだって痛いほど知っている。
ましてや村の人皆が亡くなっていく様を。その現実を、この幼さで受け止めるには容易な事ではないはずだ。
ルイスも自分が幼い頃に味わった感情を思い出し、ユリアをぎゅっと強く抱きしめていた。
(……ユリア遅いな…)
アル達が食堂についてから30分近くは過ぎている。
アルは席を立った。
「ちょっと見てくるから皆はここに居てっ」
「うん、わかった!」
ティムは頷いてアルの背中を見送った。
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