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第五章 不穏と波乱
8
「あー、疲れた……」
午後十時を回った。フロアにいるのはいつの間に私だけになっていた。
しばらく集中して同じパソコン作業をしていたせいで体がバキバキに凝ってしまっていた。
椅子から立ち上がり、大きく背伸びをして首を回しているとデスクの上のスマホがブーブーッと音を立てて震えた。
画面には登録していない電話番号が表示されていた。
相手は、5分おきに何度も執拗に電話をかけてくる。
その相手に心当たりのあった私は留守電に切り替えた。
すると、画面にボイスメッセージ1件と表示された。仕方なく、スマホを耳に当てる。
『もしもし、実咲?俺、俊介だけど。今会社でしょ?飯いこーぜ。聞いたらすぐ折り返して』
俊介からの電話だと分かり、うんざりした気持ちになる。
この前渡した名刺には社用の電話番号のみ記されている。それなのに、俊介は会社用ではなくプライベート用のスマホに連絡を入れてきた。
別れた後も電話番号は変えていないけど、まさかまだ私の連絡先を知っていたなんて。
私は別れた翌日、電話帳から削除したというのに。
すると、「お疲れ様です」と背後から私のデスクにコーヒーが置かれた。
「ありがとう。まだ残ってたの?」
湯気の立つ熱々のコーヒーを運んでくれたのは冬野くんだった。
「はい。まだ仕事が残っていたので」
「それってJJT関係?」
「……はい」
嫌々引き受けた仕事にも関わらず残業していることを知られて、冬野くんはほんのちょっと気まずそうに頷く。
そんなところが彼らしくて微笑ましい気持ちになる。
「それより、白鳥さんこそ大丈夫ですか?ずいぶん根詰めてるみたいですけど」
「私は大丈夫。冬野くんこそ宣伝部長に詰められて大変だったでしょ?」
隣の席の椅子に腰かけると、冬野くんが分かりやすく顔をしかめた。
「ホントですよ。黒川さん、軽率すぎません?」
「まあね。でも、彼女にはちゃんとお説教しておいたから。それに、今回はちゃんと自分からみんなに謝ったし、少しは成長したと思わない?」
黒川さんは営業部に戻ると自ら迷惑をかけた冬野くんと斎藤さんに謝罪をした。
今までの彼女だったらどんなに謝るように言っても、『すみませんでした』と形だけの謝罪をするだけだっただろう。
驚いた様子を見せた二人は、結果的に黒川さんの謝罪を受け入れたのだった。
「まあそうですけど……」
「いただきます。あっ、ちゃんと砂糖とクリープまで入ってる」
「白鳥さんがブラックコーヒー苦手って前に聞いてからは、忘れずに入れるようにしてます」
「さすが、冬野くん」
猫舌の私がフーフーっと何度も息を吹きかけてホットコーヒーと格闘する姿を見て、冬野くんがくすっと笑う。
「あちちっ、あっつぅ……。まだ飲めない……」
「白鳥さんはそういう姿をみんなに見せたほうがいいと思いますよ」
「どういう姿?」
「俺も最初は白鳥さんのこと怖くて偉そうな人だと思ってましたし。ツンッとしてて取っつきにくそうな感じで」
「ああ、私の第一印象聞くとみんな口そろえて言うのよ。『怖い人』『話しかけにくい人』って」
ふふっと笑う私に冬野くんが続ける。
午後十時を回った。フロアにいるのはいつの間に私だけになっていた。
しばらく集中して同じパソコン作業をしていたせいで体がバキバキに凝ってしまっていた。
椅子から立ち上がり、大きく背伸びをして首を回しているとデスクの上のスマホがブーブーッと音を立てて震えた。
画面には登録していない電話番号が表示されていた。
相手は、5分おきに何度も執拗に電話をかけてくる。
その相手に心当たりのあった私は留守電に切り替えた。
すると、画面にボイスメッセージ1件と表示された。仕方なく、スマホを耳に当てる。
『もしもし、実咲?俺、俊介だけど。今会社でしょ?飯いこーぜ。聞いたらすぐ折り返して』
俊介からの電話だと分かり、うんざりした気持ちになる。
この前渡した名刺には社用の電話番号のみ記されている。それなのに、俊介は会社用ではなくプライベート用のスマホに連絡を入れてきた。
別れた後も電話番号は変えていないけど、まさかまだ私の連絡先を知っていたなんて。
私は別れた翌日、電話帳から削除したというのに。
すると、「お疲れ様です」と背後から私のデスクにコーヒーが置かれた。
「ありがとう。まだ残ってたの?」
湯気の立つ熱々のコーヒーを運んでくれたのは冬野くんだった。
「はい。まだ仕事が残っていたので」
「それってJJT関係?」
「……はい」
嫌々引き受けた仕事にも関わらず残業していることを知られて、冬野くんはほんのちょっと気まずそうに頷く。
そんなところが彼らしくて微笑ましい気持ちになる。
「それより、白鳥さんこそ大丈夫ですか?ずいぶん根詰めてるみたいですけど」
「私は大丈夫。冬野くんこそ宣伝部長に詰められて大変だったでしょ?」
隣の席の椅子に腰かけると、冬野くんが分かりやすく顔をしかめた。
「ホントですよ。黒川さん、軽率すぎません?」
「まあね。でも、彼女にはちゃんとお説教しておいたから。それに、今回はちゃんと自分からみんなに謝ったし、少しは成長したと思わない?」
黒川さんは営業部に戻ると自ら迷惑をかけた冬野くんと斎藤さんに謝罪をした。
今までの彼女だったらどんなに謝るように言っても、『すみませんでした』と形だけの謝罪をするだけだっただろう。
驚いた様子を見せた二人は、結果的に黒川さんの謝罪を受け入れたのだった。
「まあそうですけど……」
「いただきます。あっ、ちゃんと砂糖とクリープまで入ってる」
「白鳥さんがブラックコーヒー苦手って前に聞いてからは、忘れずに入れるようにしてます」
「さすが、冬野くん」
猫舌の私がフーフーっと何度も息を吹きかけてホットコーヒーと格闘する姿を見て、冬野くんがくすっと笑う。
「あちちっ、あっつぅ……。まだ飲めない……」
「白鳥さんはそういう姿をみんなに見せたほうがいいと思いますよ」
「どういう姿?」
「俺も最初は白鳥さんのこと怖くて偉そうな人だと思ってましたし。ツンッとしてて取っつきにくそうな感じで」
「ああ、私の第一印象聞くとみんな口そろえて言うのよ。『怖い人』『話しかけにくい人』って」
ふふっと笑う私に冬野くんが続ける。
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