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第一章 禁じられた森で
第六話 禁じられた森へ
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明日花と由香は、頻繁に遊ぶようになった。時には、由香の家にも行くし、由香が明日花の家(正しくは、みよと茂の家)に来ることもある。
明日花と由香の仲を一番喜んだ人物は、みよだった。由香が遊びに来た際には、毎度のようにケーキを焼いてくれる。明日花が好きなキャロットケーキ、由香が好きなシンプルなホットケーキ、黒糖を入れた生クリームのケーキなど。夏休みの間に、何キロも体重が増えるのではないかと、明日花は密かに心配している。
「おばあちゃんとおじいちゃんが孫に食べさせたがるのは、どこも一緒だね」
「由香のところも?」
「ごはんは『これでもか!』ってくらい出てくる。そんなに食べられないのに」
「張り切っちゃうんだね」
明日花と由香は頷き合った。孫には孫の悩みがある。
今日は由香の家の前で待ち合わせをして、町を歩いていた。代わり映えのない田畑や小川ばかりの町だけれど、明日花は何度だって新鮮な気持ちで歩ける自信があった。
「ねえ、今日は森に行こうよ」
「森って?」
明日花は首を傾げた。辺りを見回せば青々とした山や森が目に入ってくるけれど、いったいどこを指しているのか、まるでわからない。どこか、特別な場所があるのだろうか。
すると、由香は内緒話をするように片手で口の周りを覆い、声を潜めた。
「実はね、親から『近付いちゃ駄目』って言われてる森があるんだ」
ぎょっとして身を引いた。大人が「近付いちゃ駄目」と注意するくらいなら、危険な森なのだろう。由香は危険な場所に向かおうとしているのか。
「何だか怖いね。どうして、近付いたら駄目なの?」
「わかんない」
由香は首を振った。明日花はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「親から言われてるんでしょ? 理由は聞いてないの?」
「何も教えてくれなかった。近付くなって、それだけだよ」
近付くなと注意するわりに、理由を教えてくれないなんて。何だか、とっても怪しい。崖があって危ないとか、誰かが怪我をする可能性があるなら、どうして危険なのかを教えるはずだ。自分の子供だったら、特に。
「何回か行ってるけど、普通の森だったよ」
「行ってるの!? 一人で?」
何てことのないように言ってのける由香に、明日花は詰め寄った。近付いてはいけない森に入って、危険はなかったのか。普通の森といっても、由香が気付いていないだけで、本当は危険と隣合わせだったのではないか。考えれば考えるほど、不安が募る。
「そんなに心配しなくても……大丈夫だったってば」
「でも、危険なんでしょ?」
「知らない。少なくとも、何度も行ってるあたしは何ともないけどね」
明日花は眉根を寄せて唸った。由香と一緒に森へ行っていいものか。興味はあるけれど、大人から「近付いちゃ駄目」と言い含められているとなると。
「大人ってさ、子供を舐めてるよね」
由香の強い言葉に、思考が遮られる。由香の様子を窺うと、由香の横顔には不快感が滲んでいて、明日花はギクリとした。
「ただ注意をされても、理由すら知らされないんじゃ納得できない。子供には理由を話してもわからないって思われてるのかな。あたしは、大人ではないかもしれないけど、幼い子供じゃないのに」
無意識に、拳を握っていた。由香の思いと、明日花が抱いている両親への複雑な気持ちが繋がった気がする。子供だからって、いつまでも蚊帳の外にされてはかなわない。
「そうだよね。わたしにだって、知る権利はある」
悔し気な自分の声が、耳の奥で響いた。そうだ、わたしだって、お母さんとお父さんが何を話すのか、何を考えているのか知りたいし、知る権利だってある。だって、わたしは二人の子供で、家族だもの。
「よし。じゃあ、行ってみよっか」
張り切る由香の声に、明日花は大きく頷いた。何となく「それとこれとは違うのでは」と問い掛ける声も聞こえた気がしたけれど、無視をした。これは「なぜ近付いちゃいけないのか」を調査するためなのである。
明日花と由香の仲を一番喜んだ人物は、みよだった。由香が遊びに来た際には、毎度のようにケーキを焼いてくれる。明日花が好きなキャロットケーキ、由香が好きなシンプルなホットケーキ、黒糖を入れた生クリームのケーキなど。夏休みの間に、何キロも体重が増えるのではないかと、明日花は密かに心配している。
「おばあちゃんとおじいちゃんが孫に食べさせたがるのは、どこも一緒だね」
「由香のところも?」
「ごはんは『これでもか!』ってくらい出てくる。そんなに食べられないのに」
「張り切っちゃうんだね」
明日花と由香は頷き合った。孫には孫の悩みがある。
今日は由香の家の前で待ち合わせをして、町を歩いていた。代わり映えのない田畑や小川ばかりの町だけれど、明日花は何度だって新鮮な気持ちで歩ける自信があった。
「ねえ、今日は森に行こうよ」
「森って?」
明日花は首を傾げた。辺りを見回せば青々とした山や森が目に入ってくるけれど、いったいどこを指しているのか、まるでわからない。どこか、特別な場所があるのだろうか。
すると、由香は内緒話をするように片手で口の周りを覆い、声を潜めた。
「実はね、親から『近付いちゃ駄目』って言われてる森があるんだ」
ぎょっとして身を引いた。大人が「近付いちゃ駄目」と注意するくらいなら、危険な森なのだろう。由香は危険な場所に向かおうとしているのか。
「何だか怖いね。どうして、近付いたら駄目なの?」
「わかんない」
由香は首を振った。明日花はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「親から言われてるんでしょ? 理由は聞いてないの?」
「何も教えてくれなかった。近付くなって、それだけだよ」
近付くなと注意するわりに、理由を教えてくれないなんて。何だか、とっても怪しい。崖があって危ないとか、誰かが怪我をする可能性があるなら、どうして危険なのかを教えるはずだ。自分の子供だったら、特に。
「何回か行ってるけど、普通の森だったよ」
「行ってるの!? 一人で?」
何てことのないように言ってのける由香に、明日花は詰め寄った。近付いてはいけない森に入って、危険はなかったのか。普通の森といっても、由香が気付いていないだけで、本当は危険と隣合わせだったのではないか。考えれば考えるほど、不安が募る。
「そんなに心配しなくても……大丈夫だったってば」
「でも、危険なんでしょ?」
「知らない。少なくとも、何度も行ってるあたしは何ともないけどね」
明日花は眉根を寄せて唸った。由香と一緒に森へ行っていいものか。興味はあるけれど、大人から「近付いちゃ駄目」と言い含められているとなると。
「大人ってさ、子供を舐めてるよね」
由香の強い言葉に、思考が遮られる。由香の様子を窺うと、由香の横顔には不快感が滲んでいて、明日花はギクリとした。
「ただ注意をされても、理由すら知らされないんじゃ納得できない。子供には理由を話してもわからないって思われてるのかな。あたしは、大人ではないかもしれないけど、幼い子供じゃないのに」
無意識に、拳を握っていた。由香の思いと、明日花が抱いている両親への複雑な気持ちが繋がった気がする。子供だからって、いつまでも蚊帳の外にされてはかなわない。
「そうだよね。わたしにだって、知る権利はある」
悔し気な自分の声が、耳の奥で響いた。そうだ、わたしだって、お母さんとお父さんが何を話すのか、何を考えているのか知りたいし、知る権利だってある。だって、わたしは二人の子供で、家族だもの。
「よし。じゃあ、行ってみよっか」
張り切る由香の声に、明日花は大きく頷いた。何となく「それとこれとは違うのでは」と問い掛ける声も聞こえた気がしたけれど、無視をした。これは「なぜ近付いちゃいけないのか」を調査するためなのである。
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