魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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季節物やIFな話まとめ。

真夏なバレンタイン01

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青い海、青い空!

私たちは今、南の島でバカンスを楽しんでいた。

私はビーチパラソルの下でのんびりとくつろいでいた。

「アリス」

リリアが私を呼ぶ声が聞こえて私は身体を起こす。

リリアは遠く東の国でビキニと呼ばれているらしい黒色の水着の中まで砂だらけにして楽しそうにしながら言う。

「マリアがそろそろお昼だよって呼んでた。」

「もうそんな時間なの?じゃあ、リリアも身体洗って来なよ。」

「はーい」

リリアが身体を洗いに行ったのを見て、私もマリアの元へと向かう。

数日前のことだった…



『おう!アリス、ちょうどいいところに来たな!これから、お前たちも誘って南の島に行こうとしていたところだったんだ!なんでも大きな祭りをやるらしくてな。その参加者と浜辺の警護を兼ねての事だな!要するに短期休暇だ!水着の準備はしっかりしておけよ!』

いつもの鍛錬の為にギルドに来ていた私を見て、グラディオスがそんな事を言う。

グラディオスはいつも突然だ。

他の四人はともかく、私は水着がなんなのかすらよくわかっていないと言うのに…



そんなこんなで今に至るのである。

私とリリア以外はそれぞれで水着もちゃんと用意出来ていたのだが、私はリリアと共に洋服店を巡っては水着について聴きながら、前日になるまで用意出来ていなかったのだ。

私はサイズ的に子供用のもので十分だったので、それを着ることにしていたのだが…

肝心のその水着を忘れて来たせいで、現地調達するしかなくなったのだ。

今思えば、アレをここで着るのはかなり恥ずかしいが…

そんな訳でオフショルダー?って名前の水着を買ったんだ。

私の髪色とよく似た白いフリルの着いたやつだ。

とは言っても、私自身は全く泳げなかったのでのんびりとくつろいでいたわけなのだが…

人って足がつく深さでも普通に溺れるんだね…

そんな事を考えながら、マリアがいる海の家って場所に向かう。

私が海の家の扉を開けると…

「アリス、ちょうど良かった!今、とっておきを作ったばかりだから、食べて食べて!」

マリアが真っ赤なメイド服みたいな水着のフリルを揺らしながら、とびっきりの笑顔で手に持ったお盆の中の茶色いケーキを差し出す。

「これは…?」

「これはね。チョコレートケーキって言うんだって!私もさっきグラディオスに教えてもらったばっかなんだけど…」

マリアが楽しそうに言うのをききながら、チョコレートケーキを受け取る。

「そうなのね。ありがと!」

「どういたしまして!」

マリアは楽しそうに他の人に配り始める。

「アリス…こっち…」

窓際に居たリリアが私を呼ぶ。

私はリリアの隣に座る。

「お?アリスとリリアじゃないか!こんなところで何をしておるのじゃ?私にも寄越すのじゃ!」

クレアがワンピースの水着を泥だらけにして、とても楽しそうに笑いながら窓から入ろうとする。

「ちょ…」

「クレア!ダメ!体、洗ってから!」

私が戸惑っているとリリアが珍しく大声で勢いよく叱る。

その場にいた全員が一斉にリリアを見たほどだ。

クレアは少しだけ驚いた顔をしながら、素直にシャワールームへと向かっていた。

リリアは「ふぅ…」とホッとした様子でため息をつきながら、幸せそうにチョコケーキを頬張っていた。

前日にマリアから聞いたのだが、リリアはとても甘いものが好きなんだそう。

その様はなんでも丸呑みにする全身が伸縮自在な胃袋のB級モンスター、イブクロンの様だと言っていた。

そのおかげか、リリアはあっという間にチョコレートケーキを1ホール、2ホールととても幸せそうに頬張っていた。

私はリリアのスタイル抜群の身体を見て羨ましいなと思いながら呟く。

「はぁ…一体どこにそんな量が入るのやら…」

私はようやく一切れ食べ終わったところだ。

ただ、私には少し甘過ぎたようで、胸焼けがする。

「気分転換に外の風に当たりに出ますか…」

私は夢中でケーキを頬張るリリアの邪魔をしない様に席を立って、入口で呼び込みをしていたマリアに「少し散歩してくるね」と伝える。

私が小高い山の方へ歩き始めると入れ替わりでクレアが入って行くのが見えた。



しばらく、道なりに歩いて、山の麓まで来ていた。

「おやおや…お客さんかえ?」

私が驚いて振り返ると近くにあった東洋式の小屋からおばあさんが私の方を向いてニコニコと微笑んでいるのに気がつく。

「いえ…たまたま近くを通っただけなんです。」

「そうかえそうかえ」

おばあさんは︎ニコニコと微笑みながら頷いていた。

「おばあちゃんはここで暮らしているんですか?」

私がおばあさんに尋ねると、「そうじゃよ。」と返事が返ってくる。

「ワシは爺さんと会った時から住んどるから、もうかれこれ70年はここに住んどるの。孫たちには街に引っ越せと言われるが、爺さんとの思い出の家じゃから離れがたくてのう。」

「そ、そうだったんですね…辛い事をお聞きしてすみません…」

私が頭を下げるとおばあさんは「カッカッカッ」と笑いながら言う。

「気にせんでええ…お嬢さんさえ、良がったらちっとばかしババアの話相手になっておくれ。」

「えぇ、良いですが…まだ私、名乗ってませんでしたね。アリスと言います。」

おばあさんはまた「カッカッカッ」と愉快に笑う。

「アリスちゃんか、ええ名前じゃのう。ワシは美智代みちよじゃ。ここへ座りや。その間に茶を入れてくるでの。」

美智代はエンガワを指さしてそう言うと家の中へと入る。

私は美智代に促されるがままに座って待っていた。

「なんだか、癒されるなぁ…」

そんなことを思いながら待っていた。

思えば、最近はずっと戦いっぱなしだったし、いろんなことがあった。

「あの頃の私は自分が戦うなんて考えもしなかっただろうな…」

最高位貴族の養子だった私は何不自由なく暮らしていたし、家の皆も優しい人ばかりで領地内外から可愛い可愛いと言われて育ったんだっけ…

そして私がお爺様とお兄様の反対を押しきってまでして、冒険者になるきっかけとなった出来事が起きた。

辛い事、嫌な事もたくさんあって何度も何度も死にたいとか帰りたいなんて思ってた。

でも、それと同じ…いや、それ以上に楽しい事、嬉しい事があったし、今の私にはリリアやマリア達が居る。

失ったものも多いけど、それ以上に得られたものが多かった。

あの頃の優雅な暮らしも幸せな暮らしだとは思うけど、今の仲間と何気ない一時を過ごすのが何よりの幸せなんだろうなと思う。



私はいつの間にか寝ていた様で美智代がやってきて、しばらく寝ていたのだと言う。

「す、すみません…」

「アリスちゃんの可愛い寝顔を見でだら、ワシの孫娘が小さい頃を思い出すみたいでの。じゃじゃ馬娘じゃったから、大変じゃったがのう。」

美智代は幸せそうに空を見る。

私も一緒に空を見る。

そして、夕暮れ時になるまでのんびりとした時間を過ごしていた。

「日も暮れてきましたので、そろそろおいとまさせていただきますね。」

「おや。もうそんな時間かえ?気をつけて帰るんじゃよ。」

「はい!お邪魔しました!」

「カッカッカッ!ワシの方こそ、邪魔したでの。」

私は美智代の家を後にして、急いで海の家まで帰る。
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