spiritGUARDIAN ~あの空の向こうへ~ ①

七瀬 ギル

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第4章「逃した悪霊」

逃した悪霊 その②

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紫月、黄泉、橙羽の3人がエントランスに入ると、黄泉が2人に向かい黄泉の後ろ側へ下がるように指示を出した。

紫月と橙羽が指示通りに後ろへ下がると、黄泉はエントランスの出入り口とエレベーターの間にある、暗証番号でしか開かないガラス扉を軽く叩き、『この厚さなら大丈夫そうね』と言うと腰に付けた大きめのポシェットから拳銃と銃弾を取り出した。

日廻 橙羽
『えっ、撃つの⁈』

百合 黄泉
『命に比べたらやむ負えないでしょ。』

日廻 橙羽
『でも・・・。』

百合 黄泉
『いいから下がって。(硝子の)破片が飛び散っても責任取らないからね。』

そう言うと黄泉は硝子扉に向かって、それぞれ3ヶ所に銃弾を2発ずつ打ち込み、銃弾に弾かれた硝子は粉々に崩れ落ちた。

黄泉は割れた硝子を更に蹴り崩し、通り抜けられるくらいに穴を広げると、3人はエレベーターに乗り込み、目的地である5階へと向かっていた。

エレベーターを降りて、マンションの外廊下を通り、目的の部屋が近寄って来るにつれて、明らかな違和感があることに気が付いた橙羽は、不安そうな表情で紫月の服の裾を握り締め話し始めた。

日廻 橙羽
『ねえ、アサガオちゃん・・・。あの部屋のドア・・・空いてるよね・・・?』

紫月が部屋の方へ目をやると、橙羽の言う通り微かに扉が開いており、室内の灯りが少しだけ外へと漏れていた。

朝顔 紫月
『本当だね・・・。』

百合 黄泉
『鍵も閉めずに慌てて中の人の方へ向かったのか、それとも私達の存在に気が付いて何かしらの意図で扉を開いているのか分からないけど、皆で一気に入るのは止めておいた方が良さそうね。』

朝顔 紫月
『そうだね。一応、皆球体を手に持っておこ!』

日廻 橙羽
『うん。』

3人は白と黒に彩られた球体を手に持ち、目的の部屋の扉の前で立ち止まった。

朝顔 紫月
『それじゃあ私、入ってくるね。もし私が5分経っても出てこなかったら、2人は1階へ逃げてリーダー達に連絡して。』

紫月がそう話すと、黄泉が橙羽の頭の上にポンと手を乗せ『一人じゃ危険よ。私も行くわ。』と言い終わると、黄泉は不安そうな顔で佇む橙羽の顔を覗き込み、『5分経っても私達が出てこなかったら、リーダー達に連絡して、早く来るよゔ伝えなさい。分かったわね。』と伝え、紫月と黄泉は玄関の中へと入って行った。

------------------------

紫月と黄泉が室内へ入ると、電気はついているものの、玄関には1足も靴が置かれておらず、ベビーベットにも赤ん坊の姿は見あたらなかった。
御飯も炊けてはいるが、リビングや部屋に人の気配も感じ取れず、どうやら外出しているようだった。

朝顔 紫月
『留守みたいだね。』

百合 黄泉
『一応、部屋の中も調べておきましょう。』

紫月と黄泉は部屋の奥にある押入れの前に立つと、2人は顔を見合わせ唾をこくりと飲み込んだ後、押入れを引いたのだが、中には大人用の布団が2枚入っているだけで、特に変わったところは無かった。

朝顔 紫月
『確かに5階には、上がって行ったのにね。』

百合 黄泉
『まだ外廊下に居るかもしれないわね。だとすればヒマワリちゃんが危険だわ。』

黄泉が再び玄関の方へ向かって行くと、室内の廊下に面した洗面所の扉が急に開き、その中から先程1階で見た男が無表情でゴルフクラブを振り下ろして来た。

朝顔 紫月
『黄泉ちゃん、危ない!』

紫月は、慌てて球体を壁に打ち付けて破損させたが、運動神経の良い黄泉は、ギリギリのところでゴルフクラブを避け男のお腹に蹴りを入れた。
そして男が怯んだ隙に、黄泉は紫月の手を引き外廊下へと駆け出した。

------------------------

急に扉が開き紫月と黄泉が飛び出てきたことに、驚き飛び上がる橙羽。

日廻 橙羽
『何!』『何!』『何があったの⁈』

百合 黄泉
『良いから着いて来なさい!』
『追い付かれても知らないわよ!』

そう言いながら黄泉は紫月の手を引き外階段の方へと走って行った。
その少し後ろに続き、何も分からないまま走る橙羽。

日廻 橙羽
『何があったの?』

そう言いながら橙羽が後ろを振り向くと、先程の男が無表情でゴルフクラブを片手に走ってきていた。
その男の瞳は、先程見た時とは明らかに違っており、物凄く燻んだ感情を感じ取れないものだった。

黄泉は振り返り青褪めた表情の橙羽に『(状況が)分かったでしょ。取り敢えず、1階まで駆け降りるわよ。』と冷静な口調で話しかけると、階段を駆け降りて行った。
その後を同じく息を切らしながら階段を駆け降りる橙羽。

日廻 橙羽
『中の人は、どうなったの?』

朝顔 紫月
『運良く、外出中だったみたい。』

階段の上の方から聞こえる男性の足音は、乱れることも無く一定の間隔を保ち続けており、男の足音からは、疲れた様子が一切感じられなかった。

日廻 橙羽
『疲れたぁ~!』

百合 黄泉
『疲れてでも走りなさい!』

朝顔 紫月
『1階に着く頃には、リーダー達来てるかな?』
 
百合 黄泉
『さあね?』

3人が1階に着くも葵達の姿は見当たらず、3人はマンションを飛び出した後、沢山並んだ背丈のある花壇を見つけると、その内の1つの花壇の方へと向かい、花壇で身体を隠すように橙羽を休ませていた。

朝顔 紫月
『どうしよう・・・。』

百合 黄泉
『流石に、(リーダー達)もう来るでしょ。』

そんな話しをしていると、隣にある花壇に向かって猛スピードで車が突っ込み、3人が恐る恐る車の運転席を眺めると、そこには血走った目でこちらを眺める、先程の男の姿があったのであった。
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