spiritGUARDIAN ~あの空の向こうへ~ ①

七瀬 ギル

文字の大きさ
20 / 25
第4章「逃した悪霊」

逃した悪霊 その①

しおりを挟む
一方、紫月、黄泉、橙羽の3人は、駅の近くの交差点で調査を続けていた。

百合 黄泉
『小さな子の啜り泣く声なんて聞こえないわね。誰かの聞き間違いなのかしら?』
『それとも駅周辺ってこともあって、周囲の音に掻き消されて聞こえないだけなのかしら?』

朝顔 紫月
『情報はみんな深夜に来ているみたいだから、もしかすると、この時間帯は居ないのかもしれないね。』

百合 黄泉
『ここまで姿を表さないとモヤモヤするわね。学生で無ければ、出勤時間を深夜帯にしてもらうところなんだけど。』

そう言いながら、しゃがみ込んでお腹を抑える橙羽の方を眺める黄泉。

百合 黄泉
『あんた、働くきあるの!』

日廻 橙羽
『あるよ。でもお腹が痛くて・・・。』

橙羽は、お腹を抑え辛そうな顔をしている。

百合 黄泉
『慌てて食べるから、そうなるのよ!』

日廻 橙羽
『だってお腹空いてたんだもん。』

そんな会話をしていると、紫月のショルダーバッグの中からスマホのバイブ音が微かに聞こえてきた。

紫月はショルダーバッグの中からスマホを取り出すと、『リンドウちゃんからだ!』と言い電話に出た。

朝顔 紫月
『もしもし。』

林藤 白華(電話)
『今、大丈夫かな?』

朝顔 紫月
『大丈夫だよ、何かあったの?』

林藤 白華(電話)
『急用のお願いがあってね。』

朝顔 紫月
『何?』

林藤 白華(電話)
『ここ最近、海岸沿いのトンネルで事故が多発していたでしょ。 それがどうやら悪霊の仕業だったみたいなんだ。』
 
『悪霊はリーダーとバラちゃんが見つけてくれたんだけど、私のミスで悪霊が憑依した人が乗車していた車を見失ってしまって・・・。それで今、車のナンバープレートを元に如月警部に車の持ち主を調べてもらったところ、その人の家が駅周辺にあることが分かったんだ。』

朝顔 紫月
『色々と大変だったんだね。それで私達は、どこへ向かえば良いの?』

林藤 白華(電話)
『今、マップと車のナンバーを送るから待ってて。』

朝顔 紫月
『うん、分かった。』

数秒後、紫月のスマホに白華から、悪霊に取り憑かれた人物の家に印が付けられたマップの画像と、その人物が住んでいる階数と部屋番号、乗車している車の情報を記載したメールが送られてきた。

朝顔 紫月
『確認できたよ。今から行くね。』

林藤 白華(電話)
『有難う。私達も如月警部の車でそっちへ向かっているから、例の車が到着したら連絡をもらえるかな?』
『まだその人に憑依したままなのか、その辺りのことも分かる限りで良いから教えてほしいんだ。可能性は少ないと思うんだけど、事故が起きた現場に戻っていた場合は、また行動を練り直さないといけないからね。』

朝顔 紫月
『分かった。じゃあ、また後でね。』

林藤 白華(電話)
『ありがと。私達も直ぐに行くから。』

朝顔 紫月
『うん。』

紫月は電話を切ると、隣で怪訝な表情を浮かべる黄泉と、不安そうな顔で紫月の顔を見上げる橙羽の姿があった。
どうやら電話の内容が、隣に居た2人には筒抜けだったようだ。

百合 黄泉
『それで、どこに行けば良いわけ?』

紫月は黄泉に、スマホに送られてきたマップを見せた。

百合 黄泉
『ここって確か個人塾がある辺りよね。』

黄泉がスマホの時間を見ると、時刻は19時を少し過ぎていた。

百合 黄泉
『でもまあ、もう皆帰る頃ね。それなら人目を気にする必要も無いわ。行きましょ。』

マンションの方角へ歩き出す黄泉。
紫月と橙羽も、その後ろに続きマンションへと向かった。

------------------------

マンションの下に着いて15分程経った頃、メールに記載されていたナンバープレートの付いた白い乗用車が駐車場へと入ってきた。
だが車から降りた男性は、特に変わった様子も無く優しそうな顔をしていた。

日廻 橙羽
『あの人が憑依されているの?』
『橙羽には凄く優しそうな顔に見えるんだけど。』

朝顔 紫月
『そうだね。怒りの強い霊体からは赤いオーラ、死期の近い人からは黒いオーラが出るって聞いたことがあるけど、あの人からは特に何のオーラも感じないから、どこかで離れていったのかも。』
 
日廻 橙羽
『それなら安心だね♪』

朝顔 紫月
『うん。そうだね♪』

紫月と橙羽が安堵の表情を浮かべる中、男性は何事も無かったかのようにスマホを片手に笑顔で誰かと話しながら、マンションのエントランスへと入って行った。

そんな幸せそうな男性を、唯一怪訝な表情を浮かべ眺めていた黄泉が口を開いた。

百合 黄泉
『私達、重大なミスを犯しているかもしれないわ。』

朝顔 紫月 or 日廻 橙羽
『ミス?』

百合 黄泉
『ヒマワリちゃん、あなたマンションに住んでいるって言っていたわよね。』

日廻 橙羽
『うん。そうだよ。それがどうかしたの?』

百合 黄泉
『マンションのオートロック機能が、キータイプや指紋認証だったら身体を奪えば中に入ることができるわ。でもオートロックが暗証番号だったとして、一時的に身体から離れたのでは無く、身体の中に隠れたのだとすれば?』
 
黄泉の話しを聞き、引き攣った表情で紫月と橙羽が再びエントランスの方へ目をやると、男性は既にオートロックを解除し、出入り口とエレベーターの間にある分厚い硝子扉を開いていた。
 
男性がエレベーターの前まで行くと、分厚い硝子扉が閉まり、男性がエレベーターに乗り込み、エレベーターの扉が閉まる寸前、微かにエレベーターの扉の隙間から「赤黒いオーラ」のようなものが目に入った。

紫月は慌ててスマホを取り出し、白華に連絡を取り今起きていることの説明し始めたが、その言葉使いは普段の優しい口調ではあるものの、少しパニックを起こしていた。

林藤 白華(電話)
『そうか、その様子だと霊体は憑依したままのようだね。もう直ぐ私達もそっちに着くから、アサガオちゃん達は自分の身を守る事だけに専念して。後は私達が何とかする。きっと大丈夫だから安心して!』

紫月の隣に居た黄泉は、スマホから聞こえる会話を耳にし低く怒りを保ったような声で話し始めた。

百合 黄泉
『「何とかする」?』『「きっと」?』
『遅れて来といて何ができるって言うのよ?』
『今必要なのは、侵入の許可だけでしょ。どうにかして「侵入を試みても良いの?」「駄目なの?」私が欲しいのは、その答えだけよ。』

紫月が黄泉の方に目をやると、黄泉はエレベーターの止まったマンションの5階を眺めていた。
紫月が黄泉の目線に目をやると、その階は小さな子を連れた家族が多いようで、バルコニーに小さな子の洗濯物が沢山掛かっており、事態は想像以上に深刻なようであった。

紫月は唾をこくりと飲み込むと、『リンドウちゃん、黄泉ちゃんの声聞こえた?』とスマホ越しに白華に問いかけた。
 
林藤 白華(電話)
『うん。聞こえたよ。如月警部、許可は頂けますか?』

電話の向こう側で、如月警部は白華の問いかけに対して『分かった、僕が全て責任を負う!』『但し最小限の損害で頼むよ!』と紫月や黄泉に聞こえるくらいの大きな声を発した。

林藤 白華(電話)
『と言うことらしいよ。でも無理はしないでね。私達も直ぐに、そっちへ行くから!』

朝顔 紫月
『うん、分かった!』『有難う!』

そう言うと紫月は電話を切り、少し安心した表情で黄泉の方を見てにっこりと微笑んだ。

そんな紫月と目が合い顔を赤くした黄泉は、恥ずかしそうに『じゃあ、さっさと行くわよ。』と言うとエントランスの方へと向かって行き、その後ろに続き紫月と橙羽もエントランスへと向かったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...