spiritGUARDIAN ~あの空の向こうへ~ ①

七瀬 ギル

文字の大きさ
1 / 25
第1章「吹き返す呼吸」

吹き返す呼吸 その①

しおりを挟む
10月のとある土曜日の正午過ぎ、学校の屋上の手摺りを乗り越えて真下を眺める少女の姿があった。

少女の名前は、神原 朱珠(かんばら すず)。
彼女は5ヶ月前に大阪から、この小さな町に転校してきた高校1年生の少女である。

元々、元気で明るく常にクラスの中心にいる存在だったのだが、転校してからは酷い虐めに合っており、誰にも相談することができず、気を病むことが多くなっていた。

 神原 朱珠
『母ちゃん、ごめんな。』
『私もう無理やわ。耐え切れへん。』

真下に見える地面を眺めながら、そう呟く朱珠。
朱珠はこの日、自らの命にピリオドを打つ為、屋上に立っていたのであった。

そんな中、朱珠の背後から、一人の少女が抑揚の無い口調で語りかけてきた。

謎の少女
『死ぬの?』

神原 朱珠
『ひぃ!』『ビックリした!』
『あんた、いつからそこに居ったん?』

朱珠が振り向くと、そこには青色の長い髪を靡かせた綺麗な顔の少女が立っていた。

謎の少女は、朱珠の問い掛けに反応することもなく、再び語りかけてきた。

謎の少女
『死ぬなら"その体"使わせてほしくて。』

神原 朱珠
『もしかして、あんたもあの子達の仲間なん?』

『悪いけどエスカレートしていく虐めには、もう耐えられへんねん。』
 
『それに私、犯罪までは起こしたくないんよ。やから、ごめんやけど諦めてな。』

謎の少女
『何を言っているの?』

『私は、あなたの体を少し借りたいだけ。勿論、生きているあなたの体をね。』

『もしも私が、あなたを虐めから救うことができたら、私に協力してくれる?』

精神的に弱っていた朱珠は、その少女の「救う」という言葉に感銘し、気がつけば目には大粒の涙を浮かべていた。

神原 朱珠
『私を助けてくれるん?』『あんがと。』

謎の少女
『それじゃあ、契約成立ね。』

そう言うと謎の少女は、左手に隠し持っていた、ピンポン玉程の白と黒が半々に彩られた球体を足元へ落下させた。

球体は地面に接触した部分が粉々に崩れ、中からは黒い煙が溢れ出し、一瞬で辺りはモノクロ写真のような景色へと変貌していった。

神原 朱珠
『何なんこれ?』『怖いねんけど!』

周囲を見渡しパニック状態の朱珠の元へ、表情一つ変えることなく、謎の少女が近寄ってきた。

謎の少女
『大丈夫よ、この空は怖くないわ。』
『この空は"希望"なの。』

そう言うと、謎の少女は朱珠の両肩に両手を添え、朱珠を屋上から突き落とした。

神原 朱珠
『えっ!』『ちょっ!』『嘘やろ!』

体が宙に舞う中、朱珠は涙を流しながら、何事も無かったかのように屋上を去っていく謎の少女の背中を眺め考えていた。
 
神原 朱珠
『(今まで希望なんて無かったのに、急に救世主が現れるなんて虫が良過ぎんねんな。少しでも人を信じた私が馬鹿やったわ。)』

『(最後に母ちゃんの声、聞いといたら良かった。母の手一つで育ててくれたのに、ごめんな。)』

『(私、母ちゃんの娘で、ほんまに幸せやったで。)』

短い時間の中で、様々な感情を抱きながら、大きな音と共に朱珠の体は地面に叩きつけられたのであった。

------------------------

地面に仰向けになり空を眺める朱珠。
朱珠は体に激しい痛みを感じながらも、擦り傷一つ無い状態で生きていたのであった。
 
そんな中、屋上から降りてきた謎の少女は、再び朱珠の元へと近寄ってきた。

神原 朱珠
『この灰色の景色が何か関係してんねやろ?』

その問いに対し、謎の少女は、ゆっくりと話し始めた。

謎の少女
『ボールの着地地点から半径20mの黒い霧に覆われた世界では、5分間の間、痛みは伴えど生命体が傷を負ったり、死んでしまうことは無いわ。』
 
『それより、どうだった?』

『今、どんな気持ち?』

神原 朱珠
『体が宙に浮いた瞬間、最後にもう一回、母ちゃんの声、聞いといたら良かったとか、母ちゃんの美味しい手料理を、もっと食べといたら良かったとか、私はアホやなって。ほんまに、生きとって良かったわ。』

そう涙で言葉を詰まらせながら話す朱珠。

謎の少女
『そう。それなら良かったわ。』
『これでもう、あなたは大丈夫そうね。』

そう話すと、謎の少女は倒れている朱珠の隣に仰向けに転がった。
 
謎の少女と朱珠の目の前に広がる空は、再び青さを取り戻していた。

謎の少女
『綺麗な空。』『見て、飛行機雲。』

空を指差す謎の少女。
謎の少女の指を指す方向を眺める朱珠。
そこには確かに、綺麗な飛行機雲があった。

神原 朱珠
『なぁ。協力って、私何したらええの?』

謎の少女
『その話しなら、今日はかまわないわ。』

『それよりも今日は早く帰って、逢いたかった、お母さんに逢ってあげて。』

『話しは明後日、あなたを虐めている連中から、あなたを救出した後で良いから。』

謎の少女は、空に指を指した状態で3度程瞬きをした後、立ち上がり『じゃあね。』『ばいばい。』と言いながら小さく手を振ると、校門の方へと歩いて行った。

神原 朱珠
『ほんまに出来た人やな。自分の要求が一番最後やなんて。』

『それにしても、どうして屋上におったんやろ?』
 
『私を気に掛けて着いて来てくれとったんかなぁ?』

------------------------

朱珠の通う学校は、不良が多く、教員達も生徒の悪行を見て見ぬふりをして過ごしている。

現に今だって大きな音を聞き、朱珠の元へ駆け付けてくれる教員や生徒は誰一人いないのである。

この物語は、この2人の少女を含めた【7人の少女】の半年間にフォーカスを当てた少し不思議な物語です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

徒野先輩の怪異語り

佐倉みづき
キャラ文芸
「助けて、知らない駅にいる――」 きさらぎ駅に迷い込み行方不明となった幼馴染みを探す未那は、我が物顔で民俗学予備研究室に陣取る院生・徒野荒野を訪ねる。 あらゆる怪談や怪奇現象を蒐集、研究する彼の助手にされた未那は徒野と共に様々な怪異に行き当たることに…… 「いつの世も、怪異を作り出すのは人間なんだ」

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...