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メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁16:考察とは 2
しおりを挟む確かに私の【辞典】に登録すべき名称は星の数以上あるのかもしれないが、こんな風に雑に拾い上げられてしかもこんな雑に承諾されてしまうなんて…。
ここで承諾された名称が世界共通の名称としてこの星に根付くという意味だろう。その責任はあまりにも大きすぎる。決めるべき名前の量に圧し潰されていつか自分自身が雑さに染まってしまった時、私は果たして私のままでいられるのだろうか。
「初期装備とイスの違いだけどサ」
悶悶と悩む私を余所に神々廻さんが続ける。
「…ミッション1の世界設定に関わる部分と、ミッション2の辞典製作に関わる部分の差では…」
「やっぱそう思うよネ」
同期した本で分かった神々廻さんの担当すべき設定とは、世界そのものの在り方に関する項目が殆どだった。通常の星の歴史であったならばそれらは時の流れの中で自然に人類が決めていくべき物だが、彼によりプロセスを端折って作られたこの星は歴史や文化についてはこの本に支配されていると言っても過言ではない。
強制的に据え置かれた人類はとりあえず用意された世界で何とか生きてきた。自分達が日常的に利用している物の名前さえ分からないという欠損を欠損と認識出来ぬまま。
神々廻さんのミッション1とは、恐らく『認識すら出来ない欠損を埋めていく作業』。
そして我々共通のミッション2とは、『認識出来る欠損に名称を設定し本来の存り方へ正す作業』なのだろう。
「ひろしさんとの会話で所々抜け落ちていた部分がありましたけれど、前後の文章から推測するに『地名』『敵対生物の総称』『職業に関する情報』などでした。これらはいずれもミッション1の名称設定で解決できます。一番の例が初期装備品ですね。設定前はそれについて考える事すら出来なかったのに、設定された瞬間に可視化され認識も可能になった」
「ふむふむ。相変わらず頭いいね」
なんでそっちが説明される側なんですか。天地創造の先輩でしょうあなた。
「てコトは、イスについてもみさ博士の予想通りか」
誰が博士だ。
私は足元に転がる多分石であろう物体を拾う。予想通り、持っているのに持っている気がしない。確かに掌に何かしらの物体としての感触はあるが、その物を表現するあらゆる情報が不安定で得られない。
それを神々廻さんに放り投げる。
「それ、何でしょうね?」
「え? 石じゃね?」
何の気無しにキャッチすると、見たまんまの感想を口にする彼。そして予想通り私の本にシステムメッセージが。
《 個体名/鉱石類:石 が提案されました。》
「はい提案頂きました。では承諾」
「えっ?」
《 個体名/鉱石類:石 が承諾され、世界に登録されました。》
「うおっ! 石じゃんコレ!?」
「その通りです」
傍から見ている人がいたら芝居の練習でもしているのかと思われそうなくらいベタな反応だが、まさに見ての通りの劇的な変化が起きるのだ。
それは最早『無かった物が現れた!?』というレベルに近い。
「ではキャッチした瞬間、本当に石だと認識出来ていましたか?」
組んだ腕の片方の手を顎に当てて記憶を辿る彼。
「いや…先入観で多分石だろうって。見た目的に石以外思いつかなかったし?」
「神々廻さんが石だと思った事が【提案】になり、私がそれを【承諾】してこの世界にも石という概念が定着しました。そして漸く他所の世界の存在である我々も初めてそれを本当の意味で石だと認識する事が出来るようになるみたいです。この一連の繰り返しが我々に課されたミッション2なんだと思います。」
「ぬおぉぉ…ナルホドなぁ…!」
眼球が落ちそうな程に目を見開いて感心している。開きすぎてて気持ち悪い。
「ただ───」
「ただ?」
パタンと本を閉じ、目を伏せる。
(次頁/16-3へ続く)
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