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メガネスーツ女子と死後?の世界
頁28:二周目前の検証実験とは 1
しおりを挟む暗い。暗闇なのか、目を閉じているだけなのか。
それなのに浮かび上がる、目、目、目。大量の目が私を見ている。いや、近付いて来ている。
その感情は読み取れない。恨みにも嘲笑にも下卑た欲望にも見える。
私の体は指先一つ動かせない。完全なる無抵抗だ。ただ一つ分かるのは、無抵抗ゆえに慈悲を掛けられるという都合のいい未来は無い事。
それを証明してやると言わんばかりに大量の目が私目掛けて飛来する。圧倒的な暴力の嵐が私の全身を削り潰して───
「こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
視界が唐突に開け、体の自由を得た私はやり過ぎた腹筋運動の如く上に乗っかっていた何かを吹き飛ばしながら飛び跳ね起きた。
「うおビックリした!!」
少し離れた場所から聴こえた声…。
「お帰り。でもっておはよう。起きた? って見りゃ分かるかw」
読んでいた本から目を離しこちらを見る軽薄な笑顔。だらしない服。目が痛い程に真っ白な地面。遠近感の無い青空。
そして跳ね飛ばしたのはなんかヨレヨレにくたびれた感じのする毛布。ちょっと湿気臭い。
「これ……」
「ヤ、そのまま寝かしておくのもアレだし、寒くはないとは思ったけど一応ね?」
物体を呼び出すのにどれくらいの制限があるのかは分からないけれど、どうしてそれならもう少し綺麗な状態の物を被せてくれないんだろうか。相変わらずのデリカシーの無さと言うかズレと言うか。
だからこそ、心底ホッとしてしまった。
「え…アレ…? ちょっと、みさちょんサン…??」
角付きに貫かれて倒れた彼等の姿がフラッシュバックする。
「…う……うえぇっ…、神々廻ざん……よがっだぁ……ごべんだざぃぃ………うええぇぇぇぇぇぇ」
「はぁ!? や、ま、えっ? ナニ!?」
色々な感情が爆発し、私は暫くの間人目を憚らず幼児泣きを広大な空間に響かせたのだった。
◇◆◇◆◇◆
ズビィィィィィィ!!!!
お世話になりっぱなしの箱ティッシュ(しっとり触感)で盛大に鼻をかむと、亜空間ゴミホールにポイ捨てする。このティッシュどこまで飛んでいくのだろうか。
正座した私の向かいには同じく正座してオロオロソワソワしている神々廻さん。普通に考えれば目の前で突然成人女性が幼児泣きし始めたらそういう反応になりますよね。
「取り乱してしまい申し訳ありませんでした…」
前に『辺りが夜だったらいっそ焚火でも囲みたい』と思ったせいか、なぜか現在空は薄暗くなり我々の目の前に焚火が設置されている。どういう空間なんだろうここ。意味が分からない。
「イヤ、さすがに驚いたヨ…。どうしたのサ突然?」
「いえ…その…」
二人が無事でよかったから、なんてもう言えない…恥ずかしすぎる。それに素直に言った所で『いやいや無事ってww そもそも死なないでしょオレ達www』と笑われるのが目に見えている。リアルに想像できる。
「マジで…大丈夫?」
…でも何となく、今の彼の目から感じる人となりならば私のこの気持ちも理解してもらえるのではないだろうか。
言わなければ伝わらない。今後もずっと一緒にいる訳だし、些細な事でも隠すのはやめよう。
「その…、私を庇って二人が刺されて…。でも無事でよかったって思」
「いやいや無事ってww そもそも死なないでしょオレたtごぴょぇッ!?」
「一文字も外さずに言うな!!!」
顔面に向けて通常種の体当たり並みの衝撃をぶつけてやった。後頭部を打ち付けながら後転していく神々廻さん。
やはりこの空間では【力】は顕在の様だ。
「ナハ…ハ…、よくわかんないケド落ち込んでたみたいだから…冗談だったんだけどサ…」
「もう今後絶対言いません!」
暫くは。
「そんなァ…おいシュウ、話と違うじゃねーか! ってナニ爆笑してんだヨ!」
匍匐前進でずりずりと戻りながら心底悲しそうに呟いたと思ったら独り言で喧嘩している。器用だな。
と言うかシュウさんの差し金だったのか。あの人そんな冗談言えるのね。爆笑するシュウさん…見てみたいような恐ろしいような…。
「私が起きる前に何を調べてたんですか?」
気持ちを切り替える為、泣いていた間外していた眼鏡を再び掛ける。パンパンに腫れていた目元と顔は怪我と認識されたのか元通りに再生されていた。
「あ、メガネしちゃうんだ…」
「基本装備なので」
「ソーナンスカ…」
ソーナンス。
「えっと、あの戦闘で世界のシステムがイロイロ判明したジャン? それを確認しようと思って」
「成程」
我々の【力】の極端な制限や、強制的に立ち位置を変更させられた事、そして…
「後出し方式でヘルプが追加されていくのがナットク行かないんだけどサ、とりあえず分かったのがこんな感じ」
《 創造者及び編纂者 の能力は『 』上において以下の通り制限を受ける。
・再生能力:拠点の60分の1 ※傷病の重篤度により要する時間に変動有。
・身体能力:+補正は全て解除。
・空想具現能力:対象を害する能力は悉く封印。左記に該当しない空想であっても効果に極端な制限。》
編纂者の後の妙な空白は…誤植か?
《 ダンジョン探索時、探索者がダンジョンに於ける目的/狙いより逸脱した行為を行った場合、状況に応じたペナルティーが科せられる。》
…何だこれ。まるで後付けされた契約条項みたいじゃないか。しかも質の悪い企業的な。
いや、寧ろ後付けなのだろう。
(次頁/28-2へ続く)
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