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メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁27:最初の結末とは 3
しおりを挟む「え……」
無慈悲な尖角がその何かに深々と突き刺さり、その先端は背中を突き破り赤い塗装を衝撃のまま撒き散らす。
私の身代わりとなった彼が口から大量の血を吐き出し、力無く崩れ落ち地に伏した。広がる血液の池、動く気配の無い体。
喉にやっと心が戻った。
「───どうして!!?」
痛みも忘れ彼の元へ駆け寄る。角付きは倒れる彼の体に巻き込まれない様に離脱していた。
「シュウさん!! 神々廻さん!!! しっかりして! ねえ!!」
噴き出す血に体が染まっても構わずに彼等の名を呼ぶが、貫かれた位置を見ればそれが即死であるとは嫌でも予想がついた。シュウさんが表に現れる事によって一時的に意識の裏側へ追い出された神々廻さんが意識を取り戻したとしても、肉体の機能が停止している現状では恐らく何の解決にもならないだろう。
畜生。ちくしょう。チクショウ。
私は呪った。己の不甲斐無さを。偉そうに御高説を垂れておきながら結局は自分だって守れなかったじゃないか。
座り込んだまま動けない私の周辺を殺戮者達が舞う。
そうだよね。それがあなた達の役割なんだから。
自分がそっちの立場に回った時だけ理不尽さに嘆くなどお門違いもいい所だろう。
《 創造者の心機能完全停止から一定時間が経過。拠点への強制送還を実行します。》
「え?」
再び網膜に映し出される文章。そして横たわった彼の体が突然ふわっと浮き上がり直視出来ない程の光に包まれたかと思ったら、眩しさに目を閉じた一瞬の後には跡形も無く消え去っていた。
「どういう事…?」
同じ光景を見ていたのか、飛ぶ眼達も瞼?をギリギリまで閉じながらこちらと距離を取って飛び回っていた。
システムメッセージを思い出す。
《 拠点への強制送還 》…。拠点…、そうか、あの場所だ。もしかしたらこの状況からでも…!?
立ち上がり、意識を集中する。開かれる扉のイメージ、そして行き先を強く思い描く。
「ゲート、オープン!」
前世だったらこんなセリフを大声で発する自分に悶絶死していただろう。でもここは異世界で観客は目玉だけだ。恥ずかしがってる場合じゃない。
《 『 』から拠点への自由意思による帰還は出来ません。》
…まさかの、だ。
視界に流れるメッセージに微かな希望すら打ち砕かれる。
私の異質な動作に警戒したのか、視力が回復したらしき角付きが大将自ら引導を渡しに接近して来た。
最後まで諦めるな、とよく誰かは言う。私も言う時がある。
でもそれは爪の先程でも希望が残っているのであれば、の話だ。
この状況で精神論を振りかざせる程私は楽天家では無かったらしい。
角付きが彼の血で赤く染まった体と角で突撃して来る。
私も、死んであの二色空間へ送還されるのだろう。それは最早仕方の無い結末だった。私達は間違ってしまったのだから。
諦めたのではない。再スタートだ。そう誓った。だから間違いの代償として、今は甘んじてその角を───
【怒りに我を忘れた獣が一本の鋭く尖った爪を立てて突進してくる。私にはそれを躱す力はもう無い。油断してしまった時点で私はもう終わったのだ。ならば終わり方くらい、私が思う正しさで終わろう。】
急速に脳裏に焼き出された記憶。
前世の最期の、あの瞬間。
私が思う正しさって何だ? またしても甘んじて刺されて死ぬのが正しさか? 再起を誓っているから潔く刺されるのか? 違うだろう!!
迫る死の刃。対して私が唯一持っている物、それは異世界の在り方その物を記す───本。
高く掲げた両手の間に召喚したそれを掴み、そのまま叩きつける。
「こンのクソ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
振り下ろされた本と角が触れ合ったかという瞬間、本を中心として物凄い衝撃が発生し私を吹き飛ばした。
本を手離しこそしなかったものの、私はその衝撃をモロに受け壁際近くまで飛ばされた。
仰向けに転がった状態で自分の体に意識を通して調べてみる…までも無く、グチャグチャだった。服なんて千切れ飛んでてほぼ纏ってもいない状態だ。神々廻さんに見られなくて良かった。なんて。
大きく咳き込んだ口から血が派手に吹き出した。
《 本書へのダメージを確認。ペナルティーにより保有者の身体を一定時間拘束しています。》
翳んだ視界にやけにくっきり映る文字。そう言えば縮小地図もハッキリ映っている。眼球の状態に左右される視界と違って脳に直接表示されているのだろうか。まあ、どうでもいいや。拘束される以前にもう指一本動かせないし。…いや、もしかしたらあの衝撃波自体がペナルティーだったりして。だとしたら服まで吹き飛ばすとかお仕置きちょっと重すぎませんか…?
少し遅れて、残念ながら接近して来る敵影。角付きを先頭に。
ああ、やはりあの衝撃波は私に対しての物だったのか。ぶっ飛ばしきれなかったのが少し悔しかった。
だけど、あの時と今回は明らかに違う。
「見てなさい…。次は必ず、私達が勝ちます」
誰にも気付かれる事の無い山奥の洞窟の奥、ある人間が敵対生物により肉片にされひっそりとその生を閉じた。一時的に。
《 創造者及び編纂者の死亡を確認。全滅によるペナルティーが『 』に科されます。》
──────え?
(次頁/28-1へ続く)
=====================
第一部はこれにて完結となります。第二部はすぐに始まります。
──────が!
………モチベーションの為にと言うとアレではございますが、もし皆様の心の何かを動かす事が出来たのであれば…ほんの数文字でも構いませんので、感想欄にコメントを頂ければ光栄と存じます。
今後とも『知識0から創る異世界辞典』を宜しく御愛顧の程、お願い致します。
degirock
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