67 / 114
メガネスーツ女子と死後?の世界
頁32:労働奉仕とは 2
しおりを挟む◇◆◇◆◇◆
「おや旅人さん、どうしたんだい?」
(たぶん)村の中心では女性陣がせかせかと炊き出しの作業に追われていた。半分が我々の為であると思うと申し訳ない気もした。
「あの、これ、ひろしさんから渡す様に頼まれまして」
私は抱えた木箱をその女性に差し出した。
確か、最初にこの村に来た時にひろしさんと話していたよしこさん、だった筈。
「ああ、ひろしさんの『 』の『 』ね? 助かるわぁ」
お、久々に無音。もし中身が野菜とかの食材で合っているのであれば『畑』の『(野菜名)』だろうか。椅子の時の様に存在していても名前が与えられていない場合は無音になるっぽいな。
「あの…失礼ですが、確か…よしこさん、でしたっけ? 私達が以前お邪魔した時にひろしさんと話していた…」
すると彼女は目を真ん丸にして驚いた。
「あらやだ、覚えていてくれたのかい? 嬉しいねえ!」
元の地球であれば高齢者と判別されてしまう年齢であろうよしこさんは、田舎のおばあちゃんの様に生命力溢れる人となりだった。
「あの…この度は本当にご心配をおかけしまして…」
「や~だ、何言ってるのもう! あたし達が勝手にもてなして勝手に心配してただけよ。でも無事で本当に良かったわぁ」
心からそう思ってくれているのが分かるだけに、自分らのしでかした事の重さが圧し掛かる。本来ならばこのもてなしを受ける資格など無いのに。
けれど皆さんの厚意を無下にするのは私のエゴだ。我々の罪は我々がひっそりと背負うしかない。
「私も何か手伝いたいのですがお手伝い出来る事はありませんか?」
「えっ、そんな悪いわ」
「いえ、連れもひろしさん達を手伝ってますし私だけ何もしない訳にはいきません」
「そう? じゃあ…お願いしようかしらねぇ。あ、そうそう。あなたお名前は?」
くるりと振り返り私を見て聞いてくる。
「あ、嵯神 観沙稀です。宜しくお願い致します」
浅くお辞儀を添えて自己紹介すると、よしこさんはきょとんとした顔だった。
「サガミミサキ…さん? あら、変わったお名前なのね。『 』の方は少し長いお名前なのかしら」
うん…? もしかしたら名字という概念は無いのか…? 確かに名字だファーストネームだというのは元の地球の仕組みではあるけれど。変な所が異世界っぽい。
「あ、ミサキで大丈夫です」
思わず名前の方を言ってしまったが、ひろしさんやよしこさんの他の人達もみんな『氏名』の『名』が名前なのだとしたら『嵯神』や『神々廻』という響きは違和感があるかもしれない。
まあこの村の人達ならば「外国の方は変わったお名前なのね~」で済ましてくれそうではあるが。いや絶対に済ましてくれるだろうな…。
「じゃあミサキさん、あなたお料理は出来る?」
「はい、一通りは学びました」
「あら素敵。可愛いのに何でも出来ちゃうのね。羨ましいわぁ」
「いや、そんな…」
後頭部がムズムズする。相変わらず褒められ慣れていないな、と内心苦笑した。
父の没後はなるべく誰にも頼らず自活していた。外食も殆どしなかったので自分を生かすための最低限の知識だけではあるが自炊関連の技術はそれなりに身についていた。
その自信が、仇となって自らを襲うとはこの時は思いもしなかった。
(次話/33-1へ続く)
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
