89 / 114
メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁42:命名と新事実とは
しおりを挟む「え………?? えっと…───南米アンデス山脈で生まれたとされている。15世紀にヨーロッパへ持ち帰られたが気候差で食用までには育たず、18世紀頃に漸く食用栽培に成功した。日本には17世紀頃にジャカルタから伝わり飢饉の度に重宝された。ちなみに『ジャガイモ』という名称は『ジャガタライモ』が訛った物だと言われている。…これでどうだ?」
シュウさんと入れ替わったのか。ズルい。回答者が二人いる様な物ではないか。
まあ、対策はしてるけど。
「正解です」
「やった! じゃあ」
「よく考えましたが、やはり駄目ですね」
「ナンデェーーー!?」
コロコロ入れ替わられると対応に困る。
「考えます、って言いましたよね? なので物凄く考えて悩んだ末の結論です」
「ぐぬぬぬ…!」
ミッション1は別に承諾システム外なので彼が無理矢理押し通そうと思えば可能なのだが、私の意見も聞いてからにしてくれているだけ協力しようという気持ちは伝わった。押し付けるだけは流石に可愛そうだから折衷案を出す。
「人々の命がかかっているかもしれないので…申し訳ありません。でもトイレ問題が解決したら次はジャガイモを検討しましょう」
「マジで!? イヤッホーーーーーウ♪」
全く、自由なカミサマだこと…。
大喜びの彼を尻目に【提案】の【承諾】を進める。この時間だけでもかなりの数の事物が世界に定着した。なるべく影響が薄そうな物を選択しているが、それらがどう転がって事件を引き起こすか予想もつかないのでドキドキしっぱなしだった。
次は…同じ画像で【提案】が二つ? 『鍬』と『鋤』って…似て非なる物じゃないか。ボヤっとしているけれどこの形状ならば恐らくは『鍬』で間違い無いだろう。農具だし世界への影響は心配せずとも大丈夫かしら。
「『鍬』、【承諾】っと…」
同一の物での【提案】の場合、片方を【承諾】すると自動的にもう片方は却下される仕様らしい。まあ当然か。
「あ、コレ! 穴掘る時に爆発したやつ!」
「はぃ?」
どう見てもただの鍬だ。なのに爆発した…?
いや待て、私もしたじゃないか。調理場で。
「どういう事ですか?」
腕を組んで頭を傾け記憶を辿る神々廻さん。
「や、たけしさんからコレ…鍬だっけ? コレを渡されて、でも【辞典】に登録されてなくてどう扱ったらいいか分からなくてサ、もうどうにでもなれって叩きつけたらちゅどぉぉぉん。だったヨ」
「分からない物を、叩きつけて……?」
状況としては似ている。今は『タマネギ(仮)』以外は名称を与えられたが、私も手にした包丁を調理台に乗せたまな板の上の『タマネギ(仮)』に向けて大きく振り下ろした。その結果がアレだ。
神々廻さんもまだ無名だった『鍬』を無名だった『土』に振り下ろしている。被害?の差は力加減や質量の差だろうか?
「もしかして…オレちゃん、スキルに目覚めちゃった系トカ…!? だとしたらダンジョンソロ攻略も可能じゃね…?」
まだ勇者願望が抜けきらない創造者がグフグフ含み笑いをしているのを無視して私は立ち上がり、辺りを見回す。
まだまだ名前の無い物などゴマンとある。そう、誰かの家の軒先に干されている?タマネギ(仮)とか。ビジュアルが怖い。
申し訳無いけれどそれを一つ拝借し、食べられるかもしれないのでと命名を後回しにしていた謎の花を一輪摘む。
「あの…ナニしてるの…?」
ついでに盥の様に見えるまだ無名の小さな桶状物体も借りる。
その桶の中に謎の花を横たえ、真上にタマネギ(仮)を握った手を伸ばす。
「一応、離れていて下さい」
「え? ちょ…」
手の中の物体を離すと、当たり前の様に星の引力に引かれ落下し───
「き、消えた!? ナンデっ!?」
桶の中に落ちたと思った瞬間、桶も花もタマネギ(仮)も纏めて消滅した。音も無く。
私は無言で追加の花とタマネギ(仮)を数セット集める。お借りしますと言ってもこれじゃあ返せないかもしれないな、と脳内で謝罪しつつ。桶はコストがひどそうだから次は無しで。代わりに拳大の石を一つ。
花を等間隔に地面に並べ、同じ数のタマネギ(仮)を小脇に抱える。まずは石を手に持ち、一つ目の花に同じ様に落とす。
既に名称を与えられた石は当たり前だが花を圧し潰してバウンドすると地面に転がった。
次はタマネギ(仮)を持ち、隣の花に落とす。
ボゴォッ!!
軽い地鳴りと鈍い音がしたと思った瞬間、花があった場所に直径30センチほどの穴が開いた。深さは…計り知れない。ちなみに花とタマネギ(仮)は跡形も無かった。
では次。
…紫基調のマーブル模様の小さな水溜まりが誕生した。匂いはしないが絶対に触りたくない。後で埋めよう。
とりあえず次。
…樹が生えた。これも名称が必要なのか何の樹か認識しにくい。高さは10mを優に超えているだろうか、かなり大きい。みんな起きてなくて良かった。
そして最後の一つ。
「うげっ…」
途中からドン引きしていた神々廻さんがその光景に耐えきれずにとうとう声を漏らした。
私も流石にこの結果は予想していなかった。胃液が込み上げそうになるのを必死で抑える。
「ギ…アァア…ギャァ……」
それは、か細く小さな奇声を上げ、程なくして動かなくなった。
人とも動物とも取れない、生物の基本構造を滅茶苦茶に無視した奇形パーツの塊が───。
「な、な、な……!?」
状況が掴めずにガクガクと震える彼に、何とか胃を落ち着かせながら考えた結論を述べる。
「不確定な存在同士の融合と、それによる存在確率の暴走…かもしれません。…これ、本当にあなたの特技にしますか?」
駄目神様が全力で首を横に振った。
(次頁:43-1へ続く)
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
