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第七幕 行列
行列―2
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それから少しして、凪も目を覚ました。正確には昨日の夕方に一度目を覚ましているらしいが、歌の影響でまだ万全ではなく、もう一度寝かせたのだという。
あさぎと凪が揃ったところで、あの火事の日、何があったのかを全員に話した。まずは、あさぎがこっくりさんであること、狐の一員で、記憶喪失は解決したことを。
「まあ、あさぎがあのこっくりさんだったんですの! 驚きましたわ……! 後で、占ってもらってもいいですの?」
普段から流行りの占いとしてこっくりさんをやっていた花音が、一番楽しそうな反応をした。寧々や他の皆からも、良かったねと声を掛けられ、心がほころんだ。
それから、本題とも言える、凪のこと。混ざり子であることを理由に当主に虐げられ、無理やり間者をさせられていたことを説明した。そして、あさぎは黄昏座の皆に頭を下げて、懇願した。
「お願い、凪を追い出さないで」
「いいえ、あさぎ。体調もだいぶ良くなったし、わたしは出ていくわ。とんでもない迷惑をかけたんだもの」
凪は、あさぎに頭を上げさせて、今度は自分が頭を下げた。
「この度は、父である蘭巌の命令とはいえ、あさぎを危険に晒し、芝居小屋に甚大な被害を与えたこと、申し開きもございません。どんな処罰も受ける覚悟です」
「待って、凪のせいじゃない! ねえ、琥珀!」
琥珀は、額を擦りつける凪の前に立った。強張った表情から、何を言うのか予想出来なかった。悪い予感さえした。
琥珀は片膝をついて、凪に顔を上げるよう言った。
「凪」
「はい」
「この先も、黄昏座の役者として貢献すること。いいな」
「えっ……」
凪は、目を点にして固まった。想定外だったようで、声も出ない。
あさぎは、ほっとして琥珀を見つめた。少し複雑そうな表情をしつつも、目が合うと笑い返してくれた。
「なん、で。わたしを許すっていうの?」
ようやく声が出た凪は、信じられないと声音で、表情で訴えている。
「許すも何も、怒りを向けるべきは火を放ったあのスーツの男、ひいては命令をしたその当主だろう」
「そうや、凪は巻き込まれた立場やよ」
「で、でも……」
なおも納得しない凪は、双子を見つめる。難しい顔をしている二人は、凪の視線を受けて口を開いた。
「わたくしは、最初、何で裏切ったんですのとか、全部嘘だったんですの、って言ってやろうと思っていましたわ。でも、事情を聞いて、他人事には思えませんでしたの」
「僕たちは双子という生まれで、色々と言われてきました。近しいものがあります。ですが、以前、双子と比べて混ざり子を下に見る発言をしました。申し訳ありませんでした」
「申し訳ございませんわ」
花音と雪音は、神妙な面持ちでそう言った。自分ではどうしようもない生まれによって受けて来た扱い、それを一番理解出来るのは、双子なのかもしれない。
佐奈が、凪の前までそっと歩いて来て、手をぎゅっと握った。何度も口を開けて、閉めてを繰り返してから、小さな声が、聞こえた。
「……もっと、早く、言えば……ごめん。……出て、いかないで……」
「佐奈、声を……!」
凪は反射的に佐奈を抱きしめていた。
佐奈は、ずっと凪の心の声を聞いてきたのだ。無理やり間者をさせられていることも、黄昏座では心から楽しいと思って過ごしていたことも。思い返せば佐奈は、よく凪の傍にいた。自分がもっと早く言っていれば、こんなことにならなかったのでは、と責任を感じているようだ。
「さて、座員全員の意見を聞いたわけだが、これでも出ていくか?」
琥珀が、凪にそう言った。凪はもう一度全員の顔を見回した。あさぎは、目が合った時に笑顔で頷いた。
「本当に、居ていいの……」
「ああ」
凪は、消え入りそうな声で、ありがとう、と繰り返し口にしていた。
花音が、悔しさを滲ませた声音で凪に問いかけた。
「凪さんは、その当主にやり返したい、とかは思いませんの?」
「わたしは」
花音の問いに、凪は少し考えたが、首を振った。
「わたしはもう、ご当主様の顔を二度と見たくないし、声も聞きたくないわ。あの日、殺されかけたことで、ようやく解放されたの。皆と居られるなら、何もいらないわ」
「分かりましたわ。凪さんが嫌だと言っても、一緒にいますから」
「私も!」
あさぎは、花音と共に凪に抱きついた。佐奈も一緒になってぎゅっと凪をどこにも行かせないと、抱きしめた。
「皆、俺は凪を責めるつもりはないが、蘭家の当主を許すつもりはない。相手が甲族だとしても、だ」
落ち着いてから、琥珀が強い口調で宣言した。寧々や花音、雪音も頷いていた。
そもそも、どうして巌は黄昏座を燃やしたのか。本殿に背いたからと言って、そこまでする必要があるのだろうか。
「ねえ、あの時言ってた、乗っ取りとか、百鬼夜行とかって、何?」
「百鬼夜行?」
「なにそれ」
皆聞いたことがないようだった。だが、きっとここに黄昏座が巻き込まれた理由があるはずだ。
「わたしが知っている限りのことを話すわ」
凪は、落ち着きを取り戻した、いつもの口調でそう言った。少し長くなるけれど、と前置きをして話し出した。
「まずは、畏怖と階級の真実を話さなくてはならないわ」
「真実?」
「甲族だけが知っていることよ。丁族の畏怖が衰え、階級が下がれば、消えるわ。存在そのものが消える」
全員が耳を疑った。存在が消える? 一体どういうことなのか。
「第六感が消える、の間違いではないのですか」
「そうですわ。存在が消えるなんて、知らない方がおかしいですわよ」
「いいえ。第六感が消えるというのは、真実を隠すための虚構よ。その妖の存在そのものが消える、つまり記憶すらも消えるのだから、誰も知らないままに過ごすのよ」
あさぎも含め、全員声を失った。そんなに重要なことを知らずに妖は生きていたと。黄昏座で、階級を上げようとしたのも、そこに多くの妖が殺到したのも、第六感が弱まることを恐れたと言って間違いではないが、妖としての生存本能が働いていたとも考えられる。
「どうして、そんな嘘を……」
「本殿が公表していないのは、混乱させないためよ。以前の本殿は丁族の階級を落とさせない、保護すると言っていたわ。元々、階級というのは本殿が保護の必要性を把握するために作った分け方だったのよ、広まってから少し意味合いが変わってしまったけれど」
知らない事実を聞かされて、すでに頭がいっぱいいっぱいになりつつある。が、ここまではまだ前置きに過ぎないのだ。ここからが本題。
「前に、寧々さんが以前の本殿はここまでじゃなかったって言ってたわよね」
「そうや。江戸の頃は中立・不干渉、って」
「それは正しいわ。十五年前から、ご当主様――いや、蘭巌が本殿を乗っ取る計画を始めたの。本殿の他の役員さんたちに少しずつ催眠をかけて」
人魚は、催眠を使うことが出来るのだったか、あさぎは妖の一覧を頭の中でめくるが、そういった記述はなかったはずだ。
「催眠は、人魚の第六感である気を乱す、の応用したものよ。蘭巌は、第六感の扱いに長けているから。そして、権力を自分一人のものにするために、本殿への忠誠を高めるために、下級への差別を強めたり、本殿に逆らうものを潰したりしてきた」
凪の話を、それぞれが自分の中でかみ砕いて聞いていた。そして、ふと雪音が何かに気が付いた。
「十五年前、と言いましたよね」
「ええ」
「ということは、僕らが生まれた時に、片方を殺せと言ってきた本殿は、正確には本殿ではなく、その男、ということですか」
「ほぼ間違いないと思うわ。最初に手中に収めたのは烏だったらしいから」
琥珀と寧々、そしてあさぎは顔を見合わせた。魁の死に対して、侮辱するような通達をしてきたのも、おそらく蘭巌、その人だ。
黄昏座の座員が苦しんできたこと、それが、あの男に繋がっていた。全員の目に、怒りが灯った。鋭いもの、煮え滾るもの、静かなもの、それぞれが感情をあらわにする。
「黄昏座への襲撃はなぜだ? 逆らったから、それだけか」
「蘭巌は、上納金を渡すという条件で、畏怖を操作しようとしているわ。これが最終段階」
「その男も、階級を上げることが出来るんですの!?」
「いいえ、烏に渡す通達を書き換えるという方法を取るわ。実質的に解決するわけではないし、あの男は解決するつもりがない。今回の更新には間に合わなかったけれど、問題ないと踏んでいたのよ。でも」
凪は言葉を切った。ここからはもう皆が分かっていることだった。変わるはずのない階級が上がっていて、その要因は黄昏座にあった。
「なるほどな。金を集める口実にしようとしているから本殿以外にそんな力があると知れ渡っては都合が悪いというわけか」
長い話を終えて、凪は大きく息を吐いた。
「わたしが知っているのはこれで全部。百鬼夜行については、何も知らされていないわ。ごめんなさい、役に立てなくて」
「あたし、思い出したんやけど、あの火事の時、聞いたわ。百鬼夜行」
「寧々さん、どこで!?」
あさぎは、寧々にぐっと詰め寄った。百鬼夜行が今のところ蘭巌への手がかりなのだ。なんとしても掴まなければ。
「佐奈ちゃんが言った、放火した犯人の男を追って、捕まえたんよ。そしたら、百鬼夜行へ加わりたいのか、って聞かれたんよ。そんなことじゃなくて、火事のことを聞かせてもらおかって言ったら、急に頭痛くなって逃がしてしまったんよ。今思えば、歌のせいやったんやね」
寧々はその後、消防組へ行って、渋る組員たちを引き連れて芝居小屋へと戻ったらしい。そのまま追っていたら寧々自身が危険だっただろうし、芝居小屋もきっと半壊では済まなかった。
あさぎの袖がくいくいっと引っ張られている。目を向けると、佐奈が何かを訴えていた。動いている口をじっと見つめる。
「”その当主の心の声、少しだけ聞いた。百鬼夜行は、計画の最後、畏怖の問題が、あっという間に、解決することって”」
あさぎは、それをそのまま伝える。具体的には、と佐奈に聞き返すが、力なく首を振る。
「”これ以上は、分からない”」
落胆の空気が流れたが、あさぎはそれを払拭するために立ち上がった。ここでへこんでなどいられない。
「そんなに大事なことなら、きっと本人も出てくるよ。調べよう、百鬼夜行が、何なのか」
「ああ、そうだな。手分けして調査だ」
あさぎと凪が揃ったところで、あの火事の日、何があったのかを全員に話した。まずは、あさぎがこっくりさんであること、狐の一員で、記憶喪失は解決したことを。
「まあ、あさぎがあのこっくりさんだったんですの! 驚きましたわ……! 後で、占ってもらってもいいですの?」
普段から流行りの占いとしてこっくりさんをやっていた花音が、一番楽しそうな反応をした。寧々や他の皆からも、良かったねと声を掛けられ、心がほころんだ。
それから、本題とも言える、凪のこと。混ざり子であることを理由に当主に虐げられ、無理やり間者をさせられていたことを説明した。そして、あさぎは黄昏座の皆に頭を下げて、懇願した。
「お願い、凪を追い出さないで」
「いいえ、あさぎ。体調もだいぶ良くなったし、わたしは出ていくわ。とんでもない迷惑をかけたんだもの」
凪は、あさぎに頭を上げさせて、今度は自分が頭を下げた。
「この度は、父である蘭巌の命令とはいえ、あさぎを危険に晒し、芝居小屋に甚大な被害を与えたこと、申し開きもございません。どんな処罰も受ける覚悟です」
「待って、凪のせいじゃない! ねえ、琥珀!」
琥珀は、額を擦りつける凪の前に立った。強張った表情から、何を言うのか予想出来なかった。悪い予感さえした。
琥珀は片膝をついて、凪に顔を上げるよう言った。
「凪」
「はい」
「この先も、黄昏座の役者として貢献すること。いいな」
「えっ……」
凪は、目を点にして固まった。想定外だったようで、声も出ない。
あさぎは、ほっとして琥珀を見つめた。少し複雑そうな表情をしつつも、目が合うと笑い返してくれた。
「なん、で。わたしを許すっていうの?」
ようやく声が出た凪は、信じられないと声音で、表情で訴えている。
「許すも何も、怒りを向けるべきは火を放ったあのスーツの男、ひいては命令をしたその当主だろう」
「そうや、凪は巻き込まれた立場やよ」
「で、でも……」
なおも納得しない凪は、双子を見つめる。難しい顔をしている二人は、凪の視線を受けて口を開いた。
「わたくしは、最初、何で裏切ったんですのとか、全部嘘だったんですの、って言ってやろうと思っていましたわ。でも、事情を聞いて、他人事には思えませんでしたの」
「僕たちは双子という生まれで、色々と言われてきました。近しいものがあります。ですが、以前、双子と比べて混ざり子を下に見る発言をしました。申し訳ありませんでした」
「申し訳ございませんわ」
花音と雪音は、神妙な面持ちでそう言った。自分ではどうしようもない生まれによって受けて来た扱い、それを一番理解出来るのは、双子なのかもしれない。
佐奈が、凪の前までそっと歩いて来て、手をぎゅっと握った。何度も口を開けて、閉めてを繰り返してから、小さな声が、聞こえた。
「……もっと、早く、言えば……ごめん。……出て、いかないで……」
「佐奈、声を……!」
凪は反射的に佐奈を抱きしめていた。
佐奈は、ずっと凪の心の声を聞いてきたのだ。無理やり間者をさせられていることも、黄昏座では心から楽しいと思って過ごしていたことも。思い返せば佐奈は、よく凪の傍にいた。自分がもっと早く言っていれば、こんなことにならなかったのでは、と責任を感じているようだ。
「さて、座員全員の意見を聞いたわけだが、これでも出ていくか?」
琥珀が、凪にそう言った。凪はもう一度全員の顔を見回した。あさぎは、目が合った時に笑顔で頷いた。
「本当に、居ていいの……」
「ああ」
凪は、消え入りそうな声で、ありがとう、と繰り返し口にしていた。
花音が、悔しさを滲ませた声音で凪に問いかけた。
「凪さんは、その当主にやり返したい、とかは思いませんの?」
「わたしは」
花音の問いに、凪は少し考えたが、首を振った。
「わたしはもう、ご当主様の顔を二度と見たくないし、声も聞きたくないわ。あの日、殺されかけたことで、ようやく解放されたの。皆と居られるなら、何もいらないわ」
「分かりましたわ。凪さんが嫌だと言っても、一緒にいますから」
「私も!」
あさぎは、花音と共に凪に抱きついた。佐奈も一緒になってぎゅっと凪をどこにも行かせないと、抱きしめた。
「皆、俺は凪を責めるつもりはないが、蘭家の当主を許すつもりはない。相手が甲族だとしても、だ」
落ち着いてから、琥珀が強い口調で宣言した。寧々や花音、雪音も頷いていた。
そもそも、どうして巌は黄昏座を燃やしたのか。本殿に背いたからと言って、そこまでする必要があるのだろうか。
「ねえ、あの時言ってた、乗っ取りとか、百鬼夜行とかって、何?」
「百鬼夜行?」
「なにそれ」
皆聞いたことがないようだった。だが、きっとここに黄昏座が巻き込まれた理由があるはずだ。
「わたしが知っている限りのことを話すわ」
凪は、落ち着きを取り戻した、いつもの口調でそう言った。少し長くなるけれど、と前置きをして話し出した。
「まずは、畏怖と階級の真実を話さなくてはならないわ」
「真実?」
「甲族だけが知っていることよ。丁族の畏怖が衰え、階級が下がれば、消えるわ。存在そのものが消える」
全員が耳を疑った。存在が消える? 一体どういうことなのか。
「第六感が消える、の間違いではないのですか」
「そうですわ。存在が消えるなんて、知らない方がおかしいですわよ」
「いいえ。第六感が消えるというのは、真実を隠すための虚構よ。その妖の存在そのものが消える、つまり記憶すらも消えるのだから、誰も知らないままに過ごすのよ」
あさぎも含め、全員声を失った。そんなに重要なことを知らずに妖は生きていたと。黄昏座で、階級を上げようとしたのも、そこに多くの妖が殺到したのも、第六感が弱まることを恐れたと言って間違いではないが、妖としての生存本能が働いていたとも考えられる。
「どうして、そんな嘘を……」
「本殿が公表していないのは、混乱させないためよ。以前の本殿は丁族の階級を落とさせない、保護すると言っていたわ。元々、階級というのは本殿が保護の必要性を把握するために作った分け方だったのよ、広まってから少し意味合いが変わってしまったけれど」
知らない事実を聞かされて、すでに頭がいっぱいいっぱいになりつつある。が、ここまではまだ前置きに過ぎないのだ。ここからが本題。
「前に、寧々さんが以前の本殿はここまでじゃなかったって言ってたわよね」
「そうや。江戸の頃は中立・不干渉、って」
「それは正しいわ。十五年前から、ご当主様――いや、蘭巌が本殿を乗っ取る計画を始めたの。本殿の他の役員さんたちに少しずつ催眠をかけて」
人魚は、催眠を使うことが出来るのだったか、あさぎは妖の一覧を頭の中でめくるが、そういった記述はなかったはずだ。
「催眠は、人魚の第六感である気を乱す、の応用したものよ。蘭巌は、第六感の扱いに長けているから。そして、権力を自分一人のものにするために、本殿への忠誠を高めるために、下級への差別を強めたり、本殿に逆らうものを潰したりしてきた」
凪の話を、それぞれが自分の中でかみ砕いて聞いていた。そして、ふと雪音が何かに気が付いた。
「十五年前、と言いましたよね」
「ええ」
「ということは、僕らが生まれた時に、片方を殺せと言ってきた本殿は、正確には本殿ではなく、その男、ということですか」
「ほぼ間違いないと思うわ。最初に手中に収めたのは烏だったらしいから」
琥珀と寧々、そしてあさぎは顔を見合わせた。魁の死に対して、侮辱するような通達をしてきたのも、おそらく蘭巌、その人だ。
黄昏座の座員が苦しんできたこと、それが、あの男に繋がっていた。全員の目に、怒りが灯った。鋭いもの、煮え滾るもの、静かなもの、それぞれが感情をあらわにする。
「黄昏座への襲撃はなぜだ? 逆らったから、それだけか」
「蘭巌は、上納金を渡すという条件で、畏怖を操作しようとしているわ。これが最終段階」
「その男も、階級を上げることが出来るんですの!?」
「いいえ、烏に渡す通達を書き換えるという方法を取るわ。実質的に解決するわけではないし、あの男は解決するつもりがない。今回の更新には間に合わなかったけれど、問題ないと踏んでいたのよ。でも」
凪は言葉を切った。ここからはもう皆が分かっていることだった。変わるはずのない階級が上がっていて、その要因は黄昏座にあった。
「なるほどな。金を集める口実にしようとしているから本殿以外にそんな力があると知れ渡っては都合が悪いというわけか」
長い話を終えて、凪は大きく息を吐いた。
「わたしが知っているのはこれで全部。百鬼夜行については、何も知らされていないわ。ごめんなさい、役に立てなくて」
「あたし、思い出したんやけど、あの火事の時、聞いたわ。百鬼夜行」
「寧々さん、どこで!?」
あさぎは、寧々にぐっと詰め寄った。百鬼夜行が今のところ蘭巌への手がかりなのだ。なんとしても掴まなければ。
「佐奈ちゃんが言った、放火した犯人の男を追って、捕まえたんよ。そしたら、百鬼夜行へ加わりたいのか、って聞かれたんよ。そんなことじゃなくて、火事のことを聞かせてもらおかって言ったら、急に頭痛くなって逃がしてしまったんよ。今思えば、歌のせいやったんやね」
寧々はその後、消防組へ行って、渋る組員たちを引き連れて芝居小屋へと戻ったらしい。そのまま追っていたら寧々自身が危険だっただろうし、芝居小屋もきっと半壊では済まなかった。
あさぎの袖がくいくいっと引っ張られている。目を向けると、佐奈が何かを訴えていた。動いている口をじっと見つめる。
「”その当主の心の声、少しだけ聞いた。百鬼夜行は、計画の最後、畏怖の問題が、あっという間に、解決することって”」
あさぎは、それをそのまま伝える。具体的には、と佐奈に聞き返すが、力なく首を振る。
「”これ以上は、分からない”」
落胆の空気が流れたが、あさぎはそれを払拭するために立ち上がった。ここでへこんでなどいられない。
「そんなに大事なことなら、きっと本人も出てくるよ。調べよう、百鬼夜行が、何なのか」
「ああ、そうだな。手分けして調査だ」
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