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前編

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 そういえば、元々はバイト探しのためにこの神社に来たのだった。色々なことが一気に起こって、正直忘れかけていた。

「さっき、問題を解決したのは、君からの依頼であり、奮発して本来の姿を使ったのは、着物を直してもらった分。だから、そこの恩返し、などとは考えなくていい。単純に、ここで働く気はあるか、で考えて欲しい」

「どういうことをするんですか」
「さっきのように、願いを叶えるために動くのが一番の仕事だ。でもまず君に頼みたいのは、お守り作りだな」

 優月はきょとんとして、首を傾げた。言われてみれば、おみくじは置いてあるが、お守りはなかった。

「あのミシンを使って、お守りの外側の袋を作って欲しい。出来るか?」
「出来る、と思いますけど……」
 どうしてその仕事を、という疑問を言う前に、叶は両手を広げて何やらアピールをしてきた。

「ええっと……?」
「この姿ではミシンは扱えない」
「本来の姿になるのは」
「ものすごく疲れる。燃費が悪い。それに――」
 一度言葉を切って、口をもごもごとさせながら、小さな声でぼそりと続きを口にした。

「針が、怖いから、無理だ」

 一瞬、間があいた。叶の言ったことを頭の中で反芻してから、優月はもう一度叶を見た。

「……なんだ」
「ふふっ、何でもない、です」

 ふてくされたような顔に、思わず笑みが零れた。人智を超えた力を使う神様が、針が怖いとは、可愛らしい一面もあるらしい。

「分かりました。お守り作り、もとい巫女のバイト、よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ」

 気を取り直した叶が差し出した手を、優月は握り返した。

 優月は、お人好しの性格を直したいという願いを、辞めたつもりはなかった。だが、叶が助けてくれたのを見て、『お人好し』と『人助け』は違うもののような気がしてきた。それを、ちゃんと分かりたい、とも考えていた。この神様に、どこまで見抜かれているのかは、分からないけれど。
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