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二冊目 助演の誇り
助演の誇り―3
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最初のデート練習から、少し経ったころ、菫の姿は物書き屋にあった。
「桜子さーん、今日も可愛いわー」
「な、なぜまた来ておるのじゃ。本はまだ完成しておらぬぞ!」
菫は、椅子に座って常連のようにくつろいでいる。その様子を見つけた桜子は、わなわなと突き付けた人差し指を上下に揺らしている。
「私のことを知ってる人がいないし、楽なのよ、ここ。落ち着くし」
にんまり、という言葉が合いそうな顔をして、菫は傍に置いていた大きいショッピングバックを手に取った。
「それと、この服、桜子さんに似合うと思って」
中から現れたのは、裾がふんわりしていて、白黒のレースとリボンがふんだんに使われた、ワンピースだった。赤いバラがアクセントに使われていて、カウンターで作業をしていた柳も目を惹かれた。
「可愛らしい洋服ですね」
「そうでしょう。いわゆるゴスロリなんだけど、桜子さんに着てもらいたくて、ね」
「嫌じゃ」
ぷいっと、ワンピースを視界にも入れないという態度を全面に出して、桜子はそっぽを向いた。菫は、妙に真剣な面持ちで、小さな箱を取り出した。
「ねえ、桜子さん。マカロンって食べたことあるかしら……?」
「なんじゃ、それは」
菫は、すっと箱のふたを取って、中の整列した色とりどりのマカロンを見せつけた。宝石箱を見たかのように、桜子の目が輝いていくのが分かった。
「…………少しだけじゃ」
交換条件をのんだ桜子は、菫の手からワンピースをひったくると、店の奥に入っていった。柳はそれを面白そうに見送った。菫に手招きで呼ばれ、近づくと、小声で言われた。
「ごめんなさいね、勝手にスイーツ持ちこんじゃって」
「いえいえ。マカロンに合う紅茶を淹れましょう。アッサムなどはいかがでしょうか」
「お願いするわ。あ、桜子さんと、あなたの分もね。一緒に食べましょう」
「はい、ありがとうございます」
アッサムはミルクティーに最適で、マカロンとも合うだろう。甘いマカロンとなら、ほんの少しだけ蒸らし時間を長くしてもいいかもしれない、と考えつつ、柳は三人分のティーカップを用意する。
「お待たせしました、どうぞ」
「いい香り。それに……美味しいわ、とても。少し渋みがあるのに、あっさりしていて、こんな紅茶初めて飲んだわ」
「そう言っていただけて、嬉しいです」
淹れたてのミルクティーでマカロンを楽しんでいると、不機嫌な桜子の声がした。どうやら着替え終わったらしい。
「これで、よいか」
「きゃああ、可愛い!!」
叫びにも近い声をあげながら駆け寄ってきた菫を、桜子はひらりとかわした。その動きに合わせて、ふわふわしたスカートが可愛らしく円を描いた。ゴスロリ服は普段とは真逆の印象だったが、その人形のような可愛らしい容姿でしっかりと着こなしている。が、むすっとした顔が全てを台無しにしている。
「お似合いですよ、桜子さん」
「思ってないじゃろう! というか、わたしのまかろんを先に食べるな!」
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