リュッ君と僕と

時波ハルカ

文字の大きさ
7 / 89
二日目

しおりを挟む
 リュッ君とユウキは、次の目的地を地図に描かれた“流れる川”に決めた。

 二人は再び地図を広げて覗き込み、川の流れている方角がどっちなのかを探った。ユウキが、今見えている朝日から、昨日沈んだ夕日の方角を指で追って、再び地図を見つめながら、川があるだろう方向を探している。何度かそんなやり取りを繰り返した後、ユウキが地図から顔を上げて、とある方向に指を差した。

「あっちかな?」

 ユウキが示した先は、ぐるりと取り囲む茂みの端、幾つか小さな社が並んだ場所だった。その向こうに小さな鳥居と門が続いていて、その先は木々が生い茂る山林の細道が続いているようだ。リュッ君がユウキのさした方向を確認して、地図と見比べて、少し唸って答えた。

「ふーん…、なるほどな…。よし、じゃあ、川に向って出発だ」


 手製のかまどに土を盛り付け、火種を消す。荷物を片づけると、ユウキはリュッ君を背負い、境内の脇の小さな鳥居に向って歩き出した。

 リュッ君とユウキは、社の脇の小さな鳥居と門をくぐって境内の外に出ると、山林を下る坂道となった細い道のりを進んで行った。しばらく進むと、道はさらに草木にまぎれて、歩けそうな場所を選ぶのも難しい状態になっていった。

 河と思われる方向へ向かって歩いて行く二人。
 
 すると、狭いながらも、小さな空間が目の前に現れ、その先は、細く曲がりくねった坂道となった。木の根や岩がごつごつと張り出したその傾斜を、ユウキは慎重に下っていった。

 ユウキに背負われながら、リュッ君は、たどたどしいその足取りを背中越しに感じ、不安そうな表情で、背の高い木の枝葉越しに空を見上げていた。

「気をつけろよ…、ユウキ。ゆっくりな!ゆっくり…」

 後ろから話しかけるリュッ君の言葉に「うん!うん!」とうなずきながら、木の幹につかまりながら降りていくユウキ。

「もし倒れそうになったら、頭を丸めて背中を地面に向けるんだぞ。受身ってやつだ。そのときは俺がクッションになるからな」
「リュッ君は痛くないの?」
「まあ、ユウキよりは耐久力あるだろうな」
「たいきゅうりょく?」
「頑丈だってことさ」

 一歩一歩降りて行くリュッ君とユウキの耳に、木々の草葉が折り重なる坂道の向こう側から、水が流れるせせらぎの音が聞こえてきた。

 ゴクッとのどを鳴らしたユウキの足が速くなっていく。

「お、お、おい!気をつけろよ」

 はあはあと、息を切らせで駆け下りていくユウキがガサっ、と藪を抜けると、そこには透き通った水がゆったりと流れる小さな渓流が姿を現した。
 
 水面に日の光がきらきらと反射している。ぱっと喜びに顔を緩ませたユウキが渓流のほとりに向って走り出す。そのまま急ぎ川面に顔を近づけて、口から直接ごくごくと勢いよく水を飲み始めた。

 虫や野鳥の鳴き声、河のせせらぎに混じって、ユウキの水を飲む音があたりに広がっていった。

「ぷはあああ!おいしいいい!」

 水飛沫を上げて、ユウキが大きく叫ぶと、再び川の流れに口をつけて水を飲みだした。

 すると、水を飲んでいるユウキの目の前を、魚の影がすーっ…と、通り過ぎていった。「あ!お魚!」と、顔を上げてその姿を見つめていると、ユウキのお腹が「ぐううう」と鳴った。

「お腹すいた…」

 力なくつぶやくユウキの声を背中で聞いて、困った顔をするリュッ君が「ここには竿も釣針もねえからな…」と、ひとりごちるようにつぶやいた。

「ぼく、捕まえてくる」

 そう言うと、ユウキは、リュッ君を岩場に下ろし、腕まくりをして、勢い良く川に入っていった。そして、そのまま、ざぶざぶと川の中流に向って突き進んでいった。

「おいおい、気をつけろよ!ユウキ!」

 ユウキに声を掛けたリュッ君が、その後姿を困ったように見送った後、少し思案するかのように空を仰ぐ。

「アイテムゲットの☆マークはここには無かったよなあ…」

 泳いでいる魚を見つけようと目を凝らすユウキ。その足元を、すばやく魚の影が通り過ぎていく。あわてて追いかけるも、魚はユウキの手をすり抜けてしまう。ユウキはその影を目で追いかけながら、水しぶきを上げて、ぐるぐる、ぐるぐる、回っていった。

「ああーもう!」

 悔しがるユウキが、さらに激しくざばざばと魚の影を追いかけて行く。

「なんで、捕まらないよ!」

 泣きそうな顔で暴れ回っているユウキ。その足の回りを、魚の影がスイスイ通り過ぎていく。その様子をじっと見つめているリュッ君。動き回るユウキの服がどんどん濡れて、ユウキの動きが鈍くなっていった。そして、足を滑らせ、川の真ん中で盛大な尻餅をつくと、大きな水しぶきがユウキの周りに上がり、流れる水面が激しく波打ち揺れた。

 頭から水を被ったユウキが流れる水に腰まで漬かってへたりこんだ。その後、ユウキの顔がどんどん歪んでいく。

「うえええええ…お腹すいた~~」

 尻餅をついて水に漬かったまま、わんわん泣くユウキ。そんなユウキの周りで、魚の影がゆうゆうと泳いでいるのが見える。仏頂面でその様子を見ているリュッ君が、深く呼吸をして、ユウキに向って声をかけた。

「よおし、ユウキ、上がって来い」

 ぐずりながら、リュッ君のほうに顔を向けるユウキ。続けてリュッ君がユウキに言った。

「作戦タイムだ」

 川の水面からユウキがゆっくり立ち上がり、ざばざばとリュッ君のいる岩場に向って戻って来る。うなだれた様子で岩場に近付くと、ユウキは川から上がってリュッ君のほうに近づいて来た。強い日差しに照らされた岩肌は熱く、ユウキの付けた水跡を早々に乾かして行く。鼻をすすり、目を腫らしてぐずついているユウキが隣に座ると、リュッ君が、声のトーンを低くしてユウキに語りかけた。

「一旦落ち着いて、やり方を考えよう。ユウキ。何事もまず初めは作戦を立てるのが大事だ。俺の言っていること、分かるな」

 口をへの字にしながらも、リュッ君の言葉にうなずくユウキ。

「よし、じゃあ、まず、目の前の川がどんな風になってて、魚がどれだけいるか、きちんと見て見よう」

 リュッ君の言葉を聞いて、じっと川面を見つめるユウキ。川の流れる中を魚影が集まったり離れたりしながら悠々と泳いで行く。

「まず、生け簀を作ろうか、捕まえた魚を置いとく場所が必要だからな、ユウキが両手でもてるくらいの魚が何匹か、捕まえておけるようなやつだ」
「いけすって??」
「あー、あれだ、魚用のプールだよ、プール。川べりのどこかのくぼ地を岩で囲って、捕まえた魚を逃げられなくするんだ。生け簀が出来たら、魚を取るぞ」
「…うん、分かった!」

 リュッ君の言葉に大きくうなずいて、さっそく川べりに、生け簀を作るのによさそうなくぼ地を探し始める。ユウキがきょろきょろして、川べりに岩が連なった、流れが緩やかな場所を指差して言った。

「あそこは?」と、ユウキが差した場所を見てリュッ君がうーんと唸って答えた。
「そうだな、じゃあ、石で隙間が出来ないようにしっかり囲って、生け簀を作るんだ」
「うん」

 早速くぼ地に向かうユウキ。その様子を見ながら、リュッ君がポツリとこぼす。

「はてさて、どうするか…な?」

 ユウキが石を物色しては持ち上げて、くぼ地の場所に運び、水をせき止めるように囲いを作っていく。

「網とか…、せめてペットボトルくらいありゃあ、罠くらいは作れるんだが…」

 くぼ地の周りに石が積み上がっていき、小さなユウキの生け簀が徐々に出来上がっていく。

「カニはっけーん!」

 うれしそうにカニを高らかに上げて、リュッ君に捕まえたカニ見せようとするユウキ。

「おおーすごいなーユウキ!いいぞ、小さい生け簀も作って、それも捕まえとけよー絶対、逃げられないように注意しろ」

 嬉しそうなユウキに調子をあわせ、その様子を見まもりながらリュッ君がポツリとこぼす。

「あれも食えるかなあ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

処理中です...