魔法陣に浮かぶ恋

戌葉

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春~婚約破棄

4. 魔法陣

 エリサには、学園で学んだことで、商売へと活かしたいことがある。
 エリサは、学園では「守銭奴」だけでなく「魔法陣の天才」というあだ名もつけられていた。
 この世界、魔法陣を書くことによって魔法が使える。けれど、この魔法陣を扱うのが難しいので、誰にでもできることではない。

 魔法陣は、どういう威力のどういう魔法を発動するかを定義している。
 その魔法陣を書くには、魔力が必要だ。そして、魔法陣を発動するためにも、魔力が必要だ。
 書いた人と発動する人は別の人でも問題ないが、同じ人や魔力の質が似ている人のほうが発動はたやすい。といっても発動に必要な魔力はごくわずかなので、発動しやすさが影響してくるのは戦闘で多用する騎士くらいだ。

 魔法陣を書くのは、専用の紙を使うことが多い。魔法紙と呼ばれる紙に、魔力インクを用いて書くと、長期間保存できて、持ち運びも可能だ。ただこの場合、一度発動すれば、魔法紙が燃えてなくなる。
 半永続的に使うためには、魔力を含んだ魔石に魔法陣を彫る。そうすると、魔石の魔力が切れるまで、魔法陣に定義された魔法を発動し続ける。きっかけを与えてから一定期間のみ発動する、という定義も可能だ。

 これらは今までの研究の中で一番効率が良い方法として定着したもので、初期のころは自分の魔力で空中に魔法陣を書いていたらしい。難易度はかなり高いが、今でも緊急時の方法として、騎士団では使われていると学園の授業で習った。

 ほとんどの貴族は、子どものころから魔法陣に囲まれて育っているので、決して珍しいものではない。部屋の灯りは魔石に刻まれた灯りの魔法陣だ。けれど、魔法陣は買うものであって、書くものではない。
 その理論を学んで簡単なものを書いてみるのが魔法陣の授業だ。
 魔法陣を勝手に書くのは法で禁止されている。よく分からずに書いて、とんでもない威力の魔法陣ができてしまい、周りに被害が出たことが過去にあったらしい。そのため、資格のないものが書けば魔法省に捕まってしまう。

 学園の授業で必修なのは魔法陣基礎だけだが、魔法陣応用の授業を受講して優秀な成績を修めれば、魔法陣を書く資格「魔法陣技師」を取ることができる。
 もともと魔法陣というものに、オタク心がものすごくうずいていたエリサは、学園でこの授業を一番楽しみにしていた。魔法陣に関する解説書も、資格がなければ見ることができないので、幾重にもなった円に書かれている文字の意味を知りたいと、入学前から心を躍らせていた。

「魔法陣は六つの円からなります。それぞれの円に意味があり、まず第一円は――」

 魔法陣の基礎の授業の初回、いつもはつまらなさそうにしている生徒たちもみな、先生の説明に耳を傾けている。
 ワクワクしながらエリサが聞いた説明によると、第一円は魔法の向き、第二円は魔法の作用時間、第三円は魔法の属性、第四円は魔法の作用場所、第五円は強さ、第六円で何をするかを定義する。第一円から第六円までの順序を入れ替えると、魔法が発動しないらしい。
 第一円の向きというのは、魔力が魔法陣から外へ出ていくか、魔法陣が外の魔力を取り込むのかという、IO(アイオー)だ。
 第二円は、その魔法がいつから、どれくらいの時間作用するのかを定義する。
 第三円は、火の魔法なのか、水の魔法なのか、あるいは複数属性を合わせたものなのかを定義する。
 第四円は、その魔法をどこへ作用させるのかを定義する。
 第五円は、その魔法をどのくらいの強さで作用させるのかだ。
 第六円は、その魔法で何をしたいか、を定義する。ここは自由度が高い。

 この説明を聞いたエリサの感想は、オブジェクト指向プログラミングのインターフェースに似ているな、だった。魔法陣というインターフェースを実装するには、IO、時間、属性、場所、強さ、内容の六つのメソッドとプロパティを定義しないとエラーになる。このルールに従って書かれたものであれば、魔法陣として発動を保証します、と言われているようだ。
 システムエンジニアとしてプログラミングに親しんでいたエリサにはすんなり理解できた。

 魔法の属性は、風水土火の四大属性の他に光と闇があり、属性を持たない無属性もある。
 雷のような希少属性と呼ばれる属性は、六属性の複合なのか、独立した属性なのかは、研究者によって意見が分かれる。時間や空間といった属性は、特殊属性として独立した属性だと思われている。

 魔法陣を発動させるのには、発動させる人の属性は関係ない。
 ただし、魔法陣自体がその属性を帯びた魔力を持っていないと、そもそも発動可能な魔法陣にならない。
 例えば火の球を出す魔法陣の場合、魔法陣自体が火の属性を帯びた魔力を持っている必要がある。
 属性を帯びた魔法陣を作成するには三つの方法がある。

 火の玉の魔法陣を例にとれば、一つ目は、火属性の魔力を帯びたものに魔法陣を刻む方法である。火属性の魔石に魔法陣を刻むのが一般的だ。
 二つ目は、火属性の魔力インクを使って、魔法紙に魔法陣を書く方法だ。この魔力インクは火属性の魔石を原料に使用して作られることが多い。
 三つめは、属性のない魔力インクに、魔法陣を書く人の火属性の魔力を混ぜる方法である。これが一番難しい。人の持つ魔法属性は調べれば分かるが、通常一つか二つだ。その属性を魔力インクに混ぜるのだが、繊細な魔力の操作をしながら、緻密な魔法陣を書く必要があるので、訓練が必要になる。

 希少属性の魔法陣は、とてつもなく高い。それは、希少属性の魔石は滅多に見つからないためであり、希少属性を持つ人も滅多にいないからだ。
 素材の持つ力で解決しようと思うと材料費が高く、普通の素材で作ろうと思うと技術を持つ人が少ないので人件費が跳ね上がる。

 ちなみにエリサの属性は、一般的な水と風だった。
 二属性を持っているのは、ちょっとだけ珍しいけれど、自慢できるほどではない、という微妙な感じだ。
 普通はこういうところに転生者特典がつくんじゃないの、とエリサはいるかどうか分からない神様に文句を言ってはみたものの、結果は変わらなかった。
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