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2年目 アチェーリ編
2. ピクニャーン
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山の入り口まで馬車で移動すると、そこからは歩いて登る。毎年毛刈りを行っている、開けた場所があるそうで、そこまで全員で移動する。
食パンくんは飼い主の腕に大切に抱かれている。もしかして、木の根っこが飛び越えられなかったりするのかな。
オレもウィオの肩に乗って移動だ。うろうろして余計な魔物や動物の気を引いたらいけないからっていう配慮だよ。歩きたくないわけじゃないよ。
でもとっても臆病だというもふもふは、こんな風にたくさん冒険者が山に入ってきたら逃げちゃうんじゃないんだろうか。どういう作戦なのか、詳しく聞かされてないんだよね。
山の中腹の開けたところに着いたところで、毛刈り職人の代表者が寄ってきた。
「ここに誘い込むために、その狐にはこの周囲を散歩してきてほしい」
「散歩?」
「走り回ると驚くから、散歩だ。あいつらの好きなこの草を首に巻いてくれ」
レンゲの花冠みたいなものを取り出した。毛織物のもふもふピクニャンは、この花の葉っぱが大好物なんだそうだ。それで、この広場に葉っぱを置いて誘い出すけれど、ここに葉っぱがあると知らせるためにオレたち使役獣がお散歩して、花の香りをまき散らしてくる。オレは食パンくんが行かない側を担当する。
オレたちがお散歩している間に、人間はこの広場から離れたところに身を潜めて、近づいてきたら広場に追い込んだり、逃げないように囲い込んだりするらしい。
『どれくらい遠くまで行くの?』
「どこまで行けばいい?」
「行けるところまで」
なんだかすごく適当だなと思ったけど、食パンくんが参加してくれるようになってこの方法を始めたので、食パンくん以外でやるのはオレが初めてらしい。食パンくんが参加するまでは、花を持った人が森の中を動き回ってから、警戒してなかなか出てきてくれないのをじっと待っていたそうだ。
手順が確立していないのもあって、まずは食パンくんがピクニャンを集めてくるのを他の冒険者と一緒に見学することにした。
食パンくんが首に花冠をかけて、ぷりぷりとお尻を振りながらお散歩に出て行く。いかにも警戒されなさそうな、もちゃもちゃボディが可愛い。
「毎年あれを見ると、パンが食べたくなるんだよなあ」
「分かる。今年は携帯食じゃなくて丸パンを持ってきた」
「俺も。でもさ、今年は白パンも食べたくなりそうじゃないか?」
そう言って一人の冒険者がオレのほうを見た。白パンってオレ? オレはパンって感じじゃないでしょう。
そんな話をしていたら、早くも食パンくんが帰ってきた。その後ろから、大きなもふもふがついてきている。
最初は広場を警戒していたもふもふも、広場に草の山を見つけると、ふらふらと近づいて、頭を突っ込んで食べ始めた。
「ルジェ、あのピクニャーは魔物か?」
『魔物と動物の交配種っぽいけど……』
「けど?」
『なんであんな厳つい顔なの?! ピクニャンって可愛いもふもふを想像してたのに!』
「ピクニャンではなくピクニャーだ」
ニャーでもニャンでもニャーンでも、とにかく名前からふわふわの可愛らしい動物だと思っていたら、牛くらいの大きさの、首の長いアルパカっぽいのだった。体の表面が毛足の長いじゅうたんで被われているみたいな感じだけど、ところどころ絡まっているのが野生っぽい。それだけなら良い毛織物になりそうだなとしか思わないんだけど、ものすごく凶暴そうな顔が何よりも目立っている。
アルパカって平和な顔で草をもぐもぐしてるんじゃなかったっけ? なんであんなに長い牙があるのよ。しかもあれで臆病って、顔負けし過ぎでしょう。
それに、草の山を見つけてからは、周りを警戒している様子もない。本当に臆病なの?
「警戒心が強いんじゃないのか?」
「強いんだが、食欲のほうがさらに強いんだ」
隣りにいる冒険者に聞いてみると、草を食べ始めたら食欲が勝つので、人が近づいても平気らしい。
ただ、他のピクニャーが来たときに人がいると草に近寄ってくれないので、たくさん集まってくるまで冒険者は息をひそめて待っている。この広場から出て行こうとするピクニャーの進路を遮るのが、ここにいる冒険者の仕事だ。
開始早々に一匹現れたことで、みんなホッとしているようで、「今年は幸先がいいな」とひそひそと話をしているのが聞こえる。
そもそも人間がこの距離に隠れているのに警戒に引っかからないって、警戒能力もポンコツっぽいぞ。視界に入らなければ、気づかないのかな。この山には天敵がいないとか?
『危険回避を上回る食欲って、それでいいの……?』
「ルジェ、仲間だな」
違うよ! オレは、生命の危機になることなんてないから、食欲を優先してもいいの。それに、ウィオの危機よりも食欲を優先させたりもしないよ。
ひどいよ、ウィオ。オレは食いしん坊かもしれないけど、ちゃんと節度を守った食いしん坊だよ。
ウィオに猛抗議していたら、静かにするように怒られちゃった。ごめんなさい。
食パンくんは次のピクニャーを探すために、またお尻を振りながらうきうきと広場を出て行った。
オレも負けていられないね。ちゃんとお仕事して、ダメな食いしん坊の汚名を返上しなきゃ。
『ウィオ、行ってくるよ』
「気をつけろ」
『ありがと』
ただの動物じゃなくて魔物との交配種ってことでウィオが警戒してくれているけど、魔物であってもなくてもオレの敵じゃないから安心してて。
ウィオが花冠を首にかけてくれた。花の香りを山の中に広めて、たくさんピクニャーを集めよう。
フローラルなルジェくん、出発でーす。
食パンくんは飼い主の腕に大切に抱かれている。もしかして、木の根っこが飛び越えられなかったりするのかな。
オレもウィオの肩に乗って移動だ。うろうろして余計な魔物や動物の気を引いたらいけないからっていう配慮だよ。歩きたくないわけじゃないよ。
でもとっても臆病だというもふもふは、こんな風にたくさん冒険者が山に入ってきたら逃げちゃうんじゃないんだろうか。どういう作戦なのか、詳しく聞かされてないんだよね。
山の中腹の開けたところに着いたところで、毛刈り職人の代表者が寄ってきた。
「ここに誘い込むために、その狐にはこの周囲を散歩してきてほしい」
「散歩?」
「走り回ると驚くから、散歩だ。あいつらの好きなこの草を首に巻いてくれ」
レンゲの花冠みたいなものを取り出した。毛織物のもふもふピクニャンは、この花の葉っぱが大好物なんだそうだ。それで、この広場に葉っぱを置いて誘い出すけれど、ここに葉っぱがあると知らせるためにオレたち使役獣がお散歩して、花の香りをまき散らしてくる。オレは食パンくんが行かない側を担当する。
オレたちがお散歩している間に、人間はこの広場から離れたところに身を潜めて、近づいてきたら広場に追い込んだり、逃げないように囲い込んだりするらしい。
『どれくらい遠くまで行くの?』
「どこまで行けばいい?」
「行けるところまで」
なんだかすごく適当だなと思ったけど、食パンくんが参加してくれるようになってこの方法を始めたので、食パンくん以外でやるのはオレが初めてらしい。食パンくんが参加するまでは、花を持った人が森の中を動き回ってから、警戒してなかなか出てきてくれないのをじっと待っていたそうだ。
手順が確立していないのもあって、まずは食パンくんがピクニャンを集めてくるのを他の冒険者と一緒に見学することにした。
食パンくんが首に花冠をかけて、ぷりぷりとお尻を振りながらお散歩に出て行く。いかにも警戒されなさそうな、もちゃもちゃボディが可愛い。
「毎年あれを見ると、パンが食べたくなるんだよなあ」
「分かる。今年は携帯食じゃなくて丸パンを持ってきた」
「俺も。でもさ、今年は白パンも食べたくなりそうじゃないか?」
そう言って一人の冒険者がオレのほうを見た。白パンってオレ? オレはパンって感じじゃないでしょう。
そんな話をしていたら、早くも食パンくんが帰ってきた。その後ろから、大きなもふもふがついてきている。
最初は広場を警戒していたもふもふも、広場に草の山を見つけると、ふらふらと近づいて、頭を突っ込んで食べ始めた。
「ルジェ、あのピクニャーは魔物か?」
『魔物と動物の交配種っぽいけど……』
「けど?」
『なんであんな厳つい顔なの?! ピクニャンって可愛いもふもふを想像してたのに!』
「ピクニャンではなくピクニャーだ」
ニャーでもニャンでもニャーンでも、とにかく名前からふわふわの可愛らしい動物だと思っていたら、牛くらいの大きさの、首の長いアルパカっぽいのだった。体の表面が毛足の長いじゅうたんで被われているみたいな感じだけど、ところどころ絡まっているのが野生っぽい。それだけなら良い毛織物になりそうだなとしか思わないんだけど、ものすごく凶暴そうな顔が何よりも目立っている。
アルパカって平和な顔で草をもぐもぐしてるんじゃなかったっけ? なんであんなに長い牙があるのよ。しかもあれで臆病って、顔負けし過ぎでしょう。
それに、草の山を見つけてからは、周りを警戒している様子もない。本当に臆病なの?
「警戒心が強いんじゃないのか?」
「強いんだが、食欲のほうがさらに強いんだ」
隣りにいる冒険者に聞いてみると、草を食べ始めたら食欲が勝つので、人が近づいても平気らしい。
ただ、他のピクニャーが来たときに人がいると草に近寄ってくれないので、たくさん集まってくるまで冒険者は息をひそめて待っている。この広場から出て行こうとするピクニャーの進路を遮るのが、ここにいる冒険者の仕事だ。
開始早々に一匹現れたことで、みんなホッとしているようで、「今年は幸先がいいな」とひそひそと話をしているのが聞こえる。
そもそも人間がこの距離に隠れているのに警戒に引っかからないって、警戒能力もポンコツっぽいぞ。視界に入らなければ、気づかないのかな。この山には天敵がいないとか?
『危険回避を上回る食欲って、それでいいの……?』
「ルジェ、仲間だな」
違うよ! オレは、生命の危機になることなんてないから、食欲を優先してもいいの。それに、ウィオの危機よりも食欲を優先させたりもしないよ。
ひどいよ、ウィオ。オレは食いしん坊かもしれないけど、ちゃんと節度を守った食いしん坊だよ。
ウィオに猛抗議していたら、静かにするように怒られちゃった。ごめんなさい。
食パンくんは次のピクニャーを探すために、またお尻を振りながらうきうきと広場を出て行った。
オレも負けていられないね。ちゃんとお仕事して、ダメな食いしん坊の汚名を返上しなきゃ。
『ウィオ、行ってくるよ』
「気をつけろ」
『ありがと』
ただの動物じゃなくて魔物との交配種ってことでウィオが警戒してくれているけど、魔物であってもなくてもオレの敵じゃないから安心してて。
ウィオが花冠を首にかけてくれた。花の香りを山の中に広めて、たくさんピクニャーを集めよう。
フローラルなルジェくん、出発でーす。
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