美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい

戌葉

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3年目 オルデキア西部・マトゥオーソ編

【閑話】オルデキア王国王都冒険者ギルド長 上

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 私はオルデキア王国王都の冒険者ギルド長、ロイク。
 出身地であるオルデキアを中心に活動する冒険者になり、引退後はギルド長として冒険者をまとめ、そろそろ引退が見えてくる年齢になった。

 王都のギルド長となってからいろいろあったが、最近は想像もしなかった激動の年月を過ごした。
 王宮への神罰から始まった魔物激増期間もなんとかやり過ごし、神獣様が冒険者の使役獣として登録にくるという神級の攻撃魔法もなんとか受け止めた。神獣様の加護を持つ氷の騎士の、冒険者を初心者ランクから始めるというわがままにも、そのくせ自分で依頼を選ばず丸投げしてくる無茶ぶりにも答えてきた。始まる前から結果が決まっているランクアップ試験だって、ちゃんと試験官を手配して受けてもらった。中堅ランクに合格と同時に上級ランク認定したのは、せめてもの意趣返しだ。
 私はギルド長としてかなり優秀だと胸を張っていいと、最近思っている。代わりに頭の毛を失った気はするが、気のせいだ。気のせいに違いない。

 氷の騎士に関することはすべて私に報告させているので、私が引退後のために、氷の騎士の出身の侯爵家にごまをすっていると陰口をたたく職員がいることは知っている。可愛らしい狐の使役獣を独占しているとうらやましがられていることも知っている。
 できることなら変わってほしい。誰でもいいから変わってほしい。統括長は、実際に接するのは私だからすべて一任する、という耳障りのいい言葉で責任逃れをしているし、誰でもいいから助けて。
 無邪気な表情で見上げてくる可愛らしい使役獣が、尻尾を振ってご機嫌な使役獣が、実は畏れ多い神獣様だなんて、誰も想像していないだろう。いつもご機嫌で楽しそうだからこそ、何をするとご気分を害するのかが分からず、対応するたびに胃が痛い思いをしているなど信じてもらえそうにない。
 今回もまた無茶ぶりがきた。はあ。

 ギルド長の執務室でその無茶ぶりをしてきた本人たちは、私に会いに来る前に、薬草を買取に出していたようだ。

「氷の騎士様、査定結果が出ました。買取金額をご確認ください」
「これで構わない」

 氷の騎士は金額などまったく見ていないが、それは受付も分かっている。それでも飛ばすわけにはいかないやり取りなので、毎回形だけ行われている。

「はい。ついでに、そちらの銀色の毛皮も高く買い取りますよ。手触りもいいですし、今日の雪の柄のスカーフも似合っていますね」
『キャン』

 氷の騎士の肩から受付のカウンターの上に降りた神獣様を、受付の職員がなでている。神獣様は気が向くとこうして職員たちが触れることを許してくださる。他の職員たちがうらやましそうに見ているが、私は畏れ多くてまだ一度も触れたことはない。余計なことを知らないほうが人生は楽しめるものだと、最近悟った。

「狐くん、ギルドの子にならない? ここにいてくれたら、お仕事がはかどるんだけどなあ」
『キューン』

 そうなったら私はギルド長を引退して、後を誰かに任せるぞ。
 ありえない未来の話はさておき、氷の騎士の依頼について手配をしなければ。

「大手商会から、マトゥオーソへの護衛依頼は来ていないか?」
「大手ですと、ピエト商会が来てますね。ダンテール商会も検討中だそうですが、経験を積ませたい冒険者でもいるんですか?」
「氷の騎士が、マトゥオーソへ行くのに、護衛依頼を受けたいそうだ」
「なぜ、わざわざ護衛依頼を?」

 商業ギルド担当の言うことはもっともだ。私もそう思う。こんなことが商会に知られたら、ぜひともうちにとすごい料金が提示されることになるだろう。それをさばくのはギルドなんだぞ。
 氷の騎士は、神獣様を抜きにしても、もう少し自分の影響力を自覚したほうがいいと思う。
 冒険者に登録したときに、いったいどれだけの指名依頼が集中したと思っているんだ。しかも氷の騎士への指名依頼を一切受けないと決めたことで、ギルドがボロクソに言われたんだぞ。こっちは理由が説明できないのに矢面に立たされるし、職員にも後ろからチクチクと刺されるし。針のむしろで孤軍奮闘だったころを思い出しただけでも、胃が痛くなってくる。

 今回マトゥオーソまでの護衛依頼を受ける理由は、どうせ移動中に勧誘されるから、ならば最初から受けてしまおう、ということらしい。
 移動中の勧誘でいいじゃない。たまたま居合わせたラッキーな商会と勝手に契約してほしい。ギルドを通さなくても、氷の騎士のことをだまそうとする商会なんていないんだから、ギルドを巻き込まないで。

「争奪戦になりますよ」
「だよなあ」

 いくつの商会が手を挙げることやら。移動の予定がなくても、氷の騎士とつながりを作れるなら今から移動の計画をする商会も出てきそうだ。


 護衛依頼のことを質問した翌日、商業ギルド担当から、話が広がると収拾がつかなくなるのですぐにでも決めてほしいと言われた。

「ピエト商会、ダンテール商会、シーモン商会から要望がありました」
「どこが良いと思う?」
「どこも問題はないと思いますので、氷の騎士様に選んでいただいては?」

 そうしたいんだが「どこかいいところを頼む」の一言で任されてしまったんだ。どんな商会を選んでも、なんなら個人の行商人にしたって、氷の騎士は文句は言わないだろう。けれどうっかり神獣様を怒らせて、神罰がくだるなんてことは避けなければならない。神獣様のお怒りポイントが分からないから、対策の立てようもないのだけど。
 すべて大手商会だから、どこでも大きな問題は起こさないだろうが、どこを選べばいいのか。商会の規模ならシーモンだが、氷の騎士はリーダーはやりたくないというから護衛隊長の人柄で選ぶべきか。騎士団で小隊長をやっていた氷の騎士を使うなんて、経験豊富でないと委縮してしまって難しいだろう。

「護衛隊長がしっかりしているのはどこだ?」
「それですと、ピエトとダンテールですね。シーモンは最近代替わりしましたので」
「その二つの特徴は?」
「ピエトは一番依頼料が高いです。護衛に余裕があるのもピエトです。ダンテールはギリギリの人数で回していますが、商会の人間もそれなりに戦えます。あと、護衛に料理係がいるのが、他にはない特徴ですね」
「ダンテールにしよう」

 護衛の能力の差なんて、氷の騎士が加わればただの誤差だし、依頼料は最初からまったく気にしていない。
 神獣様が国外へ向かわれるのは、美味しいものを探すためらしいので、それなら料理係がいればご機嫌で旅を楽しんでいただけそうだ。
 それに依頼料が一番高いところが受けたと後で知れては、次回の依頼料がとんでもないことになりそうだ。もし次があったら、くじ引きにしようか。
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