美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい

戌葉

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3年目 スフラル編

【閑話】スフラル王国王都アーグワの冒険者 4

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 銀のの案内でたどり着いたところには、大きな岩のそばにヒュブリルもどきと狐がいた。ヒュブリルもどきが岩の横でこちらを警戒しているので、俺たちも剣を下せない。
 狐は大きな岩の上に座って、後ろ足で首の後ろをかいていた。ヒュブリルもどきにくわえられたところが気持ち悪いのか、近づいた銀のに首の後ろをなでるように要求している。感謝してくれとは言わないが、お前を心配して探しに来た俺たちに、何かリアクションはないのか。

「やはりその動物は、山のヌシだそうだ。この岩を壊してほしくて、連れてきたらしい。攻撃するな」
「狐にか? 無理だろ?」
「もうちょっと強そうなのに頼めよ」

 魔物ではないと分かって気が緩んだのと、銀色コンビがあまりにものん気なので、辛辣な突っ込みが飛んでいる。だが本当にこの狐に岩が壊せると思ってるなら、山のヌシはあまり頭がよくないんだろうな。
 その岩は、銀のが出した氷の槍で粉々に砕かれた。本当にでたらめな攻撃力だな。いちいち驚くのも面倒になってくるぞ。
 岩をよけると、洞窟への入り口がある。どうやらこの入り口が塞がれてしまったので、開けてほしかったらしい。ヌシの住処に興味があって、洞窟に入ろうとすると、ヌシに威嚇された。

『カッカッカッ!』
「お、おい。怒るなよ」

 中には小動物がいるようで、この洞窟に弱い動物たちを住まわせて、魔物から守っているようだ。ヌシは本当にヌシだったということだ。

 狐が洞窟に入ると、小さな毛玉が狐に突撃しているのが見えた。銀のが狐は動物に好かれると言っていたが、ころころの毛玉がたくさん狐にまとわりついている。可愛いなあ。ヌシの威嚇がなければ、なでまわしたいくらい可愛い。もしやその欲望を見抜かれて威嚇されているのか。

 俺たちは狐が毛玉まみれになっているのをうらやましく見て、のほほんとした雰囲気だが、その横では騎士が緊張した声でヌシに話しかけていた。話に耳を傾けると、この場所を秘密にするから、今後も人がこの山に立ち入るのを許してほしいと交渉していた。
 その内容もだが、騎士のヌシへの丁寧な接し方に驚く。もしかして、城にはヌシに関する俺たちの知らない情報があるのか? だから、ヌシを怒らせないように交渉しているのか。だが騎士も、最初からヌシとして認識していたわけではないから、姿形は伝わっていなさそうだ。
 結局、銀のにこの場所を口外しないという契約魔法を使わせて、俺たち全員が受け入れた。これだと銀のはこの場所をばらすことができるが、この国にほとんどいないから実質秘密になる。
 だが、騎士も口外できないから、王にも報告できない。それでいいのかと心配になったが、後で聞くと城には「ヌシは神の眷属」という言い伝えがあり、報告よりも契約を優先したと聞いて納得した。神罰で山に入れなくなるのは困るので、騎士がいてくれてよかった。

 用が済んだので、早々にヌシの住処から離れた。もう少しちっこい毛玉を眺めていたかったが、警戒しているヌシを刺激したくない。今夜の寝床はできればヌシの住処から離れたところにしたほうがいいだろう。

 あまりのんびりもしていられないが、一度気分を落ち着けたいと、少し離れたところで休憩をとることにした。
 なんとなく車座になって座り、銀のが出してくれた水を飲んでいるが、狐はマットを敷いてもらって干し肉をかじり始めた。お前がさらわれたせいで人間は慌てたのに、のん気だな。しかも狐はさらわれただけで何もしていないのに、なんで腹が減るんだ。
 狐がさらわれたときに銀のがえらく落ち着いていたと思ったら、さらわれるのはこれで三度目らしい。片手でひょいっと持ち上げられる大きさなのに、警戒心がなさすぎだからだろう。銀のは当てにならないし、この先俺が抱いていてやるべきだな。

 出発準備を整えリュックを背負った狐を抱き上げると、大人しく身を任せてきた。首の下をなでると、もっとなでてくれというふうに手に押し付けてきたから、もっとなでてやろう。よしよし、ふわふわだなあ。あのちっこい毛玉たちはもっとふわふわだったのかな。触りたかったなあ。

「ガレン、次は俺だからな」
「その次は俺ね」
「じゃあ、そっちから順番だから、隊長さんが四番目だ。その次が俺」
「あ、いや、私は」

 近寄りがたいと思っていた騎士だが、狐に振り回されてあたふたしているのを見て、とても身近に感じるようになった。そう思っているのは俺だけではなかったようで、ここぞとばかりにみなが絡んでいる。

「またさらわれたら困るよなあ、狐」
『キューン』
「隊長にだっこしてもらいたいよな」
『キャン!』

 冒険者もたいがいだが、狐も本当にいい性格をしている。騎士が慌てるのを楽しんでるだろう。飼い主よりも狐の身を心配していたにもかかわらず、狐に遊ばれて可哀そうに。かといって助けてやる義理はないから、俺も楽しもう。


 薬草探しは順調に進んだ。狐は走り回っては薬草を見つけ、鳴き声を上げて知らせる。それがあまりにも多くて、騎士と銀のを魔物への警戒に残して、冒険者全員で採取しているが、こんなに持って帰れるのかが心配になるくらい採れた。
 狐はあたり一帯の薬草を探し終えると、穴掘りを始めた。その下に根が薬になるような植物でも埋まっているのかと思ったが、単に遊んでいるだけらしい。自分がすっぽり入れそうな穴を掘って、とても満足した顔をしている。こっちは必死になっているというのに遊んでいてイラっとするが、魔物の接近は知らせてくれているので、大目に見てやろう。

 持って帰るための薬草の荷物詰めも終わり、今日はここで寝て、明日朝から山を下ることにした。帰り道でも薬草を採取する予定だったが、すでに持ちきれないくらいの薬草が集まっているので、貴重なもの以外は素通りすると決めた。
 夕食にしようとたき火を起こしていると、銀の足元に狐が近寄り、鳴いて何かを訴えている。何かあったのかと見守っていると、銀のがいきなり狐に頭から大量の水をばしゃっとかけた。
 遊んでいた罰かもしれないが、それはちょっと可哀そうじゃないか?

「おい、何をしているんだ」
「土を掘って汚れたから洗ってほしいそうだ」
「いや、お前それ、水をかけただけだろう」

 罰じゃなかったのか。だが、毛が水をはじいてほとんど洗えてない。しかも、足元に水がたまったせいで、さらに泥だらけになっている。狐は水をかけられても全く気にしていないようだが、それを見た騎士が慌ててるぞ。
 さらにもう一度水をかけているが、相変わらず足元に水がたまるだけで、狐の毛は何一つきれいになっていない。だが、足元にだけ水を出して、なんていう繊細なことは苦手そうだもんなあ。

「狐くん、洗ってあげるからおいで。ここの石の上に乗って」
『キャン』
「銀の、この鍋に水を出してくれ」

 見かねたやつが、石の上に狐を乗せて、鍋の中の水をすくいながら毛についた土と泥をきれいに落としてやることにしたようだ。狐は言われるままに、手を出したりお腹を見せたり、お利口にしている。いたずら好きだったり、のん気だったり、お利口だったり、忙しい奴だ。

「いつもどうやって洗ってるんだ?」
「風呂だ」
「まじかよ。使役獣に風呂って、貴族はすげえな」

 しかも狐のためだけに作られた特別な石けんを作っているらしい。狐、絶対俺よりいい生活してるだろ。というかほとんどの人間よりもいい生活だな。旅先でも風呂があって食事の美味しい宿にしか泊まらないとか、本当になんで冒険者の使役獣なんかやってるんだ。貴族の屋敷で大人しく可愛がられていればさらわれる危険もないのに。
 だが狐の鼻のおかげでこれだけ貴重な薬草が採取できたから、できることなら毎年アーグワに来てほしい。

 その薬草採取だが、銀のがタイロンで薬師ギルドと協力したときのことを聞いて、できるなら同じようなことをこの国でもやっていきたい。この山の薬草はきっと国外でも高く売れるはずだ。
 薬師を連れていくのは危険すぎるが、冒険者に薬草の知識を教えてもらうことはできるだろう。これから冒険者を目指す若者たちが安全に稼げる道筋を作れるならば、残りの冒険者生活を費やす価値はきっとあるはずだ。

 山を下りて、打ち上げの場でも、薬師ギルドとの協力体制をどうやって作っていくかという話で盛り上がった。俺たちが話したところで決めるのは上の奴らだが、それでも期待をかけて協力する気の者がこれだけいると知れば、ギルドもやる気になるだろう。
 そのきっかけとなった狐は、相変わらずおいしそうにチョモを食べ、子どもたちの歓声にこたえて雪を吹いている。

「この後はフェゴに行くのか?」
「いや、トゥレボルに寄って、オルデキアに帰る。家に用事ができた」
「そうか。またこの国に来たら声をかけてくれよ。狐、一緒に薬草を取りに行こうな」
『キャン』

 よしよし。次に来るときまでに、山に持っていける日持ちするチョモの開発を屋台に頼んでおくから、楽しみにしておけよ。
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