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10. 私の婚約披露(ジェンシャン視点)
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グローリ公爵邸でナスターシャ嬢と私の婚約披露パーティーが開かれている。
今回はレリチア様のローズモス国王側妃としての非公開のお披露目を兼ねているために、参加者の気合の入り方は並々ならぬものがあるようで、各々の煌びやかなドレスのおかげで会場が豪華絢爛だ。
「時間がなかったとはいえ、やはり今回のために新調すべきでしたね」
「確かに。ナスターシャ嬢は気にしないだろうが」
「まああの方は騎士団の正装でもまったく疑問も感じなさそうですね」
パーティー用の服に身を包んだ私を見て「その仮面はかぶれたりしないのですか」と聞いてくるとは、予想もしなかった。こちらの想像の遥か上を越えてくる。
レリチア様にたしなめられて取ってつけたように「よくお似合いです」と言ってくれたが、服装には全く興味がないのはよく分かった。トルゴードでのお披露目のドレスはこちらで準備すべきか、レリチア様に確認しておいたほうがいいな。
参加者は主役である我々よりも、レリチア様に会いたくて来ている人が多い。我々に挨拶を済ませた後、レリチア様へと群がっている様は、傍から見ると滑稽だ。ここに至る経緯はグローリ公爵から聞いているが、こんなことで失った信用は取り返せないだろうに。
私と話したがるのは、主に貿易に関わる仕事をしている者たちだ。トルゴードは他国に比べて魔物が多いが、それ故に魔物の素材も多く入手でき、それが輸出の産業として確立している。ウィロウ公爵領にも魔物の出る森があるし、騎士団にいて魔物討伐をしている身でもあるから、繋がりを持ちたいものは一定数いる。
「お初にお目にかかります。私はスィジア伯爵家当主のフォーリ・スィジアと申します。この度のご婚約、心よりお祝い申し上げます」
「ジェンシャン・ウィロウです。ご丁寧にありがとうございます」
「私共の領は素材加工で生計を立てておりまして、ぜひ魔物の素材についてお話を聞かせていただきたいのですが」
スィジア伯爵領についての情報を思い出そうとするも、出てこない。今回は準備時間もあまりとれなかったので、カクタスから我が国と取り引きをしている主要な領についての情報は聞いたが、小さな領は分からないし、ボターニ国内の力関係も分からない。下手な返事はできないし、とカクタスを見たが、カクタスからは分からないという合図が返ってきた。
とりあえず後日返事をすることにするか、と思った時だった。
「ジェンシャン様、スィジア伯爵領はボターニの西側に位置する領で、先ほどお話になられましたバーグス侯爵領の隣領になります。農地がないために広くありませんが、領民の多くは主要産業である素材加工に従事しております。バーグス領から輸出される製品の加工の多くはスィジア領でなされていて、品質は国内でも高く評価されています」
「ほお。加工が専門ですか」
「こちらのグラスもバーグス製として売り出されてはいますが、スィジア領で加工されたものではありませんか?」
「は、はい、そうです!バーグス領の有名な工房のものですが、加工の一部は我が領で行っております。ガラス加工では炉が高温となるため魔物の素材を使用しております」
「この繊細さから加工技術の高さが分かりますね」
取引相手として検討するには十分のようなので、公爵領の担当者から連絡することにした。
しかし驚いた。優秀だとは聞いていたが、ここまでとは。
「ありがとう」
「出過ぎた真似をいたしました」
「助かりました。この先も頼みます」
次のゲストが待っているのであまり長くは話せなかったが、これで通じただろう。
それからも、必要な場合はカクタスの情報を補足し、いくつか有意義な商談ができそうな相手と繋ぎをつけることができた。
「驚きましたね。優秀だからこそトルゴードへ、というのは言葉通りの意味だったようですね」
「確かにあれでは女官にはもったいないだろう」
レリチア様の女官となるはずだったナスターシャをローズモスではなくトルゴードへ向かわせる理由について、グローリ公爵は彼女の能力を活かすためだと説明されたが、実は何らかの理由でレリチア様から離すためなのではないかと疑っていた。
だが今日の振る舞いを見て、本当にナスターシャのためを思っての決断なのだと確信した。
女官の嗜みです、と事も無げに答えていたが、女官に国内情勢の詳細な把握は求められない。そういう場には政務官がついてフォローするのだから。
「部下に欲しいですねえ」
「兄上も欲しがるんじゃないか」
彼女がいればボターニとの交易がかなり発展しそうだ。しかもローズモス国王側妃と姉妹でかなり仲が良い。
掘り出し物と言っては失礼だが、これはかなりの良縁を得たようだ。
「貴方とも上手くやっていけそうな稀有な方ですし」
「感性はかなり独特だがな」
レリチア様とお揃いのドレスを褒めた私に驚いていたので、私が魔物の種類だけでなくドレスの流行が分かることがそんなに不思議かと問うた。その答えが、今考えても理解できない。
「光に集まる蝶を喜ばせるのがお上手でいらっしゃるのですね、というのはどういう意味だったんだろうか。私に群がる令嬢たちへの当てつけか?」
「特に嫉妬なさっている感じでもありませんでしたよ」
むしろよく頑張りましたというような満足げな顔で見られていたのだが、いったい彼女の頭の中で私はどういう人物になっているのだろう。とんでもない結論にたどり着いていそうだ。
「もう人に会う予定はありませんので仮面を外されては?かぶれないか心配されますよ?」
「そうだな」
皮膚にあたる面はシルクで作られているから、かぶれたりはしないんだがな。でも心配してくれたのは、素直に嬉しい。
今回はレリチア様のローズモス国王側妃としての非公開のお披露目を兼ねているために、参加者の気合の入り方は並々ならぬものがあるようで、各々の煌びやかなドレスのおかげで会場が豪華絢爛だ。
「時間がなかったとはいえ、やはり今回のために新調すべきでしたね」
「確かに。ナスターシャ嬢は気にしないだろうが」
「まああの方は騎士団の正装でもまったく疑問も感じなさそうですね」
パーティー用の服に身を包んだ私を見て「その仮面はかぶれたりしないのですか」と聞いてくるとは、予想もしなかった。こちらの想像の遥か上を越えてくる。
レリチア様にたしなめられて取ってつけたように「よくお似合いです」と言ってくれたが、服装には全く興味がないのはよく分かった。トルゴードでのお披露目のドレスはこちらで準備すべきか、レリチア様に確認しておいたほうがいいな。
参加者は主役である我々よりも、レリチア様に会いたくて来ている人が多い。我々に挨拶を済ませた後、レリチア様へと群がっている様は、傍から見ると滑稽だ。ここに至る経緯はグローリ公爵から聞いているが、こんなことで失った信用は取り返せないだろうに。
私と話したがるのは、主に貿易に関わる仕事をしている者たちだ。トルゴードは他国に比べて魔物が多いが、それ故に魔物の素材も多く入手でき、それが輸出の産業として確立している。ウィロウ公爵領にも魔物の出る森があるし、騎士団にいて魔物討伐をしている身でもあるから、繋がりを持ちたいものは一定数いる。
「お初にお目にかかります。私はスィジア伯爵家当主のフォーリ・スィジアと申します。この度のご婚約、心よりお祝い申し上げます」
「ジェンシャン・ウィロウです。ご丁寧にありがとうございます」
「私共の領は素材加工で生計を立てておりまして、ぜひ魔物の素材についてお話を聞かせていただきたいのですが」
スィジア伯爵領についての情報を思い出そうとするも、出てこない。今回は準備時間もあまりとれなかったので、カクタスから我が国と取り引きをしている主要な領についての情報は聞いたが、小さな領は分からないし、ボターニ国内の力関係も分からない。下手な返事はできないし、とカクタスを見たが、カクタスからは分からないという合図が返ってきた。
とりあえず後日返事をすることにするか、と思った時だった。
「ジェンシャン様、スィジア伯爵領はボターニの西側に位置する領で、先ほどお話になられましたバーグス侯爵領の隣領になります。農地がないために広くありませんが、領民の多くは主要産業である素材加工に従事しております。バーグス領から輸出される製品の加工の多くはスィジア領でなされていて、品質は国内でも高く評価されています」
「ほお。加工が専門ですか」
「こちらのグラスもバーグス製として売り出されてはいますが、スィジア領で加工されたものではありませんか?」
「は、はい、そうです!バーグス領の有名な工房のものですが、加工の一部は我が領で行っております。ガラス加工では炉が高温となるため魔物の素材を使用しております」
「この繊細さから加工技術の高さが分かりますね」
取引相手として検討するには十分のようなので、公爵領の担当者から連絡することにした。
しかし驚いた。優秀だとは聞いていたが、ここまでとは。
「ありがとう」
「出過ぎた真似をいたしました」
「助かりました。この先も頼みます」
次のゲストが待っているのであまり長くは話せなかったが、これで通じただろう。
それからも、必要な場合はカクタスの情報を補足し、いくつか有意義な商談ができそうな相手と繋ぎをつけることができた。
「驚きましたね。優秀だからこそトルゴードへ、というのは言葉通りの意味だったようですね」
「確かにあれでは女官にはもったいないだろう」
レリチア様の女官となるはずだったナスターシャをローズモスではなくトルゴードへ向かわせる理由について、グローリ公爵は彼女の能力を活かすためだと説明されたが、実は何らかの理由でレリチア様から離すためなのではないかと疑っていた。
だが今日の振る舞いを見て、本当にナスターシャのためを思っての決断なのだと確信した。
女官の嗜みです、と事も無げに答えていたが、女官に国内情勢の詳細な把握は求められない。そういう場には政務官がついてフォローするのだから。
「部下に欲しいですねえ」
「兄上も欲しがるんじゃないか」
彼女がいればボターニとの交易がかなり発展しそうだ。しかもローズモス国王側妃と姉妹でかなり仲が良い。
掘り出し物と言っては失礼だが、これはかなりの良縁を得たようだ。
「貴方とも上手くやっていけそうな稀有な方ですし」
「感性はかなり独特だがな」
レリチア様とお揃いのドレスを褒めた私に驚いていたので、私が魔物の種類だけでなくドレスの流行が分かることがそんなに不思議かと問うた。その答えが、今考えても理解できない。
「光に集まる蝶を喜ばせるのがお上手でいらっしゃるのですね、というのはどういう意味だったんだろうか。私に群がる令嬢たちへの当てつけか?」
「特に嫉妬なさっている感じでもありませんでしたよ」
むしろよく頑張りましたというような満足げな顔で見られていたのだが、いったい彼女の頭の中で私はどういう人物になっているのだろう。とんでもない結論にたどり着いていそうだ。
「もう人に会う予定はありませんので仮面を外されては?かぶれないか心配されますよ?」
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