悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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11. 悪役令嬢と私の出発

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 ジェンシャン様は慌ただしく、トルゴードへ戻られた。次にお会いするのは、私の輿入れの時だ。
 お義父様とジェンシャン様の話し合いの結果、私の輿入れは半年後のレリチアの輿入れと併せて行われる予定だ。
 トルゴードはこの国から見るとローズモスの向こう側。ローズモスを挟んでボターニとトルゴードがある。
 レリチアと共にローズモスに向かい、そこにジェンシャン様がお迎えにいらしてくれる予定だ。

 レリチアには、ローズモス王国からお妃教育の担当者が来て、毎日授業が行われている。
 私が聞いてもいい授業の時は同席させてもらっている。語学の授業や、ローズモス王国から見た周辺国の情報などはとても有益だ。

「ナスターシャは本当に勉強が好きね」
「知識は裏切りませんから」
「その口癖、貴女はいったい何に裏切られたのかしら」
「もしもの時の備えです」

 今世では裏切られたことはないが、用心に越したことはない。
 トルゴード行きがなくなるとは思わないし、レリチアとの関わりがある限りトルゴードでの扱いが悪くなるとも思っていないが、想定外の事態はいつ何時起きるか分からない。

「でも貴女の言いたいことは分かるわ。この国での王子妃の教育があったからこそ、側妃に迎えていただけるのでしょうし」
「授業も早めに終われそうだと先生が仰っていましたね」

 学園に入ったころからずっと王子妃としての教育を受け、それが身についているからこそだ。それはレリチアの努力のたまものだろう。
 あの男爵令嬢は今頃王子妃の教育に苦労しているのではないだろうか。

「それで今は何を読んでいるの?」
「トルゴードに伝わる言い伝えや寓話、おとぎ話を集めたものです。風土が分かって面白いですよ」

 その話が後世まで伝わっている理由を考えると面白い。途切れなかった、あるいは途切れさせてはいけないと思った何かがあったからこそ、歴史の中に埋もれずに伝わっているのだ。そんなことを考えながら読むと、書かれていない背景まで想像が広がる。
 娯楽の少ないこの世界で、読書は私の趣味のひとつだ。


 今日は、学園で同学年だった令嬢たちを公爵邸にお招きしてお茶会だ。
 学園を卒業し、早い人ではすでに結婚している人もいるが、大半は婚約中である。
 私たちの学年には、もうひとり公爵家のご令嬢であるウィステリア様がいらっしゃるが、その方の婚約者はもうひとつある公爵家の令息である。
 つまり身分的には、国王の側妃になるレリチアが1番、ウィステリア様が2番、元は侯爵家出身の私が3番である。何が言いたいかというと、私はウィステリア様のおもてなしをしなければならない。

「養女になったばかりでなく、他国の公爵家に乗り換えるなんて、その手腕、ぜひ見習いたいですわ」
「お褒めにあずかり光栄です」

 わざわざ格下に絡む必要などないのに、こうして嫌味を仰るということは、現状にご不満がおありなのだろうか。

 私は幸い変わり者として両親から半ば見放されていたのでそうでもなかったが、その小さな肩に家の期待を背負って戦っている少女たちを見ていると、少し切なくなる。ここは彼女たちの戦場なのだ。

 周りの令嬢から少し離れたところからクレマティスが私を睨んでいるが、睨みたくなる気持ちも理解できる。彼女は家の指示に従っただけだったろうし、兄のロータスが私の婚約者でさえなければ、彼女の婚約まで危うくなることはなかったはずだ。

 レリチア様の元取り巻きの令嬢はほぼ皆、私に厳しい視線を向けているが、それも自業自得というものだ。
 確かに私は幸運だったと思うが、公爵家が没落するはずはないと判断したのは私自身だ。家に止められようとも、一度でもレリチアに声をかけていれば、今の待遇は変わっただろうに。
 ローズモス王国国王側妃の友人という立場を自分で手放してしまったのだ。クレマティスが全く連絡を取らない選択をしたからそれに倣ったのだろうが、その自分の判断を悔やむしかない。
 今はまだそこまで割り切れないだろうが、他人を恨んだところで何も変わらない。それでも恨みを心のうちに収めるのが難しいことは、私自身が経験したから理解できる。
 おせっかいだとは思うが、いつまでもそこに囚われないで、先に進んでほしいと思う。どんなに嘆こうとも過去は変えられないのだから。

 お茶会は、当初の予想通り学園で親しくしていた令嬢からは恨みのこもった眼を向けられるなかで、あまり親しくしていなかった令嬢からジェンシャン様のことや婚約に至る経緯を聞かれるままに答えているうちに、終わった。


 いよいよ、ローズモス王国へ出発だ。
 先日はレリチアと一緒に、ボターニ国王に謁見し、他国へ嫁ぐ報告をした。本来であれば側妃となるレリチアだけで私は呼ばれないのだが、一緒に出発するということで、謁見にも一緒に呼ばれた。
 ローズモス王国までお義父様とお義兄様も同行し、国から騎士団が派遣されレリチアを護衛する。また王族を代表して、王弟殿下もご挨拶にいらっしゃる。レリチアの輿入れは国と国とで決められた婚姻だからだ。
 シスル侯爵家の人たちはここでお別れだ。

「ナスターシャ様、トルゴードでの幸せをお祈りしております」
「シスル侯爵家がこの先も安泰であるよう願っております」

 最後までお互いに愛情は抱けなかったけれど、育てていただいたことには感謝している。
 当てにしていたであろうボルサ伯爵家からの援助は無くなるが、グローリ公爵家が没落しないように最低限は援助して下さるだろう。その結果、家が乗っ取られるかもしれないが、そこは後継ぎである兄にかかっている気がする。とても頼りないが、伸びしろはあると信じている。

 そして妹よ、最後まで私になり替わることを諦めていなかったようだけど、その情熱を別のことに向けてほしいと、お姉ちゃんは切に願うよ。トルゴードに遊びに来るつもりなら、まずは語学の勉強を頑張ろうね。
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