悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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12. 悪役令嬢と私の顔合わせ

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 ローズモス王国までは、レリチアと一緒の馬車だったので、とても快適な旅だった。側妃が乗る馬車だ、おそらく国で2番目くらいには良い馬車のはずだ。
 泊まるのも全て高級宿か領主の館で、常に豪華な食事と快適な睡眠が確保されていた。

 ちなみに私が前世の記憶を思い出したのは、馬車に乗っている時だった。サスペンションが良くないなあと思った時に、あれ、サスペンションってなんだっけ?と考え、この世界ではない世界に生きた記憶を思い出した。前世、ネパールで乗ったツーリストバスで、今座席から5cmは浮いたはずという瞬間が何度かあったが、この世界の馬車で同じような経験をしたのがきっかけだった。

 謁見の間で、ボターニの王弟、お義父様、レリチアが並び、私は1列後ろに控えている。
 横を見ると、ジェンシャン様とジェンシャン様に雰囲気の良く似た方がいらっしゃるので、トルゴード王国の宰相であるお父上なのだろう。これを機に3か国の対談が開けそうなメンバーだ。

「よく参られた」
「ボターニ王国グローリ公爵家長女レリチア嬢をお連れいたしました」

 王弟殿下がレリチアの到着を報告し、この婚姻によって両国の関係がますます発展するよう祈っていると告げた。
 第二王子殿下の婚約破棄から始まった騒動に、ローズモスが助けを出した形なので、ボターニの立場は弱い。それでもレリチアが寵愛を得れば変わるかもしれないという一縷の望みに託しているのだ。

 王座にいらっしゃるローズモス国王陛下とそのお隣の王妃様は、娘を見るような優しい目でレリチアをご覧になっている。まだ安心はできないが、レリチアのここでの生活の滑り出しは穏やかなものになりそうな気がする。

「レリチア、無事の到着ご苦労。そなたの妹がトルゴードへ出発するまで、客間で過ごすといい」
「陛下、お気遣いいただきありがとうございます」

 レリチアは側妃のため結婚式は行われないが、その代わりに大々的に披露パーティーが行われる。それに出席した後、お義父様はボターニへ帰り、私はトルゴードへ出発する。それまで、レリチアと私はそれぞれ客間を与えられている。
 私のドレスはレリチアと侍女のジニア、それにレリチアの女官となるべくついてきたリンダが決めた。
 リンダは私たちよりも3歳年上の、落ち着いた伯爵令嬢だ。結婚前にお相手に不幸があり、その後新しい婚約者も見つからないままだったところに女官の話があり、飛びついたそうだ。本が好きな、私と気の合いそうな人だった。


 謁見の間を出て、次は私の挨拶だ。トルゴードの方々がいらっしゃる客間を訪ねると、今日のジェンシャン様は、金属ではなく皮の仮面をつけていらっしゃった。

「ナスターシャ、今日のドレスもお似合いですよ。長旅で疲れていませんか」
「ありがとうございます、ジェンシャン様。お忙しい中お迎えに来ていただきまして、ありがとうございます」
「紹介します。父でトルゴード王国宰相、リンデン・ウィロウです。こちらはサクルド・グローリ公爵と、ナスターシャ嬢です」

 微笑んで頭を下げた。
 実は今回、ローズモス王国にいるうちは、大人しく黙っているようにとお義父様から指示が出ている。前回のやり取りは許容範囲を超えていたようだ。
 令嬢としてあるまじき発言だったことは認識しているし、ここではレリチアの評判まで落としてしまいかねないので、会話は全てお義父様に任せて、優雅に沈黙を守っている。
 ウィロウ公爵はお義父様よりも少し年上の、人当たりの良いとても優しそうな方だ。宰相職にある方が柔和な雰囲気であることに驚くが、きっと本性は綺麗に隠していらっしゃるのだろう。

 レリチアの披露パーティーまで何日かあるので、今日は挨拶だけでお話はまた今度ということで、私の顔合わせは終わった。
 明日からはジェンシャン様も話しかけていらっしゃるだろうから、しっかり猫を被らなければ。


 私に与えられた客間に戻ると、レリチアがソファに座っている。何か用事があるのかと思ったが、ただ少し話がしたいだけのようだ。
 謁見の間の前の廊下に飾ってあった絵画や装飾などローズモス王国の文化について、ボターニとの違いで話が盛り上がる。

「なんだか不思議ね。卒業からこの1年、いろいろあったけどあっという間だったわ」
「怒涛の1年でしたね」

 1年前は自分たちがボターニを離れるなど想像もしていなかった。ボターニの王宮に入り、王子殿下の外出に同行する以外では王宮から出ることもないと思っていた。

「ナスターシャ、貴女がいてくれて本当に良かったわ。ありがとう。お互い幸せになりましょう」
「レリチア、私も貴女に感謝しています」

 前世で恋人に裏切られ、信じられるものは自分で身に着けた知識と技術だけだと思っていた。他人など信じられないと思った。

 恋に破れたレリチアを見捨てなかったのは、優しさではなく同情だった。
 けれど、私の実家の爵位にしか興味のない、愛人がいる夫との肩身の狭い結婚生活が待っているはずだった未来から私を救い出してくれたのは、私のそんな行動をご覧になったお義父様の優しさだった。

 だから、少しだけ人を信じてみる努力をしよう。
 あのとき項垂れていたレリチアが笑顔で私の幸せを祈ってくれるから、私も少しだけジェンシャン様との幸せを掴む努力をしてみよう。


 悪役令嬢と私の婚約破棄騒動は、こうして幕を閉じた。
 これから始まるのは、新しい場所での新婚生活だ。甘い生活になるかどうかは、きっと私たちにかかっている。
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