悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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仮面騎士の甘くない新婚生活

2. 急募、甘い雰囲気の作り方

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 教会で結婚式を挙げ、ささやかな披露パーティーを終えた。

 結婚式と披露パーティーのドレスはナスターシャの姉であるレリチア様が用意されたそうで、とても品の良い、けれどナスターシャなら選ばないであろう華やかなものだった。これには、いつもナスターシャのドレスが地味すぎないかと零していた母も満足していた。
 ローズモス王国で、レリチア様の側妃としてのパーティーがあったために、ボターニからナスターシャの関係者は誰も出席していない。さすがにそれほど長くボターニを空けられなかったのだ。
 そのため、披露パーティーは公爵家にしてはとてもささやかなものになった。けれどその分、とても穏やかで温かいパーティーになった。

 披露パーティーが終われば、初夜である。

「念のため確認しておきたいんだけど、白い結婚を望んでいたりするかな?」
「旦那様のお望みのままに」

 私は次男なので、ナスターシャが望むなら、白い結婚でも家としては問題ない。
 婚約が決まってから、改まって話をする時間もあまりとれなかった。トルゴードについてからは、ナスターシャは養成学校の入試の準備で忙しく、入試が終わってからは結婚式の準備で慌ただしくしていた。
 だから今更の確認をしているのだが。

「閨の教育は受けているよね?」

 貴族の令嬢として教育は受けているとは思うが、ナスターシャに関しては不安になる。令嬢としての振る舞いは完ぺきなのに、なぜだろうか。

「全て旦那様にお任せするようにと」
「何をするか、分かってる、よね?」

 微笑を浮かべたナスターシャの型通りの返答が不安を煽る。ボターニの教育がどのようなものなのかが分からない。あの国はこの国に比べて女性の教育には積極的ではないから余計に。
 泣かれても困ると思って聞いのだが、聞いた私が愚かだった。

「……人体と生殖について、知っていることを全てお話しましょうか」
「いや。ごめん」

 相手はナスターシャだ。そうだ、医学書を読破していてもおかしくない人だ。頷いたら普通に講義が始まりそうだ。
 もしかしたら、レリチア様の子どもも自分で取り上げるつもりで勉強していたかもしれない。

 気を取り直して、若い女性の好みそうな甘い夜の演出をしようと思ったのだが。

「もしかして、初めてで緊張していらっしゃるのですか?」
「いや、えっと、その、こういうことを言うのはマナー違反になるけど、経験はあるよ?」
「……女性と?」

 そこから離れてくれないかな。その疑惑、否定したよね?納得してくれたんじゃなかったの?
 ナスターシャの、分かっていますから、みたいな視線が辛い。
 違うのに、否定すればするほど、ナスターシャの妄想が広がっていく気がする。どうして。

 というより、本来は年上の私がナスターシャを優しくリードして、っていう場面のはずだ。
 なんで、初心者の私が緊張で失敗しているのを、ナスターシャが優しく受け止めているような状況になっているのか分からない。
 ここからどうやって甘い雰囲気に持って行けばいいのか、誰か教えてほしい。切実に。



 私は、国中の魔物の討伐を任務とする第二騎士団に所属し、国中を移動することが多かったが、前団長の引退に伴って、第二騎士団団長に昇格した。というか押し付けられた。
 本当は現場にいたかったのだが、新婚なのに長く家を空けると浮気されるぞという先輩騎士の悲哀のこもった脅しに加え、宰相の息子なら予算をたくさんもらえるだろうという重鎮たちの圧力に負けた。父上は息子がいるからといって予算を増やすほど甘くないと思うのだが。
 団長になってみてわかったのは、団長とは名ばかりの雑用係だ。
 人員配置や物資補給の承認などはまだいいのだが、いろいろな領からくる討伐依頼の優先順位決め、討伐が遅れる場合の苦情への対応など、私の公爵家の肩書で相手を黙らせる場面もあった。重鎮たちの本当の狙いはこれだったのかもしれない。
 けれどとにかく雑務に追われて、新婚なのに家に帰れない。

 ナスターシャは官吏養成学校に入学した。
 新婚とはいえ、私が騎士団の仕事で忙しいので、ナスターシャも何かすることがあったほうがいいと母に言われ、そういうものかと賛成した。
 ナスターシャには、学校があると言えば茶会などの社交は免除されるほうが嬉しかったようだ。
 学校の内容は勉強しなくても全く問題がないようで、書庫に入り浸って本を読み漁っているそうだ。夜も休日もずっと本を読んでいるので、ついには母が、部屋に閉じこもっていては身体に良くないと、夜会に無理やり連れだすようになった。

 そんなある日、隣国クインス王国が聖女を召喚したという噂が飛び込んできた。

「クインス王国に潜伏している者によりますと、聖女様と共に乳母も召喚されたそうです」
「クインス王国からの正式発表はまだのようだが」
「お部屋に籠っていらっしゃるとの噂ですが、未確認です」

 魔物の討伐を担当する騎士団の代表として会議に参加しているが、まだ正確な情報は何も分からないようだ。
 過去の文献によると、クインス王国の浄化が終われば、聖女様がトルゴードに来てくださることもある。ただそれは両国の関係にもよるので、確実とは言えない。
 聖女様に来ていただければ瘴気が消えて魔物が少なると言われているので、可能であれば来ていただきたいが、政治の話になるので当てにもできない。
 第二騎士団のすることは今まで特に変わりない。決して聖女様を当てにせず、魔物の対応を粛々と進めるしかない。
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