悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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仮面騎士の甘くない新婚生活

3. 価値よりも珍しさを重視して

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 それからしばらくして、聖女召喚が成功したとクインス王国より正式に通達があり、聖女様がお披露目された。
 お披露目のパーティーには近隣諸国も招待されたが、招待状が届いてからお披露目までに時間がなく、出席できたのは、すでにクインス王国内にいた者たちだけだった。
 その出席した者の情報によると、聖女様は黒目黒髪の若い女性で、お披露目のパーティーの間壇上から動かず、お付きの乳母以外とはお話をされなかったらしい。

「現場には、聖女様の派遣は期待できないとそれとなく伝えてくれ」
「無理なのですか?」
「お披露目パーティーの間、クインス王国の王族とも話をされなかったそうだ」
「聖女様、クインス王国、どちらの意思なのでしょうか」
「分からんが、披露目でそういう状況なのだ。期待はしないほうがいいだろう」

 本来なら近隣諸国の王族の到着を待つくらいの余裕を持ってお披露目の招待状を送り、パーティーでは蜜月をアピールし、派遣の可能性を匂わせて諸国に無理難題を吹っかけてきてもおかしくない場面だ。
 クインス王国の外交があまり上手くないのか、聖女様との仲がそこまで良好でないのかは分からないが、派遣はないと思ったほうがいい。
 この国には聖女様の派遣がなくとも瘴気蔓延をなんとかやり過ごした実績があるのだ。その過去を教訓に対策したほうが現実的だ。

 魔物が増え、その対応の最前線にいる第二騎士団は多忙を極めている。
 最近では職場である王城に泊まり込むことも多く、これなら現場に出ていたほうがまだ遠征の合間に家に帰れたんじゃないかと騙された気もしている。
 なんとか仕事を終わらせて家に帰ると、早々に母に捕まった。

 私たちは現在公爵家の離れを使っている。弟夫婦は領地にいるので、今公爵家の屋敷に住んでいるのは、父と母、兄と義姉、そして私たちだ。
 独立して屋敷を持つ話もあったが、ナスターシャが学校に通っている間はひとまず離れを使うことになっている。
 ナスターシャはお任せしますと言ったが、本当にこだわりがないようで、どこでもよさそうだ。

「次の夜会にナスターシャを連れて行くので、ドレスと宝石を貴方から贈ってちょうだい。デザインは商会に伝えてあるから」
「分かりました」
「もうちょっと華やかなドレスを着てほしいのにどうしても嫌がるのよね。貴方からなら断れないでしょう」
「母上、あまりナスターシャの嫌がることは……」
「貴方だって見たいでしょう。レリチア様に遠慮してたのかもしれないけど、絶対に似合うわよ」

 確かに見たい。一回くらいは着てほしいと言えば着てくれるだろうか。
 久しぶりの離れに足を踏み入れると、ナスターシャが本を読んでいた。

「お帰りなさいませ。お出迎えできずに申し訳ございません」
「気にしなくていいよ。何を読んでいるの?」
「過去の瘴気が蔓延した時の記録です」
「もしかして官吏になって調べたいことと言うのはそれ?」
「はい」

 この国はずっと瘴気の増減に振り回されている。その瘴気はなぜ蔓延するのか、対策はないのかを、私と婚約が決まってボターニにあるトルゴードの記録に目を通した時に疑問に思ったらしい。
 ただ、過去の瘴気に関する詳しい資料は魔物の大量発生に伴う国の衰退に関わるということもあって、ごく一部の人間しか目にできない。
 それで、ゆくゆくは王城にある資料を見るために、官吏養成学校に入学したそうだ。
 ナスターシャは研究者に向いているのかもしれないな。

「ところで、今度ドレスを贈るから、着てほしい」
「……旦那様も一緒に夜会に出てくださるなら」

 驚いた。もうちょっと渋られるかと思ったが、母が口を出したドレスだと分かっているのにあっさりと承諾するとは。

「どうしたの?何かあった?」
「学校で、貴女は留学に来たのねと言われましたので、アピールも必要かと思いました」

 留学は、まあ半分くらい事実だと思う。ナスターシャのお父上であるボターニのグローリ公爵も、ナスターシャの能力を活かすために私との婚約を進めたのだし。
 でも確かに結婚式後、夜会のたぐいに揃って出席したことはない。母が時々ナスターシャを連れて出ているが、夜会は基本夫婦で出るのが基本だ。私が第二騎士団にいることからある程度は仕方がないと思われているだろうが、あまりにひとりでの参加が続くと私たちの不仲説が流れてもおかしくはないだろう。
 母が可愛がっているから、社交界でのナスターシャの立場は問題ないだろうが、新婚なのに夫と不仲だと思われるのは可哀そうだ。

「確約はできないけど、調整してみるよ」
「ご無理はなさらないでください」
「ごめんね。なかなか会えなくて寂しい思いをさせているから、プレゼントに髪飾りを用意したんだ。気に入ってくれると嬉しいな」

 甘い新婚生活が過ごせないのに文句も言わず、仕事仲間のような間柄になっていると感じることもあるが、ナスターシャはまだ19歳だ。
 会えない恋人に贈るプレゼントとしては一般的な、誠実や一途という意味があるサファイアをあしらった髪飾りを用意した。
 正直ナスターシャが宝石で喜ぶとは思えないのだが、本以外で何に喜ぶのか分からなかったのだ。

 けれど、ナスターシャがこちらの想像の上を行くところは、ある意味予想通りだった。
 髪飾りを持ち、いろいろな角度から見ている。

「何か気になることがある?」
「こんなに綺麗なアステリズム効果が出ているものは初めて見ました」
「アステリズム?」
「針状の含有物によって、星のように線が現れる現象です」
「へえ。貴重なのかな?」
「どうでしょう。サファイアはダイヤモンドに次いで硬いはずですが、鉱物にはあまり詳しくありませんので」

 鉱物。宝石ではなく鉱物。間違ってはいない。
 ナスターシャは宝石の美しさよりも鉱物としての性質に興味があるようだ。

 後ろに控えているナスターシャの侍女であるジニアのため息が聞こえた。
 ナスターシャはハッとして姿勢を正し、綺麗な微笑を浮かべてお礼を言ってくれるが、このいかにも取って付けた取り繕い方にも慣れた。
 でもそんな作り笑いよりも、本当に興味があると分かる表情で石を覗き込んでいるほうが可愛かったと思うのは、私が新婚で浮かれているからかな。

 だいぶ分かってきたが、ナスターシャは興味あることに気を取られると、令嬢としての振る舞いを忘れてしまう。
 今回はそれだけサファイアに興味をひかれたということだろう。
 どんな理由であれ、気に入ってくれてよかった。
 今度からは宝石的な価値は高くなくても珍しいものを選ぶことにしよう。
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