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仮面騎士の甘くない新婚生活
4. それはあまりに突飛で
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「もし召喚された聖女についてご存じでしたら、可能な範囲で教えていただけますか?」
「興味があるの?」
「はい、とても。なぜ聖女は瘴気を消すことが出来るのか、それが分かれば瘴気の対応方法が分かります」
なるほど。聖女様ご本人にではなく、聖女様の成されることに興味があるのか。
私が知ることは、ナスターシャに知らせても問題ないだろう。ナスターシャならその情報を漏らすこともない。
ナスターシャは注意深く私の話を聞いていたが、特に質問などもなくその話はそこで終わった。
終わったと思っていた。
ナスターシャと夜会に出る約束をしたので、騎士団にその日の夜は必ず帰ると宣言した。
部下の協力もあってなんとか仕事を切り上げて家に帰ってみると、私の贈った華やかなドレスを身に着けたナスターシャが待っていた。
「可愛いよ。やっぱりこういう華やかなもののほうが似合うよ」
「ありがとうございます」
「好きじゃないかもしれないけど、時々私のために着てほしいな」
完璧な微笑を浮かべているので、本当は嫌だが妻の義務として応じようと考えているのだろう。
もしかしてお世辞だと思っているのか。
ナスターシャが嫌にならない頻度でお願いしてみよう。
私もナスターシャのドレスに合わせた盛装に身を包み、ふたりで本館へ行くと、すでに準備を終えた父と母、兄と義姉が待っていた。
「お待たせいたしました」
「やっぱりナスターシャはこういう華やかなものも似合うわね」
「そうですね。ナスターシャさんは何を着ても似合いますからね」
「お義母様、お義姉様、ありがとうございます」
母だけでなく、義姉にも褒められて、はにかんでいる。
馬車に乗り込んでから、そっと質問してきた。本当に似合っているのかと。
もしかして、ボターニで華やかなドレスにあまりいい印象を持てないことがあったのだろうか。こんなに可愛いのに。
「本当に似合っているよ。私は、まあ新妻への贔屓目があるかもしれないけど、母上と義姉上の目は確かだよ」
「贔屓目ですか」
「どんなドレスでも、私にはナスターシャが一番可愛く見えるよ」
こんなことを言うなんて、私もだいぶ浮かれているようだ。
けれどナスターシャはそんな私をじっと見た後、夜会になるとスイッチが入るのかしら、と呟いた。おそらく口に出ていることに本人は気づいていない。
ナスターシャの中で私はいったいどういう人物になっているんだろうか。
夜会では、ふたり揃って現れたことに驚きの声が上がっているのが聞こえる。
「ようこそおいでくださいました。おふたりがお揃いでいらっしゃるとは、今日の参加者は幸運ですね」
「ヒュベル侯爵、お招きありがとうございます」
ナスターシャは私の横で微笑を浮かべ、相手の話に相槌を打ち、時々控えめに発言して、理想的な新妻として振る舞っている。
そのナスターシャを見て、いいご夫人で羨ましいですねと社交辞令で言われるが、本当にそう思う。優秀で、令嬢としての振る舞いも完ぺき。ちょっと変わっているくらいは許容範囲だ。
夜会ではふたりの仲の良さをアピールするように多くの人と話し、ナスターシャと踊り、仕事とは違う疲労感に包まれながらも、可愛いナスターシャを見て満足した気分で帰りの馬車に乗り込んだ。
「今日は、私の希望のドレスを着てくれてありがとう。とても可愛かったよ」
「ありがとうございます。あの、私も1つお願いがあります」
「何かな?」
「クインス王国に行きたいのですが」
あまりにも脈略なく、突然で驚いた。
最初のおねだりが、いきなり国外への旅とは。それも、聖女様に会いに行きたいのだという。
そう言うが行っても会える訳ではない。それでもどうしても行きたい、遠くから眺めるだけでも行きたいのだと言う。
何か理由がありそうだが、それについては言う気がないようだ。
私だけでは決められないので、父と兄とも相談し、公爵家の護衛をつけることを条件に許可した。
本来はこのようなことはあり得ないのだが、ナスターシャの初めての要望であり、正直ダメだと言うと一人で行ってしまいそうな感じがしたから、それなら許可して護衛をつけたほうがいい。
普通の令嬢ならあり得ないが、ナスターシャなら気付いたらひとりで旅に出ていたということが起きそうな気がする。
「カクタス、悪いがナスターシャと一緒に行ってくれるか」
「ナスターシャ様おひとりでよろしいのですか?」
「私も行きたいが無理だ。信頼して任せられるのがお前しかいない。それに上手く言えないが、行かせたほうがいい気がするんだ」
私の勘がそう告げている。
魔物の討伐をしている時にふとこっちに行かないほうがいいなどと感じるときがあるが、そういう勘には逆らわないほうがいいと経験上知っている。
クインス王国の王都までは馬車で片道10日ほどかかる。
侍女のジニアと一緒に裕福な庶民の旅行という体で、旅人に扮した護衛も大量につけて、送り出した。
そして、気を揉んで帰りを待っていた私のところに無事に帰ってきたナスターシャは、思わぬ土産を持ち帰っていた。
「お帰り。無事でよかった」
「ご心配をおかけして申し訳ございません」
「それで、どうだった?」
「聖女様の乳母と言われている方と、王都の宿で会いました。この家の名前は出していませんが、何かあれば頼ってほしいとこの家の紋章の入ったハンカチを渡しました。もしターシャを訪ねてマーサかリーザという女性がいらっしゃったら、私に繋いでください」
「は?」
ちょっと待て。今何と言った?
聖女様の乳母と接触した?聖女様の乳母は王城にいるんじゃないのか?
ナスターシャの無事な姿を見たら、騎士団に戻る予定でいたが、それどころではない。
いや、これは父と兄も交えて聞いたほうがいい話だ。とりあえず一度騎士団に戻って、夜に揃って話を聞こう。
「興味があるの?」
「はい、とても。なぜ聖女は瘴気を消すことが出来るのか、それが分かれば瘴気の対応方法が分かります」
なるほど。聖女様ご本人にではなく、聖女様の成されることに興味があるのか。
私が知ることは、ナスターシャに知らせても問題ないだろう。ナスターシャならその情報を漏らすこともない。
ナスターシャは注意深く私の話を聞いていたが、特に質問などもなくその話はそこで終わった。
終わったと思っていた。
ナスターシャと夜会に出る約束をしたので、騎士団にその日の夜は必ず帰ると宣言した。
部下の協力もあってなんとか仕事を切り上げて家に帰ってみると、私の贈った華やかなドレスを身に着けたナスターシャが待っていた。
「可愛いよ。やっぱりこういう華やかなもののほうが似合うよ」
「ありがとうございます」
「好きじゃないかもしれないけど、時々私のために着てほしいな」
完璧な微笑を浮かべているので、本当は嫌だが妻の義務として応じようと考えているのだろう。
もしかしてお世辞だと思っているのか。
ナスターシャが嫌にならない頻度でお願いしてみよう。
私もナスターシャのドレスに合わせた盛装に身を包み、ふたりで本館へ行くと、すでに準備を終えた父と母、兄と義姉が待っていた。
「お待たせいたしました」
「やっぱりナスターシャはこういう華やかなものも似合うわね」
「そうですね。ナスターシャさんは何を着ても似合いますからね」
「お義母様、お義姉様、ありがとうございます」
母だけでなく、義姉にも褒められて、はにかんでいる。
馬車に乗り込んでから、そっと質問してきた。本当に似合っているのかと。
もしかして、ボターニで華やかなドレスにあまりいい印象を持てないことがあったのだろうか。こんなに可愛いのに。
「本当に似合っているよ。私は、まあ新妻への贔屓目があるかもしれないけど、母上と義姉上の目は確かだよ」
「贔屓目ですか」
「どんなドレスでも、私にはナスターシャが一番可愛く見えるよ」
こんなことを言うなんて、私もだいぶ浮かれているようだ。
けれどナスターシャはそんな私をじっと見た後、夜会になるとスイッチが入るのかしら、と呟いた。おそらく口に出ていることに本人は気づいていない。
ナスターシャの中で私はいったいどういう人物になっているんだろうか。
夜会では、ふたり揃って現れたことに驚きの声が上がっているのが聞こえる。
「ようこそおいでくださいました。おふたりがお揃いでいらっしゃるとは、今日の参加者は幸運ですね」
「ヒュベル侯爵、お招きありがとうございます」
ナスターシャは私の横で微笑を浮かべ、相手の話に相槌を打ち、時々控えめに発言して、理想的な新妻として振る舞っている。
そのナスターシャを見て、いいご夫人で羨ましいですねと社交辞令で言われるが、本当にそう思う。優秀で、令嬢としての振る舞いも完ぺき。ちょっと変わっているくらいは許容範囲だ。
夜会ではふたりの仲の良さをアピールするように多くの人と話し、ナスターシャと踊り、仕事とは違う疲労感に包まれながらも、可愛いナスターシャを見て満足した気分で帰りの馬車に乗り込んだ。
「今日は、私の希望のドレスを着てくれてありがとう。とても可愛かったよ」
「ありがとうございます。あの、私も1つお願いがあります」
「何かな?」
「クインス王国に行きたいのですが」
あまりにも脈略なく、突然で驚いた。
最初のおねだりが、いきなり国外への旅とは。それも、聖女様に会いに行きたいのだという。
そう言うが行っても会える訳ではない。それでもどうしても行きたい、遠くから眺めるだけでも行きたいのだと言う。
何か理由がありそうだが、それについては言う気がないようだ。
私だけでは決められないので、父と兄とも相談し、公爵家の護衛をつけることを条件に許可した。
本来はこのようなことはあり得ないのだが、ナスターシャの初めての要望であり、正直ダメだと言うと一人で行ってしまいそうな感じがしたから、それなら許可して護衛をつけたほうがいい。
普通の令嬢ならあり得ないが、ナスターシャなら気付いたらひとりで旅に出ていたということが起きそうな気がする。
「カクタス、悪いがナスターシャと一緒に行ってくれるか」
「ナスターシャ様おひとりでよろしいのですか?」
「私も行きたいが無理だ。信頼して任せられるのがお前しかいない。それに上手く言えないが、行かせたほうがいい気がするんだ」
私の勘がそう告げている。
魔物の討伐をしている時にふとこっちに行かないほうがいいなどと感じるときがあるが、そういう勘には逆らわないほうがいいと経験上知っている。
クインス王国の王都までは馬車で片道10日ほどかかる。
侍女のジニアと一緒に裕福な庶民の旅行という体で、旅人に扮した護衛も大量につけて、送り出した。
そして、気を揉んで帰りを待っていた私のところに無事に帰ってきたナスターシャは、思わぬ土産を持ち帰っていた。
「お帰り。無事でよかった」
「ご心配をおかけして申し訳ございません」
「それで、どうだった?」
「聖女様の乳母と言われている方と、王都の宿で会いました。この家の名前は出していませんが、何かあれば頼ってほしいとこの家の紋章の入ったハンカチを渡しました。もしターシャを訪ねてマーサかリーザという女性がいらっしゃったら、私に繋いでください」
「は?」
ちょっと待て。今何と言った?
聖女様の乳母と接触した?聖女様の乳母は王城にいるんじゃないのか?
ナスターシャの無事な姿を見たら、騎士団に戻る予定でいたが、それどころではない。
いや、これは父と兄も交えて聞いたほうがいい話だ。とりあえず一度騎士団に戻って、夜に揃って話を聞こう。
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