悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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仮面騎士と私の新婚生活

3. 私の嫁姑問題

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「ナスターシャさん、そんなに緊張しないで」
「はい」
「まずは呼び方からね。ターシャと呼んでもいいかしら? うちは男ばかりだったから、娘が増えてうれしいの」
「もちろんです」

 他になんと答えられるというのか。精神的には同年代だと感じているので、「優秀な息子さんでうらやましいです」とよいしょしたいところだが、この場合の模範解答でないことは分かっている。
 向かいにジニアと公爵夫人のお付きの人がいるものの、こういうとき使用人はただの置物と同じ風景になるのが基本だ。助けは求められないし、逆に変なことを言えば、使用人の間で噂が広がってしまう。

「ターシャは乗馬に興味があるのね。お外に出るのがお好きなの?」
「いいえ、馬の美しさに魅せられました」

 とても賢い動物だと聞いているから、できることなら仲良くなりたい。乗せてくれれば、さらに嬉しい。
 そして私は、インドア派だ。自然は好きだが、外出が好きかと言われると、肯定はできない。

「他にやりたいことはあるかしら? ボターニよりは、自由に挑戦できると思うの」
「お気遣いありがとうございます。いまはトルゴードに慣れることを優先したいと思っています」
「そう」

 私が何に興味があるのか、さり気なく聞き出そうとしている。私が心地よく過ごせるようにと気を遣われているのが分かって、何か一つくらいは具体案を出さなければと思うものの、いい答えが見つからない。
 公爵夫人はしばらく考えてから、思わぬ提案をくれた。

「ターシャ、薬師になれるくらい、とても優秀だと聞いているわ。だったら、薬師養成学校に通ってはどうかしら?」
「養成学校ですか?」
「薬師として活動するなら、養成学校を卒業するほうがいいわ。この国には、官吏、医師、薬師、騎士の養成学校があるの。ジェンシャンは騎士養成学校出身で、他はみんな官吏養成学校出身よ」

 貴族の女性であっても、学校を出て仕事をする。私の感覚では前世の大学に近いのだろう。

「ジェンシャン様のお兄様が、領の運営を手伝ってほしいとおっしゃっていたと聞きましたが、それですと官吏養成学校でしょうか?」
「そうね。だけどターシャ、貴女がしたいことをしていいのよ」

 そう言われても、どう振る舞うのが最適なのかが分からない。
 できることなら、どちらかの養成学校を卒業して、例え公爵家を追い出されてもトルゴードで生きていけるだけの知識と技術を身につけたい。そう考えると、薬師だろうか。
 けれど、追い出されないように公爵家に貢献しておくことを優先するなら、官吏一択だ。

「今決める必要はないわ。私たちが王都について少しで、今年の入学試験があるの。だから受けるのは来年よ」
「そうですか」
「だけど、どうせなら今年、両方受けてみたらどうかしら? 雰囲気が分かるでしょう」

 記念受験か。たしかに、その二つだと試験の傾向も、受験生の顔ぶれも、大きく異なるだろうから、受けてみるのはよさそうだ。
 受験資格は十六歳から二十歳になるまでという年齢だけだ。私は今年十八歳なので、一年間しっかり勉強をして、来年合格を目指すことになる。
 私にとっての朗報は、養成学校の入試勉強中の場合、夜会やお茶会への出席が免除されるということだ。それくらいしっかり勉強しないと合格できないそうだが、勉強は嫌いではない。むしろお茶会に出るくらいなら、勉強していたい。
 私が乗り気になったのを感じ取った公爵夫人が、くすくすと笑っている。

「本当にお勉強が好きなのね」
「新しいことを知るのは楽しいですから」

 せっかくファンタジーの世界にいるのだから、前の世界にはなかった事象がどういう法則で成り立っているのか解明したい。この世界のすべてのものに、知識欲を刺激されるのだ。

「ところで、ジェンシャンとの結婚式に、何か希望はあるのかしら?」
「特にありません」
「ドレスはレリチア様よりすでに預かっているのだけれど、好きなお花とか、飾り付けはどんなものがいいかしら? 何もなければ、私が決めても構わなくて?」
「よろしくお願いいたします」

 レリチアは、私の結婚式のドレスを自分が見立てたいと言っていたが、まさか公爵夫人に渡していたとは。いったいいつから準備したのだろうか。どうせ私にはよく分からないので、場にふさわしいものが用意されているのはありがたい。
 そもそも、いくつか並んだドレスの中から好みのものを選ぶように言われれば選べるが、何もないところから好きなデザインを考えろと言われても自由度が高すぎて無理だ。人には向き不向きがあるのだから、そういうのはセンスのある人にお願いしたい。レリチアと公爵夫人はそういうことが苦ではないようなので、お任せしよう。

 その日の夕方、宿の部屋で休んでいると、ジェンシャン様がいらっしゃった。

「本当に結婚式に希望はないの? 言わないと、母上が好きに進めてしまうけど」
「はい。公爵家の結婚式としてふさわしいものをご準備いただけると嬉しいです」

 女性が誰でも結婚式に夢を見ていると思わないでほしい。大多数がそうであっても、外れ値の人間もいるのだ。ドレスにしろ何にしろ、私が望むのは機能的であることだけだ。けれど、結婚式など機能性よりも見た目や釣り合いが重視される最たる場面だろう。ならば望むことなど、何もない。

「養成学校のことも、聞いたよ。母上が勝手に話を進めているけど、大丈夫? 受けなくてもいいんだよ?」
「会場の雰囲気を見るだけでも、来年に活かすことができます」

 ジェンシャン様が心配してくださっているが、少しでも私が嫌がれば公爵夫人は無理強いはしない。これは私の希望だ。たとえ、お茶会や夜会に出たくないというのが一番の理由であっても。
 官吏の試験対策ともなれば、トルゴードの歴史や政治を系統立てて学ぶことができる。薬師に関しても、ボターニとは違う薬や製薬方法があるかもしれない。私にとっては楽しみしかないことだ。
 ジェンシャン様は勉強があまり得意ではないようで、そんな私を珍獣を見るような目で見ている。

「毎日剣の鍛錬をしていらっしゃるのと、同じですよ」
「貴女にとっての勉強は、騎士にとっての鍛錬か」
「はい」

 鍛えるのが筋肉か脳か、それだけの違いだ。
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感想 64

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みんなの感想(64件)

黒猫
2024.12.31 黒猫

待ってました😭
ありがとうございますぅぅぅ‼️

2024.12.31 戌葉

長らくお待たせいたしました!
頑張りますっっっ!!

解除
947
2024.12.31 947

更新ありがとうございます!!
待った甲斐がありました!

良いお年をお迎えください

2024.12.31 戌葉

大変お待たせしてしましました。喜んでいただけて、執筆の励みになります。
来年も頑張りますので、応援いただけるととても嬉しいです。

どうぞよいお年をお迎えくださいませ。

解除
夜桜
2024.12.31 夜桜

年末でお忙しい中更新お疲れ様です。
ただ、続きかと思ったのですが何やら話しが巻き戻っているのですが(^_^;)

2024.12.31 戌葉

楽しみにしていただきありがとうございます。なんとか年内には間に合いました……。
書き散らかしていたものをまとめて、時間を進めていきます!

解除

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