悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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仮面騎士と私の新婚生活

2. 私の希望と興味

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「ところで、今後何かやりたいことはある?」
「何でもよろしいのですか?」
「構わないよ。ただ、国を転覆させるようなことはやめてくれると嬉しい」
「そのような面倒なことは致しません」

 国を転覆させて、その後どうするというのだ。だいたいああいうのは、転覆させるまでが楽しいのであって、その後の統治など面倒ごとばかりだろう。状態を変えるよりも、状態を維持するほうが難しい。国など、ありとあらゆる反応促進剤がある中で、状態を保ち続けるようなものだろう。安定状態などあり得ない。
 それよりも、やりたいことか。

「もし可能なら、馬に乗りたいです」
「母上は乗馬がお得意だから、習うといいよ」
「ありがとうございます」

 乗馬には前世から憧れがある。馬術競技の人馬一体となった動きは本当に綺麗だった。トルゴードは女性でも仕事をするのだから、乗馬をする機会もありそうだと思ったが、公爵夫人も乗馬を楽しまれるとは思わなかった。しばらくは、ボターニとの違いに戸惑いそうだ。

「他にはないの? 官吏になりたいとか、薬師になりたいとか」
「ボターニ出身の私が官吏ですか?」
「条件はあるけど、他国出身の人間でも可能だよ。貴女は公爵家の一員になるのだから、問題ない」

 国の中枢にかかわる官吏にまで他国出身者を登用するとは、かつての人材不足は相当深刻だったのだろう。瘴気の蔓延で魔物が増えて、犠牲者が多数出たと歴史書には書いてあった。
 瘴気とはなんなのだろう。まだ感染症の流行で人口が減ったと言われるほうが納得できる。実際に、かつて中世ヨーロッパで流行したペストは、人工を減少させ、封建制度の崩壊を引き起こしたと言われていたはずだ。

「現在瘴気が増えている影響で魔物も増えていると聞いていますが、ジェンシャン様は討伐に向かわれることがありますか?」
「最近はないよ。騎士団長になって、書類仕事が多くてね」
「そうですか。魔物の増加は感じますか?」
「それはだいぶ前から感じているよ」

 現場に実感があるということは、かなり増えているのだろう。少しだけ増えたのなら、もしかしてと感じはしても断言はできないはずだ。

「瘴気は見えるのですか?」
「見えない。ナスターシャ嬢、心配しなくても、王都も公爵領も北の森から離れているので、影響はないよ」
「それは心配していません」

 瘴気や魔物についてあれこれ聞いていたら、私が不安に思っているのだと取られてしまった。魔物のあまり出ないボターニから来たから、余計にそう思われるのだろう。
 けれど、そうではないのだ。瘴気とは何なのか、それが知りたいだけなのだ。せっかく現場に出ている人間と話せるのだから、もっといろいろと質問したいが、誤解されそうなので、今後この話題を出すのは慎重になろう。


 移動中の宿は、ジェンシャン様とは別室だ。いちおうまだ結婚前と言うことで、気を遣ってもらっているらしい。
 ジニアの入れたお茶を飲みながら、窓の外を眺める。

「ナスターシャ様、お疲れになりましたか?」
「大丈夫よ。ジニアはどう? 公爵家の方々とはうまくやっていけそう?」
「はい。私にも気を遣っていただいています」

 ボターニから来たのは、ジニアと私だけだ。お義父様があと数人使用人をつけようかとおっしゃってくださったが、断った。トルゴードは遠すぎる。往復で一か月もかかりそうな距離への転勤は、さすがにお願いできない。

「ついてきてくれてありがとう」
「もったいないお言葉です。女性が活躍していると聞くトルゴードなら、楽しそうだなと思ったんです」

 ジニアも何かやりたいことがあるなら挑戦してほしい。ボターニにいるよりは、自由が利きそうだ。

 夕食は、公爵夫妻の部屋でいただく。馬車よりは少しおしゃれなドレスに着替えて、部屋へと向かうと、すでに三人ともそろっていらっしゃった。

「遅れまして、申し訳ございません」
「やることのないジェンシャンが早く来ただけよ。どうせなら迎えに行けばいいのに、気が利かなくてごめんなさいね」

 こういうときの模範解答は、何になるのだろうか。とりあえず、笑ってごまかそう。
 公爵夫人は、裏があるのではないかと疑いたくなるくらいに、友好的だ。私がそのことで警戒しているのを感じていらっしゃるのか、決して無理に距離を詰めず、けれど包容力を感じさせる穏やかな笑顔で接してくださる。

「母上、ナスターシャ嬢は、乗馬がしてみたいそうですよ」
「まあ。でしたら、乗馬服を用意させましょう。うちに気の優しい馬がいますから、きっと楽しめますよ」
「ありがとうございます」

 ジェンシャン様は、しゃべらない作戦続行中の私に、何かと話をふってくる。早く打ち解けられるように気を遣われているのだと思うが、放置しておいてくれるとありがたい。

「ナスターシャさん、明日は私と一緒の馬車に乗りませんこと?」
「母上」
「ジェンシャン、心が狭い男は嫌われますよ。乗馬のお話もしたいですし、いいでしょう?」
「よろしくお願いいたします」

 できることなら、ジェンシャン様と一緒がいい。公爵夫人と二人だけの馬車で、しゃべらないという作戦はとれない。けれど、断ることもできない。
 トルゴードに到着する前に、未来の姑から変わり者の烙印を押される覚悟を決めるしかなさそうだ。




(予約投稿の日付が、2026年になっていました……。申し訳ございません)
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