巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
6 / 89
1章 召喚編

6. 家族写真

しおりを挟む
 スマホの家族写真を見て理沙ちゃんが泣いてしまった日から、私たちの扱いが少し変わった。
 それまではあれこれ要求する私を煙たがっている雰囲気が少しあったのに、あの後からなんとか私たちの機嫌を損ねないようにしているように感じる。
 理沙ちゃんの協力を諦めて、再度召喚することはおそらく無理なのだ。
 そして、召喚して申し訳ないと口では言っていたものの、それがどれほど理沙ちゃんにとって辛いことなのかを、やっと少し感じたのだ。
 今更だ。最初からずっと言っているのに、本当に今更だ。

 模写の初日は、おおざっぱに構図と人物の輪郭などを描いて終わった。
 そして翌日の模写の時間、宰相と画家の他に、もう1人一緒にいた。画家の絵を見せてもらった時に、この2枚のうちのどちらか、と言ったもう片方の画家で、時間がないので2人で作業させたいということだった。言いふらさないのであれば、そのほうがいい。最初からそうすればよかった気もする。

 何日か作業して、全体がだいたい出来上がり、顔を拡大して色を着けていたとき、ついに理沙ちゃんのスマホの電池が切れた。
 私のモバイルバッテリーも終わってしまった。

「あっ、そんな、いやぁーっ」
「大丈夫よ、ちゃんと絵ができるから」

 泣き続ける理沙ちゃんに画家の2人が戸惑っているので、作業を続けるようにお願いして、理沙ちゃんを寝室のベッドに寝かせたけど、スマホを抱きしめて泣いている。
 今はどんな言葉も慰めにならない気がして、ただそっと背中を撫でることしかできない。

 画家は、原画がない以上ここでやっても仕方がないので、王城内のアトリエに移動して仕上げるそうだ。理沙ちゃんの様子から、あまりこの部屋にいないほうがいいと判断したのだろう。

「その前に絵をもう一つお願いしたいのですが。色は着けなくて、顔だけでいいので」

 そう言って、私のスマホを見せた。祐也と美弥さんの結婚式の時に3人でとった写真だ。電源を切っていたので、あと少しだが電池がある。
 2人でそれぞれ祐也と美弥さんの顔を写して、ざっと描き終わったところで、私のスマホの電池も切れた。

 覚悟していても、やはり辛い。
 例え圏外でも、いつか電話が来るのではないか、メールが送れるのではないか、そのわずかな希望も消えてしまったのだ。
 理沙ちゃんが泣き崩れるのも仕方がない。

「あの……」
「すみません。私のものは後回しでいいので、お嬢様の絵を先に仕上げてください」
「はい、急いで仕上げます」

 痛ましいものを見るような顔で、けれど決意を滲ませて宣言されたので、ちゃんと仕上げてくれるだろう。


 5日後、絵ができたと画家2人が部屋に来た。
 持ってきたのは、ここで描いていた大きさの絵だけでなく、小さなスマホサイズのものもあった。

「こちらが、聖女様のご家族の肖像画です。持ち運びができるように、小さいものも作製しました」
「写真みたい……」

 理沙ちゃんは涙目で、小さな絵を抱きしめている。
 これからも家族を思って泣くことはあるのだろう。けれどその時に、電源の入らないスマホではなく、この絵がきっと彼女を支えてくれる。

「それから、こちらがマサコ殿の絵です」
「政子さん、これ」
「息子の結婚式の時の写真を描いてもらったの。電池がなくて顔だけお願いしたんだけど、仕上げてくれたみたい」
「これってタキシードと着物ですよね?素敵ですね」

 祐也のタキシードは色合いそのままにおそらくこちらの正装に、私の留袖はウエストにゴールドの切り替えが入ってる黒の細身のドレスとして描かれていた。ウェディングドレスは真っ白のドレスなので、ほぼそのままだ。
 時間がない中、なんとなくの形と色合いを把握して、こちらの衣装に置き換えて描いてくれていた。

「理沙ちゃんのご家族も、こちらの服で描いてもらう?」
「うーん、いいです。これがあるので」

 小さな絵が本当に気に入ったようで、大切に胸に抱いている。よかった。
 画家の2人も、泣き崩れたのを見ているからか、その様子に安堵していた。


 ふたりだけになって、理沙ちゃんが息子さんはどんな人ですか?と尋ねてきた。理沙ちゃんが家族の話をするのは初めてだ。

「祐也が小さいときに夫が病気で亡くなって、それから何とかひとりで育ててきたの。不器用で心配だったんだけど、この美弥さんっていうしっかりしたお嬢さんと結婚することになったの。それで私は新婚の邪魔にならないよう、家を出て小さなお部屋を借りて一人暮らしを始めたところだったのよ」

 理沙ちゃんはうんうん、と聞いてくれている。

「子育ても終わったし、せっかくだから新しいことに挑戦しようと思って、何がいいかなって考えていたら、異世界に来ちゃったの。でも異世界生活ってすごく新しいことに挑戦している感じがするわよね」
「ふふっ、確かに新しいことですね」

 理沙ちゃんが笑って、自分の事も話し始めた。

「私は姉と2人姉妹で、来年受験で、でもやりたいことも特になくて、どこの大学のどの学科を志望するかも決められなくて……。それで明日テスト嫌だなって思ってたんです。お母さんたち、心配してるかな……」
「周りに人がいたから、きっと何が起きたか知らせてくれているはずよ。まあ信じてもらえるかは分からないけど」
「ですよね。異世界なんて、小説の中だけだと思っていたのに」

 事実は小説よりも奇なり。まさか自分の身に降りかかろうとは思わなかった。

「政子さん」

 呼びかけられて顔を向けると、理沙ちゃんは今までとは違って、真っすぐと顔をあげて、私を見つめていた。

「私、聖女の仕事、やってみようと思います。これからも、そばにいてくれますか?」
「もちろんよ」

 それは、この世界に来て初めて、理沙ちゃんがこの世界と向き合った瞬間だった。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...