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2.5章 護衛騎士の理不尽な日々
3. 魔物
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聖女様が浄化の旅から戻られるので、マサコさんと一緒に王城に戻ってきている。
王城に入ったらもう護衛は必要ないので離れようとしたら、ちょっと待ってと言われ、そばに控えている。周りの護衛たちが同情の目で見ているのが分かる。
聖女様は馬車から降りられると、一目散にマサコさんに駆け寄り飛びつかれた。
マサコさんも怪我はなかったか心配しながら、よく頑張ったと聖女様を褒めている。これだけ仲が良いのに、なぜそばを離れるのか。
後で聞いたら、旅について行くのは辛いお年頃なのよ、と言われてしまった。
「そうそう、紹介しておくわ。私の護衛のレイ君」
「レイさん、お母さんの事お願いしますね」
「命に代えましても」
俺の名前はフレイグランなのだが、きっとマサコさんは覚えていないのだろうな。まあいいが。
王城でもそばにいるよう言われたのは、聖女様に紹介するためだったらしい。もういいわよ、ゆっくり休んでね、と解放された。
マサコさんは、何かしらこういう一言をかけてくれる。それはこの世界の貴人ではあり得ないことだ。
「お前、聖女様に声かけられていいな」
「でもだからって、あのおばさんの護衛はしたくないわ」
俺がマサコさんに付き合わされて冒険者の依頼に行っていることにも同情されている。まあ確かに護衛騎士の仕事ではないが、貴族の道楽だと思えば、とんでもない我儘を言わない分まだ楽だ。
聖女様がまた浄化の旅に出られたので、マサコさんも城を出る。
「レイ君、宿なんだけど、もうちょっと普通の宿に代えられない?」
「今の宿が不満ですか?」
「そうじゃなくて、普通の宿に泊まってみたいの。冒険者の格好で出入りしても驚かれないような宿に」
そんな宿、警備上の問題がありすぎて無理だが、マサコさんの希望はすべて叶えるようにと言われている。
「旅の商人が泊まるような宿でいいですか」
「冒険者の宿はやっぱり無理?」
「無理ですね」
「じゃあそこでいいわ」
理由を告げて代案を提示すれば、理解してくれるというのが、最近分かってきた。頭ごなしにこちらの言い分を否定したりはしない。
王城にいるときは思い通りにならないことは全て突っぱねているように思っていたが、そうではなくて歩み寄るつもりはあるのだろう。ただ、彼女たちにとって譲れないことが、我々にとっても譲れないことだっただけで。
我々が普通だからと押し付けていることが、彼女にとって、聖女様にとっては普通ではないのだ。
「同じような別の宿に移りたいわ」
「この宿はお気に召しませんでしたか?」
「あれ、言ってなかったっけ。偵察よ。商売を始めたくて、宿はどうかなって」
「冒険者は……」
「冒険者なんて肉体労働、この歳でいつまでも続けられるわけないでしょう」
それは最初に言ったはずなんだが。なんで今更俺が考えなしのように言われているのか。理不尽だ。
けれど、このまま冒険者を続けても薬草採取では稼げないし、危険もゼロではない。城壁内で商売を始めてくれるほうが、護衛としてもありがたい。
午前中は薬草採取をして、午後は市場や近くの店で同年代のご婦人と立ち話をする。聞くと情報収集らしいので、彼女の後ろに立って、聞くとはなしに話を聞いている。
最近では俺に慣れたご婦人たちが、俺も話に巻き込もうとするが、一応仕事中なのでご遠慮願いたい。
そんなある日、実家から呼び出された。これでも貴族の子息なので、何かと用事がある。マサコさんもだいぶ城下での生活にも慣れたようなので、半日なら大丈夫だろうと、代わりの護衛騎士を頼んで実家に帰った。
用事を済ませて市場へ向かうと、今日は来ていないと言う。宿にいるのかと思って向かうと、入り口に代わりを頼んだパームがいた。
「マサコ殿はどうした」
「魔物に襲われたショックで部屋で寝ています。怪我はありません」
「どういうことだ、お前がいながら襲われた」
「目を離した隙にダークハウンドが突撃しました。申し訳ございません」
「分かった。後は変わる。ご苦労だった」
護衛対象から目を離すなど、あってはならない。あいつは鍛えなおしだな。
だがその前に、マサコさんの様子を見にいくと、少しいつもの覇気はなかったが、変わりないようだった。
「あれが魔物なのね。理沙に危険はないのよね?魔物の多い地域に浄化に行っているんでしょう?」
「ありません。例え魔物が出たとしても、十分に倒せる戦力を護衛としてつけています」
「そう。よかった」
ここで心配するのが自分の事ではなく、聖女様の事なのか。
襲われたにもかかわらず、翌日も薬草採取に行くというので、そこまでのことではなかったのだろうと思っていた。
「あんた、あんなのマーちゃんの護衛につけるなよ」
「冒険者が助けてくれたと聞いている。助かった」
「あんた、もしかして知らないのか?」
何をだ。目を離したすきに襲われて、冒険者が助けてくれたのではないのか?
「告げ口みたいなことはしたくないが、昨日の坊ちゃん、マーちゃん放置して魔物狩ってたぞ」
「冒険者に換金させたみたいだしな」
「……詳しく教えてくれ」
まさか、マサコさんから目を離した訳じゃなく、そもそもマサコさんの近くにいなかったのか?
襲われたというのも、今にも飛び掛かろうとしていたダークハウンドを、冒険者が矢で射て気をそらしたからギリギリ助かったという、本当に間一髪だったことが分かった。もし冒険者が駆けつけてくれなければ、マサコさんの命はなかっただろう。
パームに問い質したいが、今はマサコさんから目を離さないほうがいいだろう。聖女様が浄化の旅から戻られてマサコさんが王城にいるときにしよう。
王城に入ったらもう護衛は必要ないので離れようとしたら、ちょっと待ってと言われ、そばに控えている。周りの護衛たちが同情の目で見ているのが分かる。
聖女様は馬車から降りられると、一目散にマサコさんに駆け寄り飛びつかれた。
マサコさんも怪我はなかったか心配しながら、よく頑張ったと聖女様を褒めている。これだけ仲が良いのに、なぜそばを離れるのか。
後で聞いたら、旅について行くのは辛いお年頃なのよ、と言われてしまった。
「そうそう、紹介しておくわ。私の護衛のレイ君」
「レイさん、お母さんの事お願いしますね」
「命に代えましても」
俺の名前はフレイグランなのだが、きっとマサコさんは覚えていないのだろうな。まあいいが。
王城でもそばにいるよう言われたのは、聖女様に紹介するためだったらしい。もういいわよ、ゆっくり休んでね、と解放された。
マサコさんは、何かしらこういう一言をかけてくれる。それはこの世界の貴人ではあり得ないことだ。
「お前、聖女様に声かけられていいな」
「でもだからって、あのおばさんの護衛はしたくないわ」
俺がマサコさんに付き合わされて冒険者の依頼に行っていることにも同情されている。まあ確かに護衛騎士の仕事ではないが、貴族の道楽だと思えば、とんでもない我儘を言わない分まだ楽だ。
聖女様がまた浄化の旅に出られたので、マサコさんも城を出る。
「レイ君、宿なんだけど、もうちょっと普通の宿に代えられない?」
「今の宿が不満ですか?」
「そうじゃなくて、普通の宿に泊まってみたいの。冒険者の格好で出入りしても驚かれないような宿に」
そんな宿、警備上の問題がありすぎて無理だが、マサコさんの希望はすべて叶えるようにと言われている。
「旅の商人が泊まるような宿でいいですか」
「冒険者の宿はやっぱり無理?」
「無理ですね」
「じゃあそこでいいわ」
理由を告げて代案を提示すれば、理解してくれるというのが、最近分かってきた。頭ごなしにこちらの言い分を否定したりはしない。
王城にいるときは思い通りにならないことは全て突っぱねているように思っていたが、そうではなくて歩み寄るつもりはあるのだろう。ただ、彼女たちにとって譲れないことが、我々にとっても譲れないことだっただけで。
我々が普通だからと押し付けていることが、彼女にとって、聖女様にとっては普通ではないのだ。
「同じような別の宿に移りたいわ」
「この宿はお気に召しませんでしたか?」
「あれ、言ってなかったっけ。偵察よ。商売を始めたくて、宿はどうかなって」
「冒険者は……」
「冒険者なんて肉体労働、この歳でいつまでも続けられるわけないでしょう」
それは最初に言ったはずなんだが。なんで今更俺が考えなしのように言われているのか。理不尽だ。
けれど、このまま冒険者を続けても薬草採取では稼げないし、危険もゼロではない。城壁内で商売を始めてくれるほうが、護衛としてもありがたい。
午前中は薬草採取をして、午後は市場や近くの店で同年代のご婦人と立ち話をする。聞くと情報収集らしいので、彼女の後ろに立って、聞くとはなしに話を聞いている。
最近では俺に慣れたご婦人たちが、俺も話に巻き込もうとするが、一応仕事中なのでご遠慮願いたい。
そんなある日、実家から呼び出された。これでも貴族の子息なので、何かと用事がある。マサコさんもだいぶ城下での生活にも慣れたようなので、半日なら大丈夫だろうと、代わりの護衛騎士を頼んで実家に帰った。
用事を済ませて市場へ向かうと、今日は来ていないと言う。宿にいるのかと思って向かうと、入り口に代わりを頼んだパームがいた。
「マサコ殿はどうした」
「魔物に襲われたショックで部屋で寝ています。怪我はありません」
「どういうことだ、お前がいながら襲われた」
「目を離した隙にダークハウンドが突撃しました。申し訳ございません」
「分かった。後は変わる。ご苦労だった」
護衛対象から目を離すなど、あってはならない。あいつは鍛えなおしだな。
だがその前に、マサコさんの様子を見にいくと、少しいつもの覇気はなかったが、変わりないようだった。
「あれが魔物なのね。理沙に危険はないのよね?魔物の多い地域に浄化に行っているんでしょう?」
「ありません。例え魔物が出たとしても、十分に倒せる戦力を護衛としてつけています」
「そう。よかった」
ここで心配するのが自分の事ではなく、聖女様の事なのか。
襲われたにもかかわらず、翌日も薬草採取に行くというので、そこまでのことではなかったのだろうと思っていた。
「あんた、あんなのマーちゃんの護衛につけるなよ」
「冒険者が助けてくれたと聞いている。助かった」
「あんた、もしかして知らないのか?」
何をだ。目を離したすきに襲われて、冒険者が助けてくれたのではないのか?
「告げ口みたいなことはしたくないが、昨日の坊ちゃん、マーちゃん放置して魔物狩ってたぞ」
「冒険者に換金させたみたいだしな」
「……詳しく教えてくれ」
まさか、マサコさんから目を離した訳じゃなく、そもそもマサコさんの近くにいなかったのか?
襲われたというのも、今にも飛び掛かろうとしていたダークハウンドを、冒険者が矢で射て気をそらしたからギリギリ助かったという、本当に間一髪だったことが分かった。もし冒険者が駆けつけてくれなければ、マサコさんの命はなかっただろう。
パームに問い質したいが、今はマサコさんから目を離さないほうがいいだろう。聖女様が浄化の旅から戻られてマサコさんが王城にいるときにしよう。
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