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3章 トルゴード編
8. 言葉を惜しまずに
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カエル退治は無事にカエルを見ることなく終わった。
瘴気が減ればカエルも減るだろうということで、理沙の浄化がとても入念だったことには、ターシャちゃんも苦笑していた。
今回初めて護衛についた騎士さんたちは、浄化の前後で周りをとても気にしている理沙を見て、とても繊細な深窓の令嬢だと勘違いしていそうだ。
帰ってきて、お披露目パーティーに向けて、衣装の最終調整をしている。
理沙の振袖のようなドレスは、とても品良く作られていて、試作品の時にはなかったパニエが入って裾がふわっと広がっている。
「うわあ、素敵ですね!これ振袖っていうよりも、えっと、なんだっけ」
「十二単ね。素敵だわ」
「違うものになってしまいましたか?」
「王族が特別な時に着るもの?庶民はめったに着る機会がないけど、でも素敵」
デザイナーさんがイメージと違ったのかと焦っているけれど、むしろこっちのほうがレア度が上がっている。
十二単なんて縁がなさ過ぎてどう説明していいのか分からない。令和への代替わりのときにテレビで見たのしか記憶にない。祐也の結婚式の時に和装で十二単もあったそうだけど、美弥さんはお色直しはしないでウェディングドレスだけだった。
ターシャちゃんなら知ってそうだけど、前世のことは説明していないと言っていたから話す気はないようだ。
「理沙の顔が見えないように、ベールをしたらマナー違反になるかしら」
「ベールで完全に顔を隠すのは、後ろめたいことがあると取られてしまいますので……」
今後のことを考えると、理沙の顔を覚えられたくない。浄化の時は、周りに騎士以外の人がいるときはベールを被って顔を隠している。
「じゃあジェン君みたいに仮面とか?後はアラブの踊り子さんの鼻から下のベールとか?」
「仮面舞踏会みたいなのがいいな」
それはどういうものだと聞かれて、理沙がさっそく絵を描いている。理沙が描いているのはベネチアの仮面ね。お土産でもらったわ。
目の周りを飾るだけで印象はだいぶ変わるだろうから、髪飾りと一体になったものを作ってもらえることになった。和洋折衷だけど、きっとデザイナーさんがいい感じに仕上げてくれるだろう。
お披露目パーティーの3日前にドレスが仕上がったので、試着をしている。
身体にぴったりと作られていて、とても着心地がいいんだけど、これちょっと太っただけで入らなくなるんじゃないかしら。
「お母さんが別人みたい」
「理沙もよ。どちらのご令嬢かしら」
私の仮面というか顔を隠すのはシンプルに目の高さまでのベールだけど、理沙は髪飾りから続いた花が目の周りを飾っている。
しかも当日は髪の毛をアップにしてさらに花で飾るらしいので、そうなるといつもの理沙は想像できないだろう。
「政子さん、このあと少しご相談があるのですが」
「構わないわよ」
試着が終わった後に、ターシャちゃんからお誘いがあった。理沙のことはリリーちゃんたちに任せて、ターシャちゃんの話を聞こう。
離宮に用意されているターシャちゃんのお部屋にふたりだけで入る。
お披露目パーティーのことで、理沙に聞かせたくないことが何かあるのかと思って警戒していたけど、全く違う話だった。
「お披露目パーティーの前に日本のことを話そうと思うのですが、どう話していいのか分からなくて」
「そのまま言うしかないんじゃない?」
ジェン君に話すとその話は王様にまで伝わってしまうから、何をどこまで話していいか迷っているらしい。私たちの言葉が分かる、ということは最初に言ってある。
けれど、私たちにとって一番有難いのは言葉ではなく、日本の習慣や価値観を知っていることだ。日本とこの世界両方を知るターシャちゃんがいるからこそ、私たちが何に戸惑うのかを予想して先回りしていてくれる。そのことはおそらくそばにいるリリーちゃんたち女性騎士も気付いているだろう。
それをなぜ知っているのか、どう説明していいのか分からないのだ。
「前世の記憶など、夫は信じてくれても、陛下方は信じてくださらないでしょう」
「うーん、となると、夢に見たとか?神様のお告げとか?」
「やはりそうなりますよね」
「旦那さんに相談するのがいいんじゃない?この世界の常識で一番しっくりくるものを考えてくれるんじゃない?」
聖女様という超常の存在をすんなり信じる人たちなのだ。神のお告げであっさり信じるかもしれないし信じないかもしれない。それは私には分からない。
ターシャちゃんも日本の科学の知識があるから、思考が引っ張られている可能性もある。きっと私たちで話していても結論は出ないのだから、生粋のこの世界の人の意見をきいたほうがいい。
「旦那さんは信じてくれなさそうなの?」
「分かりません。人の心は目に見えないので」
目に見えるものしか信じないのね。さすが理系。科学者っぽいわ。
人との関係なんて目には見えない。
でも、ターシャちゃんが私たちを助けてくれるようにその行動は目に見えて、だから私たちはターシャちゃんを信じている。
あの旦那さんはターシャちゃんのちょっとぶっ飛んだところも可愛いと思ってそうに感じたけど、ふたりの間のことは当人同士にしか分からない。
それにターシャちゃんは私たちにずっとついていてくれているので、旦那さんとあんまり時間が取れていないのかもしれない。それに関してはとても申し訳なく思っている。
「私から言えることは一つ。不安も含めてちゃんと話すことをお勧めするわ。この世界、目の前にいる人としか会話はできないんだから」
クインスで別れたミュラとは、会いに行かない限り話ができない。亡くなった夫とも、祐也とも、もう話はできない。
言葉を惜しんでいるうちに、次の機会が二度と回ってこないことだってあるのだ。
瘴気が減ればカエルも減るだろうということで、理沙の浄化がとても入念だったことには、ターシャちゃんも苦笑していた。
今回初めて護衛についた騎士さんたちは、浄化の前後で周りをとても気にしている理沙を見て、とても繊細な深窓の令嬢だと勘違いしていそうだ。
帰ってきて、お披露目パーティーに向けて、衣装の最終調整をしている。
理沙の振袖のようなドレスは、とても品良く作られていて、試作品の時にはなかったパニエが入って裾がふわっと広がっている。
「うわあ、素敵ですね!これ振袖っていうよりも、えっと、なんだっけ」
「十二単ね。素敵だわ」
「違うものになってしまいましたか?」
「王族が特別な時に着るもの?庶民はめったに着る機会がないけど、でも素敵」
デザイナーさんがイメージと違ったのかと焦っているけれど、むしろこっちのほうがレア度が上がっている。
十二単なんて縁がなさ過ぎてどう説明していいのか分からない。令和への代替わりのときにテレビで見たのしか記憶にない。祐也の結婚式の時に和装で十二単もあったそうだけど、美弥さんはお色直しはしないでウェディングドレスだけだった。
ターシャちゃんなら知ってそうだけど、前世のことは説明していないと言っていたから話す気はないようだ。
「理沙の顔が見えないように、ベールをしたらマナー違反になるかしら」
「ベールで完全に顔を隠すのは、後ろめたいことがあると取られてしまいますので……」
今後のことを考えると、理沙の顔を覚えられたくない。浄化の時は、周りに騎士以外の人がいるときはベールを被って顔を隠している。
「じゃあジェン君みたいに仮面とか?後はアラブの踊り子さんの鼻から下のベールとか?」
「仮面舞踏会みたいなのがいいな」
それはどういうものだと聞かれて、理沙がさっそく絵を描いている。理沙が描いているのはベネチアの仮面ね。お土産でもらったわ。
目の周りを飾るだけで印象はだいぶ変わるだろうから、髪飾りと一体になったものを作ってもらえることになった。和洋折衷だけど、きっとデザイナーさんがいい感じに仕上げてくれるだろう。
お披露目パーティーの3日前にドレスが仕上がったので、試着をしている。
身体にぴったりと作られていて、とても着心地がいいんだけど、これちょっと太っただけで入らなくなるんじゃないかしら。
「お母さんが別人みたい」
「理沙もよ。どちらのご令嬢かしら」
私の仮面というか顔を隠すのはシンプルに目の高さまでのベールだけど、理沙は髪飾りから続いた花が目の周りを飾っている。
しかも当日は髪の毛をアップにしてさらに花で飾るらしいので、そうなるといつもの理沙は想像できないだろう。
「政子さん、このあと少しご相談があるのですが」
「構わないわよ」
試着が終わった後に、ターシャちゃんからお誘いがあった。理沙のことはリリーちゃんたちに任せて、ターシャちゃんの話を聞こう。
離宮に用意されているターシャちゃんのお部屋にふたりだけで入る。
お披露目パーティーのことで、理沙に聞かせたくないことが何かあるのかと思って警戒していたけど、全く違う話だった。
「お披露目パーティーの前に日本のことを話そうと思うのですが、どう話していいのか分からなくて」
「そのまま言うしかないんじゃない?」
ジェン君に話すとその話は王様にまで伝わってしまうから、何をどこまで話していいか迷っているらしい。私たちの言葉が分かる、ということは最初に言ってある。
けれど、私たちにとって一番有難いのは言葉ではなく、日本の習慣や価値観を知っていることだ。日本とこの世界両方を知るターシャちゃんがいるからこそ、私たちが何に戸惑うのかを予想して先回りしていてくれる。そのことはおそらくそばにいるリリーちゃんたち女性騎士も気付いているだろう。
それをなぜ知っているのか、どう説明していいのか分からないのだ。
「前世の記憶など、夫は信じてくれても、陛下方は信じてくださらないでしょう」
「うーん、となると、夢に見たとか?神様のお告げとか?」
「やはりそうなりますよね」
「旦那さんに相談するのがいいんじゃない?この世界の常識で一番しっくりくるものを考えてくれるんじゃない?」
聖女様という超常の存在をすんなり信じる人たちなのだ。神のお告げであっさり信じるかもしれないし信じないかもしれない。それは私には分からない。
ターシャちゃんも日本の科学の知識があるから、思考が引っ張られている可能性もある。きっと私たちで話していても結論は出ないのだから、生粋のこの世界の人の意見をきいたほうがいい。
「旦那さんは信じてくれなさそうなの?」
「分かりません。人の心は目に見えないので」
目に見えるものしか信じないのね。さすが理系。科学者っぽいわ。
人との関係なんて目には見えない。
でも、ターシャちゃんが私たちを助けてくれるようにその行動は目に見えて、だから私たちはターシャちゃんを信じている。
あの旦那さんはターシャちゃんのちょっとぶっ飛んだところも可愛いと思ってそうに感じたけど、ふたりの間のことは当人同士にしか分からない。
それにターシャちゃんは私たちにずっとついていてくれているので、旦那さんとあんまり時間が取れていないのかもしれない。それに関してはとても申し訳なく思っている。
「私から言えることは一つ。不安も含めてちゃんと話すことをお勧めするわ。この世界、目の前にいる人としか会話はできないんだから」
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