巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
36 / 89
3章 トルゴード編

8. 言葉を惜しまずに

しおりを挟む
 カエル退治は無事にカエルを見ることなく終わった。
 瘴気が減ればカエルも減るだろうということで、理沙の浄化がとても入念だったことには、ターシャちゃんも苦笑していた。
 今回初めて護衛についた騎士さんたちは、浄化の前後で周りをとても気にしている理沙を見て、とても繊細な深窓の令嬢だと勘違いしていそうだ。

 帰ってきて、お披露目パーティーに向けて、衣装の最終調整をしている。
 理沙の振袖のようなドレスは、とても品良く作られていて、試作品の時にはなかったパニエが入って裾がふわっと広がっている。

「うわあ、素敵ですね!これ振袖っていうよりも、えっと、なんだっけ」
「十二単ね。素敵だわ」
「違うものになってしまいましたか?」
「王族が特別な時に着るもの?庶民はめったに着る機会がないけど、でも素敵」

 デザイナーさんがイメージと違ったのかと焦っているけれど、むしろこっちのほうがレア度が上がっている。
 十二単なんて縁がなさ過ぎてどう説明していいのか分からない。令和への代替わりのときにテレビで見たのしか記憶にない。祐也の結婚式の時に和装で十二単もあったそうだけど、美弥さんはお色直しはしないでウェディングドレスだけだった。
 ターシャちゃんなら知ってそうだけど、前世のことは説明していないと言っていたから話す気はないようだ。

「理沙の顔が見えないように、ベールをしたらマナー違反になるかしら」
「ベールで完全に顔を隠すのは、後ろめたいことがあると取られてしまいますので……」

 今後のことを考えると、理沙の顔を覚えられたくない。浄化の時は、周りに騎士以外の人がいるときはベールを被って顔を隠している。

「じゃあジェン君みたいに仮面とか?後はアラブの踊り子さんの鼻から下のベールとか?」
「仮面舞踏会みたいなのがいいな」

 それはどういうものだと聞かれて、理沙がさっそく絵を描いている。理沙が描いているのはベネチアの仮面ね。お土産でもらったわ。
 目の周りを飾るだけで印象はだいぶ変わるだろうから、髪飾りと一体になったものを作ってもらえることになった。和洋折衷だけど、きっとデザイナーさんがいい感じに仕上げてくれるだろう。


 お披露目パーティーの3日前にドレスが仕上がったので、試着をしている。
 身体にぴったりと作られていて、とても着心地がいいんだけど、これちょっと太っただけで入らなくなるんじゃないかしら。

「お母さんが別人みたい」
「理沙もよ。どちらのご令嬢かしら」

 私の仮面というか顔を隠すのはシンプルに目の高さまでのベールだけど、理沙は髪飾りから続いた花が目の周りを飾っている。
 しかも当日は髪の毛をアップにしてさらに花で飾るらしいので、そうなるといつもの理沙は想像できないだろう。

「政子さん、このあと少しご相談があるのですが」
「構わないわよ」

 試着が終わった後に、ターシャちゃんからお誘いがあった。理沙のことはリリーちゃんたちに任せて、ターシャちゃんの話を聞こう。
 離宮に用意されているターシャちゃんのお部屋にふたりだけで入る。
 お披露目パーティーのことで、理沙に聞かせたくないことが何かあるのかと思って警戒していたけど、全く違う話だった。

「お披露目パーティーの前に日本のことを話そうと思うのですが、どう話していいのか分からなくて」
「そのまま言うしかないんじゃない?」

 ジェン君に話すとその話は王様にまで伝わってしまうから、何をどこまで話していいか迷っているらしい。私たちの言葉が分かる、ということは最初に言ってある。
 けれど、私たちにとって一番有難いのは言葉ではなく、日本の習慣や価値観を知っていることだ。日本とこの世界両方を知るターシャちゃんがいるからこそ、私たちが何に戸惑うのかを予想して先回りしていてくれる。そのことはおそらくそばにいるリリーちゃんたち女性騎士も気付いているだろう。
 それをなぜ知っているのか、どう説明していいのか分からないのだ。

「前世の記憶など、夫は信じてくれても、陛下方は信じてくださらないでしょう」
「うーん、となると、夢に見たとか?神様のお告げとか?」
「やはりそうなりますよね」
「旦那さんに相談するのがいいんじゃない?この世界の常識で一番しっくりくるものを考えてくれるんじゃない?」

 聖女様という超常の存在をすんなり信じる人たちなのだ。神のお告げであっさり信じるかもしれないし信じないかもしれない。それは私には分からない。
 ターシャちゃんも日本の科学の知識があるから、思考が引っ張られている可能性もある。きっと私たちで話していても結論は出ないのだから、生粋のこの世界の人の意見をきいたほうがいい。

「旦那さんは信じてくれなさそうなの?」
「分かりません。人の心は目に見えないので」

 目に見えるものしか信じないのね。さすが理系。科学者っぽいわ。
 人との関係なんて目には見えない。
 でも、ターシャちゃんが私たちを助けてくれるようにその行動は目に見えて、だから私たちはターシャちゃんを信じている。

 あの旦那さんはターシャちゃんのちょっとぶっ飛んだところも可愛いと思ってそうに感じたけど、ふたりの間のことは当人同士にしか分からない。
 それにターシャちゃんは私たちにずっとついていてくれているので、旦那さんとあんまり時間が取れていないのかもしれない。それに関してはとても申し訳なく思っている。

「私から言えることは一つ。不安も含めてちゃんと話すことをお勧めするわ。この世界、目の前にいる人としか会話はできないんだから」

 クインスで別れたミュラとは、会いに行かない限り話ができない。亡くなった夫とも、祐也とも、もう話はできない。
 言葉を惜しんでいるうちに、次の機会が二度と回ってこないことだってあるのだ。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...