巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
35 / 89
3章 トルゴード編

7. 苦手なもの

しおりを挟む
 2日後、再度ドレスの打ち合わせをすると言われて待っていると、仮縫いされたドレスが5着持ち込まれてきた。

「聖女様がお気に召されたデザインのものを簡単に作ってみました」

 裏地などはついていない、布の端も処理されていないものだけど、それでもドレスの形になっているのだ。すごい。
 色や柄は王妃様とターシャちゃんのお義母さんが選んでくれたそうで、どれも素敵だ。
 どれも着てみたくて選べないから、理沙はどうせならと一番振袖に近いものを選んだ。

「お母さん、このドレス着てよ。すごく素敵」
「理沙、それはちょっと……。お腹が一番目立たないのはどれかしら?」

 理沙が勧めてくれた一見シンプルなドレスは、正面からはシンプルに見えるけど、背中側は帯を垂らしているように布が重ねられていて華やかだ。
 でもそのストレートな感じだと、お腹周りに積み重ねた歴史である脂肪が隠せない……。コルセットをすることになったら、きっと息ができないわ。
 私のドレスは、このドレスを参考に、胸元を着物の衿のようにしたもので、体系をうまく隠すものを作ってもらえることになった。
 デザイナーさんの分かっていますからという微笑みに、ちょっとお腹周りをすっきりさせることを決意した。まあその決意も3時間しかもたないんだけど。お城のごはんが美味しいのよね。

「ターシャちゃんならこれを着こなせるんじゃない?」
「それいい!ターシャさん、これ着てください」

 すらっとしたターシャちゃんなら着こなせるだろう。
 聖女様のドレスを着るわけにはいかないとターシャちゃんは渋っていたけど、最終的に理沙のお願いに折れてくれた。
 王妃様が、世話をしてくれているお礼にと聖女様が望んだと広めてくれるそうだ。


 ドレスはお任せして、お披露目パーティーの前に私たちは浄化に行く。
 近隣の国から王族が来るので、お披露目パーティーの開催までには日にちがある。
 そこで、今後行く予定になっているクインス側ではなく、反対側ローズモス王国側の魔物が良く出るところに浄化に行くことになった。
 湿原というか沼のようなところがあって、そこに魔物が良く出るらしい。

「理沙、どうしたの?」
「……行きたくない」
「理沙、無理はしなくていいのよ。体調が悪いならやめましょう」

 こんな理沙は初めて見る。しかも出発の日になって、こんなことを言い出すなんて。
 ターシャちゃんも護衛の女性騎士さんたちも心配している。

「理沙さん、中止しますか?」
「いえ、行きます。行きますけど」
「今日はやめましょう。連絡してきます」
「あ、違います!違うんです!ターシャさん待って。行きます。行くけど……、カエル嫌いなんです」

 最後は消え入るような声で、理沙がつぶやいた。
 ああ、そういうことね。体調が悪いとかじゃなくてよかったわ。

「カエルなんて、見なければいいでしょ」
「簡単に言わないでよ。人と同じくらいって聞いたもん。お母さんは黒いヤツの大きいのが出ても平気なの?!」
「やめて!そんなの無理に決まってるじゃない。リリーちゃん、護衛の騎士さんたちに、遠くであっても理沙の目に入るところまで近寄らせないようにお願いしてもらえるかしら?」
「畏まりました。決して理沙様の目に入れないとお約束しましょう」

 女性騎士のリリーちゃんが笑いをこらえて、誓ってくれた。
 最初は理沙のいつにない様子に心配していたターシャちゃんたちも、行きたくないのが可愛い駄々だと分かって空気が緩んだ。

 今回浄化に行く沼のようなところにはカエルが大きくなったような魔物がいると聞いたが、理沙はそれが怖いようだ。
 カエルなんてと思ったけど、苦手なものは人それぞれだから、軽く言って悪かったと反省しきりだ。台所にいる黒いヤツの大きいのなんて、想像したくもない。あいつらは人類の敵だ。
 ちなみに黒いヤツが大きくなったような魔物はいないそうだ。もしいるなら、私はそこには行かない。悪いけど理沙ひとりで行ってね。浄化はもう慣れているし大丈夫でしょう。

 女性騎士さんは、国境まで迎えに来てくれたリリーちゃん、カーラちゃん、デイジーちゃんの3人が今回も一緒に行ってくれる。
 それに加えてあと3人、新しい女性騎士さんも加わって、2人ずつの3交代制になる予定だ。今回は短い旅なのでそこまで必要ないけど、今後のためのお試しらしい。
 ターシャちゃんも付いてきてくれる。そうなるとジェン君もだ。
 前回はいなかった護衛騎士が理沙の周りを固めて、第二騎士団は万が一にも理沙に魔物が近寄らないように露払いになる。カエルもどきも第二騎士団がきっと討伐しておいてくれるだろう。

「カーラちゃん、護衛騎士って普通の騎士と違うの?」
「そうですね。例えば理沙様の前に魔物が現れた場合、魔物を退治するのが騎士で、理沙様を安全な場所までお連れするのが護衛騎士ですね」

 役割が違うのね。
 女性騎士は人数が少ないのでほとんどが護衛騎士になるけど、それでもまずは騎士として修行してから護衛騎士になる。護衛騎士はエリートなんだそうだ。
 ただし、護衛騎士は礼儀作法とかも厳しいので、現場で暴れていたい人は護衛騎士を希望しない。きっとジェン君たち第二騎士団はそういう人の集まりなんだろう。
 実際に、カエル退治に向かう理沙についてくれた護衛騎士さんたちは、とても洗練されていた。ターシャちゃんの言った、第二騎士団は統率の取れた冒険者という表現も、あながち間違っていなさそうだ。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

異世界召喚のおばあちゃん

あまつ冴
ファンタジー
異世界から召喚された中におばあちゃんがいた

処理中です...