巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
34 / 89
3章 トルゴード編

6. 親近感

しおりを挟む
「疲れたー」
「お疲れ様。頑張ったわね。ちゃんと伝えられていたよ」

 珍しく抱き着いて甘えてくるので頭を撫でると、えへへと笑った。可愛いなあ。
 よく頑張ったので、今日は一日甘やかしてあげようね。よしよし。

「ターシャさん、大丈夫でした?」
「はい」
「でも王様は尽力するってだけだったでしょう?それは大丈夫かしら」
「こういう場合、揚げ足を取られないように決して断定はしません。ですが、聖女様に見限られて困るのはトルゴードのほうですから、無理強いはないでしょう」

 なんと、私たちのお城での世話係は、ターシャちゃんがしてくれている。
 理沙が慣れるまで限定とはいえ、ターシャちゃんは公爵家の若奥様なのにいいのか心配だったけど、旦那さんのお父さんである宰相の指示らしい。
 それに、もともとはお隣のローズモス王国の側妃になっているお姉さんについてお城の女官になる予定だったので、お仕事の内容も把握済みで問題ないそうだ。
 ターシャちゃん、スペック高すぎ。

 当分はお城で、ターシャちゃんからこの国についての知識を教わったり、聖女についてターシャちゃんからの聞き取り調査に答えたりする。
 その間に、浄化の道順や宿泊先の手配を行い、護衛を整えたりするそうだ。
 ジェン君がまた行くのかと思いきや、本来護衛をするのは別の騎士団らしいので、どの騎士団が行くかも含めて選んでいるところらしい。
 同じ騎士団じゃないの?という疑問が顔に出ていたのか、ターシャちゃんが「第二騎士団は統率の取れた冒険者のようなものです」と教えてくれた。その騎士団のトップであるジェン君が苦笑いはしていたけど否定しなかったので、第二はやんちゃなのかもしれない。

 理沙の要望を聞いてくれたようで、パーティーやお茶会に誘われることもなく、離宮でのんびりと過ごしている。
 クインスでは宿の経営でバタバタしていたところに理沙の騒動があって、ゆっくりとする時間もなかったので、なんだかすごく久しぶりに理沙と優雅にお茶をしている気がする。
 私たちが借りている離宮は奥まったところにあるので、とても静かだ。そしてプライバシーについて訴えたからか、国境からずっとついてくれている女性騎士さん以外、目に入るところには警護の騎士がいない。
 ターシャちゃんによると、そもそもこの離宮の周りも立ち入り禁止になっているようで、ターシャちゃんでもここに来るまでに騎士に何度も止められ身元確認をされるらしい。

 お庭での話を切り上げて部屋に帰ると、壁に絵が飾られていた。

「ターシャさん、これ」
「クインス王国にお願いして送ってもらいました」

 理沙の家族写真の絵が飾られている。小さいものは持ってきたが、大きなものはお城の部屋に飾られたままだったのだ。
 理沙とふたりで描いてもらった成人式の代わりの絵と、私の祐也の結婚式の時の絵もある。
 馬車の中でターシャちゃんにスマホの写真を描いてもらった話はしたが、まさか置いてきた実物が送られてくるとは思わなかった。
 そして、成人式の着物の代わりに作ってもらったドレスも一緒に届いていた。

「今度のお披露目パーティーのドレスって、これで出てもいいですか?」
「申し訳ないのですが、ドレスは新調します。クインス王国でのドレスを着用されると、トルゴードが聖女様をないがしろにしていると受け取られかねませんので」
「それは仕方がないですけど、1回しか着てないのにもったいなくて」
「分かります。このドレスがお気に入りでしたら、新調するものも同じようなデザインにしましょう」

 理沙が喜んで、ターシャちゃんにも一緒に振袖ドレスにしようと誘っている。
 本当にこのドレスが気に入っているんだと分かって、とても嬉しい。
 家族写真を見て少し涙ぐんでいたので心配したけれど、ドレスで気が紛れたようでよかった。

 ちなみにお披露目パーティーは、これだけは出てほしいと言われて理沙も納得した。
 前回クインスで行った時は、パーティーの招待状が届いてから開催までに時間がなく、一番近いこの国からも王族の参加はなかったそうだが、今回は近隣諸国の王族を招いてのパーティーになる。浄化のための派遣の要望があるなら、この時までに出すように伝えてくれているそうだ。

 そして、ドレスの打ち合わせの日、理沙は振袖の絵を描いて準備万端だ。
 ちょっと漫画っぽいタッチで描かれた絵はとても上手で、着物の特徴をよく表している。
 ドレスの打ち合わせには王妃様と宰相夫人であるターシャちゃんのお義母さんが来ると聞いている。

「聖女様、初めまして。王妃のナンディーナです。トルゴードへのお越しに心より感謝を申し上げます。こちらは公爵夫人のトリヤです」
「初めまして。理沙です。よろしくお願いします。母の政子です」

 王妃様とターシャちゃんのお義母さんはとても品の良いご婦人で、私と同年代のようだが、一挙手一投足がとても優雅で住む世界の違いを感じる。
 挨拶を済ませたらさっそく本題に入りましょう、とクインスで作ってもらったドレスを見始めた。

「ナスターシャから聞いていますが、こちらが聖女様の世界のドレスを模したものだそうですね」
「絵を描いてみました。本当はこんな感じの服です」
「まあ、素敵ね。だったら、この胸の部分の重ねを二重にしてはどうかしら」

 王妃様とターシャちゃんのお義母さんが、デザイナーさんを巻き込んで、議論を始めた。
 時々理沙にも意見を聞きながら、デザイナーさんがさらさらとデザインを描いていく。

 いくつかできたデザイン画を見せられて、気に入るものを3つ選ぶように言われた理沙が、5つまでは絞ったけれどそれ以上は選べないからと私にも意見を求めてきた。
 でもどれもよさそうで選べない。確かに迷うわね。
 すごく着物っぽいものもあれば、衿だけ着物風、帯だけ着物風など、バリエーションがたくさんある。この短時間でそれだけ出してくるデザイナーさん、すごい。

「ターシャちゃん、若い人の意見はどうかしら?」
「……」
「マサコ様、ナスターシャに聞いても無駄ですわよ。この子、お勉強のほうに全部持って行かれちゃったのかそういうのは苦手みたいで」

 ターシャちゃんを見るととても澄ました顔で笑っているので、これは日本人の得意な困ったときは笑って流そう作戦だな。
 ターシャちゃんのドレスは全部このお義母さんセレクションだった。完璧かと思いきや抜けているところもあると分かって、むしろ親近感を覚える。
 お義母さんもそんなところが可愛いようで、放っておくと地味なのばかり選ぶのよ、と言いながらも自分が選んだものを着てくれて嬉しそうだ。
 それを聞いて、理沙も任せることに決めた。

「ターシャさんのドレス、センスいいなと思ってたので、お任せしてもいいですか?どれもよさそうで選べません」
「まあ、ありがとうございます。では聖女様に似合うものを選びますね」

 この世界の社交界のプロフェッショナルに任せたほうが、いいものができるでしょう。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...