巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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3章 トルゴード編

6. 親近感

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「疲れたー」
「お疲れ様。頑張ったわね。ちゃんと伝えられていたよ」

 珍しく抱き着いて甘えてくるので頭を撫でると、えへへと笑った。可愛いなあ。
 よく頑張ったので、今日は一日甘やかしてあげようね。よしよし。

「ターシャさん、大丈夫でした?」
「はい」
「でも王様は尽力するってだけだったでしょう?それは大丈夫かしら」
「こういう場合、揚げ足を取られないように決して断定はしません。ですが、聖女様に見限られて困るのはトルゴードのほうですから、無理強いはないでしょう」

 なんと、私たちのお城での世話係は、ターシャちゃんがしてくれている。
 理沙が慣れるまで限定とはいえ、ターシャちゃんは公爵家の若奥様なのにいいのか心配だったけど、旦那さんのお父さんである宰相の指示らしい。
 それに、もともとはお隣のローズモス王国の側妃になっているお姉さんについてお城の女官になる予定だったので、お仕事の内容も把握済みで問題ないそうだ。
 ターシャちゃん、スペック高すぎ。

 当分はお城で、ターシャちゃんからこの国についての知識を教わったり、聖女についてターシャちゃんからの聞き取り調査に答えたりする。
 その間に、浄化の道順や宿泊先の手配を行い、護衛を整えたりするそうだ。
 ジェン君がまた行くのかと思いきや、本来護衛をするのは別の騎士団らしいので、どの騎士団が行くかも含めて選んでいるところらしい。
 同じ騎士団じゃないの?という疑問が顔に出ていたのか、ターシャちゃんが「第二騎士団は統率の取れた冒険者のようなものです」と教えてくれた。その騎士団のトップであるジェン君が苦笑いはしていたけど否定しなかったので、第二はやんちゃなのかもしれない。

 理沙の要望を聞いてくれたようで、パーティーやお茶会に誘われることもなく、離宮でのんびりと過ごしている。
 クインスでは宿の経営でバタバタしていたところに理沙の騒動があって、ゆっくりとする時間もなかったので、なんだかすごく久しぶりに理沙と優雅にお茶をしている気がする。
 私たちが借りている離宮は奥まったところにあるので、とても静かだ。そしてプライバシーについて訴えたからか、国境からずっとついてくれている女性騎士さん以外、目に入るところには警護の騎士がいない。
 ターシャちゃんによると、そもそもこの離宮の周りも立ち入り禁止になっているようで、ターシャちゃんでもここに来るまでに騎士に何度も止められ身元確認をされるらしい。

 お庭での話を切り上げて部屋に帰ると、壁に絵が飾られていた。

「ターシャさん、これ」
「クインス王国にお願いして送ってもらいました」

 理沙の家族写真の絵が飾られている。小さいものは持ってきたが、大きなものはお城の部屋に飾られたままだったのだ。
 理沙とふたりで描いてもらった成人式の代わりの絵と、私の祐也の結婚式の時の絵もある。
 馬車の中でターシャちゃんにスマホの写真を描いてもらった話はしたが、まさか置いてきた実物が送られてくるとは思わなかった。
 そして、成人式の着物の代わりに作ってもらったドレスも一緒に届いていた。

「今度のお披露目パーティーのドレスって、これで出てもいいですか?」
「申し訳ないのですが、ドレスは新調します。クインス王国でのドレスを着用されると、トルゴードが聖女様をないがしろにしていると受け取られかねませんので」
「それは仕方がないですけど、1回しか着てないのにもったいなくて」
「分かります。このドレスがお気に入りでしたら、新調するものも同じようなデザインにしましょう」

 理沙が喜んで、ターシャちゃんにも一緒に振袖ドレスにしようと誘っている。
 本当にこのドレスが気に入っているんだと分かって、とても嬉しい。
 家族写真を見て少し涙ぐんでいたので心配したけれど、ドレスで気が紛れたようでよかった。

 ちなみにお披露目パーティーは、これだけは出てほしいと言われて理沙も納得した。
 前回クインスで行った時は、パーティーの招待状が届いてから開催までに時間がなく、一番近いこの国からも王族の参加はなかったそうだが、今回は近隣諸国の王族を招いてのパーティーになる。浄化のための派遣の要望があるなら、この時までに出すように伝えてくれているそうだ。

 そして、ドレスの打ち合わせの日、理沙は振袖の絵を描いて準備万端だ。
 ちょっと漫画っぽいタッチで描かれた絵はとても上手で、着物の特徴をよく表している。
 ドレスの打ち合わせには王妃様と宰相夫人であるターシャちゃんのお義母さんが来ると聞いている。

「聖女様、初めまして。王妃のナンディーナです。トルゴードへのお越しに心より感謝を申し上げます。こちらは公爵夫人のトリヤです」
「初めまして。理沙です。よろしくお願いします。母の政子です」

 王妃様とターシャちゃんのお義母さんはとても品の良いご婦人で、私と同年代のようだが、一挙手一投足がとても優雅で住む世界の違いを感じる。
 挨拶を済ませたらさっそく本題に入りましょう、とクインスで作ってもらったドレスを見始めた。

「ナスターシャから聞いていますが、こちらが聖女様の世界のドレスを模したものだそうですね」
「絵を描いてみました。本当はこんな感じの服です」
「まあ、素敵ね。だったら、この胸の部分の重ねを二重にしてはどうかしら」

 王妃様とターシャちゃんのお義母さんが、デザイナーさんを巻き込んで、議論を始めた。
 時々理沙にも意見を聞きながら、デザイナーさんがさらさらとデザインを描いていく。

 いくつかできたデザイン画を見せられて、気に入るものを3つ選ぶように言われた理沙が、5つまでは絞ったけれどそれ以上は選べないからと私にも意見を求めてきた。
 でもどれもよさそうで選べない。確かに迷うわね。
 すごく着物っぽいものもあれば、衿だけ着物風、帯だけ着物風など、バリエーションがたくさんある。この短時間でそれだけ出してくるデザイナーさん、すごい。

「ターシャちゃん、若い人の意見はどうかしら?」
「……」
「マサコ様、ナスターシャに聞いても無駄ですわよ。この子、お勉強のほうに全部持って行かれちゃったのかそういうのは苦手みたいで」

 ターシャちゃんを見るととても澄ました顔で笑っているので、これは日本人の得意な困ったときは笑って流そう作戦だな。
 ターシャちゃんのドレスは全部このお義母さんセレクションだった。完璧かと思いきや抜けているところもあると分かって、むしろ親近感を覚える。
 お義母さんもそんなところが可愛いようで、放っておくと地味なのばかり選ぶのよ、と言いながらも自分が選んだものを着てくれて嬉しそうだ。
 それを聞いて、理沙も任せることに決めた。

「ターシャさんのドレス、センスいいなと思ってたので、お任せしてもいいですか?どれもよさそうで選べません」
「まあ、ありがとうございます。では聖女様に似合うものを選びますね」

 この世界の社交界のプロフェッショナルに任せたほうが、いいものができるでしょう。
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