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3章 トルゴード編
5. 理沙の交渉
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浄化をしながら王都へ向かっている馬車の中では、ターシャちゃんによる聖女の実態調査が行われている。
これは理沙からの依頼にすることになった。理沙がターシャちゃんに依頼して、後の聖女のために残す資料を作ってもらうのだ。
ターシャちゃんは学校に通っているはずだけど、授業内容はほとんど頭に入っているし、卒業することが目的でもないので、行かなくてもいいと本人が言っている。旦那さんのジェン君も苦笑していたので、良くはないけど構わないという感じかな。
「ターシャさんって優秀なんですね」
「30年分のアドバンテージがあっての始まりですからね。日本の高等教育のほうがこちらよりも進んでいますし」
子どものころ学校に通い始める時にはすでに日本のことを思い出していたので、この世界の歴史など日本での知識にないことだけ覚えればよかったんだとか。
それで、興味ある事に関する本を読んでいるうちに、気が付くとすごく優秀という評価がついていたらしい。
でもターシャちゃんって日本でも優秀だった気がする。
そんなターシャちゃんがそばにいてくれるのは、とても心強い。
「ねえ、お母さん。浄化が終わったらトルゴードに住みたいな」
「ターシャちゃんがいるものね。でも理沙、他の国にも行ってから決めたほうがいいんじゃない?お隣のローズモスのほうが大きい国らしいし」
「だけど、この国に住むって言ったほうが、交渉が有利になったりしないかな」
明日の交渉が不安なんだろう。
今日トルゴードの王都について、私たちは大歓迎でお城に迎え入れられた。今日は疲れているだろうから休んでと言ってもらえたので、王様とは明日会うことになっている。
「理沙、そのつもりって匂わせておけばいいのよ。断言はしちゃだめ」
「上手くできるかな……」
「大丈夫、変なこと言ったら止めてあげるから」
「お母さんがやっていたの見てたから、できると思ったんだけど」
理沙の年齢よりも長く仕事をしていたのだし、最初から失敗しなかったわけじゃない。
それだけの経験をしていても王様との交渉は緊張したし、あの国ともう少し上手く交渉できていれば、お互いの落としどころを見つけられたんじゃないかと今でも思うことがある。
ただ、この国のほうがクインスよりも聖女を有難がっている気がするので、交渉の余地はきっとある。
「初めまして。理沙です。母の政子です」
「ようこそトルゴードにいらっしゃいました。トルゴード王国国王オーレル・トルゴードです。国内の浄化をしていただきまして、誠にありがとうございます」
「国境までの出迎えありがとうございます」
「トルゴードでの滞在中のお部屋を用意いたしましたので、どうぞおくつろぎください」
昨日の不安などなかったように、理沙が堂々と挨拶をしている。
謁見の間での顔合わせだ。多くの貴族の前で顔合わせをするか、後日パーティーを開くかの2択で、謁見の間での顔合わせを選んだ。
ここでのやり取りは全て事前に打ち合わせ済みだ。本命はこの後なのだ。
私たちに与えられたのは、王城の中にある離宮だった。成人した王族や、王の側妃とか愛人とかが使うものらしい。
そのうちの1つを、私たち用に急遽改装して用意してくれた。内装が控えめになっているのは、ターシャちゃんが言ってくれたのか、ここに来る間の話から私たちがあまり華美なものに慣れていないと判断したのか、どちらかな。
場所を移して、いよいよ交渉だ。理沙が自分でやるというので、私は見守るつもりだ。
ソファにピンと背筋を伸ばして座る理沙は、クインスでただ震えていた頃とは違う。
でも気付くと、ノートを持つ理沙の手が震えていた。そうだ、理沙はまだ18歳。緊張しない訳がなかった。
隣からそっと手を重ねると理沙がこちらを見たので、頷く。大丈夫、そばにいるから。
「この国の浄化をするので、母と私の身の安全と自由を保障してください」
「もちろんです。可能な限り聖女様のご要望に沿えるように尽力いたします」
それから理沙はメモを見ながら、クインスで嫌だったことを中心に配慮してほしいことを挙げていき、それを王様と宰相がうんうんと笑顔で聞いている。
けれど、私はため息が出そうになるのを必死でこらえていた。
目の前の王様は、人のよさそうな笑顔で答えてくれているが、最大限努力するというだけで、確約するとは一言も言っていない。クインスの王様より、こちらの王様のほうがやり辛い相手のようだ。
けれど、できないことを約束しないという意味では信頼できるのような気もする。
国の運営など、人が良いだけではやっていけないと思うので、ある程度利用されることは許容しないといけないのだろうな。
理沙は思っていたことを全て伝えられて満足げな顔をしていてとても可愛いので、とりあえず心配は棚上げして、理沙の可愛さを堪能しよう。
これは理沙からの依頼にすることになった。理沙がターシャちゃんに依頼して、後の聖女のために残す資料を作ってもらうのだ。
ターシャちゃんは学校に通っているはずだけど、授業内容はほとんど頭に入っているし、卒業することが目的でもないので、行かなくてもいいと本人が言っている。旦那さんのジェン君も苦笑していたので、良くはないけど構わないという感じかな。
「ターシャさんって優秀なんですね」
「30年分のアドバンテージがあっての始まりですからね。日本の高等教育のほうがこちらよりも進んでいますし」
子どものころ学校に通い始める時にはすでに日本のことを思い出していたので、この世界の歴史など日本での知識にないことだけ覚えればよかったんだとか。
それで、興味ある事に関する本を読んでいるうちに、気が付くとすごく優秀という評価がついていたらしい。
でもターシャちゃんって日本でも優秀だった気がする。
そんなターシャちゃんがそばにいてくれるのは、とても心強い。
「ねえ、お母さん。浄化が終わったらトルゴードに住みたいな」
「ターシャちゃんがいるものね。でも理沙、他の国にも行ってから決めたほうがいいんじゃない?お隣のローズモスのほうが大きい国らしいし」
「だけど、この国に住むって言ったほうが、交渉が有利になったりしないかな」
明日の交渉が不安なんだろう。
今日トルゴードの王都について、私たちは大歓迎でお城に迎え入れられた。今日は疲れているだろうから休んでと言ってもらえたので、王様とは明日会うことになっている。
「理沙、そのつもりって匂わせておけばいいのよ。断言はしちゃだめ」
「上手くできるかな……」
「大丈夫、変なこと言ったら止めてあげるから」
「お母さんがやっていたの見てたから、できると思ったんだけど」
理沙の年齢よりも長く仕事をしていたのだし、最初から失敗しなかったわけじゃない。
それだけの経験をしていても王様との交渉は緊張したし、あの国ともう少し上手く交渉できていれば、お互いの落としどころを見つけられたんじゃないかと今でも思うことがある。
ただ、この国のほうがクインスよりも聖女を有難がっている気がするので、交渉の余地はきっとある。
「初めまして。理沙です。母の政子です」
「ようこそトルゴードにいらっしゃいました。トルゴード王国国王オーレル・トルゴードです。国内の浄化をしていただきまして、誠にありがとうございます」
「国境までの出迎えありがとうございます」
「トルゴードでの滞在中のお部屋を用意いたしましたので、どうぞおくつろぎください」
昨日の不安などなかったように、理沙が堂々と挨拶をしている。
謁見の間での顔合わせだ。多くの貴族の前で顔合わせをするか、後日パーティーを開くかの2択で、謁見の間での顔合わせを選んだ。
ここでのやり取りは全て事前に打ち合わせ済みだ。本命はこの後なのだ。
私たちに与えられたのは、王城の中にある離宮だった。成人した王族や、王の側妃とか愛人とかが使うものらしい。
そのうちの1つを、私たち用に急遽改装して用意してくれた。内装が控えめになっているのは、ターシャちゃんが言ってくれたのか、ここに来る間の話から私たちがあまり華美なものに慣れていないと判断したのか、どちらかな。
場所を移して、いよいよ交渉だ。理沙が自分でやるというので、私は見守るつもりだ。
ソファにピンと背筋を伸ばして座る理沙は、クインスでただ震えていた頃とは違う。
でも気付くと、ノートを持つ理沙の手が震えていた。そうだ、理沙はまだ18歳。緊張しない訳がなかった。
隣からそっと手を重ねると理沙がこちらを見たので、頷く。大丈夫、そばにいるから。
「この国の浄化をするので、母と私の身の安全と自由を保障してください」
「もちろんです。可能な限り聖女様のご要望に沿えるように尽力いたします」
それから理沙はメモを見ながら、クインスで嫌だったことを中心に配慮してほしいことを挙げていき、それを王様と宰相がうんうんと笑顔で聞いている。
けれど、私はため息が出そうになるのを必死でこらえていた。
目の前の王様は、人のよさそうな笑顔で答えてくれているが、最大限努力するというだけで、確約するとは一言も言っていない。クインスの王様より、こちらの王様のほうがやり辛い相手のようだ。
けれど、できないことを約束しないという意味では信頼できるのような気もする。
国の運営など、人が良いだけではやっていけないと思うので、ある程度利用されることは許容しないといけないのだろうな。
理沙は思っていたことを全て伝えられて満足げな顔をしていてとても可愛いので、とりあえず心配は棚上げして、理沙の可愛さを堪能しよう。
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