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4章 冒険者編
5. 職業体験
薬師養成学校で調薬を体験した後に理沙は、冒険者の活動はもうしないとターシャちゃんに伝えた。
ファンタジーの定番としてやってみたいという軽い気持ちでお願いしたために、多くの護衛までつけてもらったのに申し訳ないと謝った。
現実的に考えて今後理沙が冒険者として活動していくというのは無理だし、ターシャちゃんたちもただの憧れというのは分かっていたので、お楽しみいただけて良かったですと受け止めてくれた。
依頼に行けば危険な目にあう可能性もあるし、早々に止めると言ったことをむしろ歓迎している気もする。
1日休んで今日は、お城の中の見学をしてみませんかとターシャちゃんに誘われ、作業所のようなところに案内されている。
装飾のない広い空間で、楽器の練習をしている人がいる。
「ここは楽師の練習場所です。何か演奏してみますか?」
「ピアノはちょっとやっていました」
「ではこちらへ。チェンバロに近い楽器です」
案内された先にあるのは鍵盤の数は少なくてオルガンのような感じの楽器だった。
お披露目パーティーの時は、バイオリンのような弦楽器しか見なかったけど、鍵盤楽器や打楽器もあった。
理沙は鍵盤を人差し指で押してみて、音を出している。
「政子さんは何か楽器の経験はありますか?」
「ないわ。リコーダーと鍵盤ハーモニカくらいよ」
お稽古事でピアノを習うようなハイソな家じゃなかったもの。
あ、今はハイソって言わないでセレブって言うのよね。会社で若い子にどういう意味ですかって聞かれたときは、時の流れを感じたものよ。
ピアノのような白と黒が交互に並ぶような配置ではないので、どの鍵盤でどの音が出るのかが分からないようで苦戦していた理沙は、弾くのを諦めた。
「ダメ。ピアノと違いすぎて混乱しちゃいます。ターシャさんは何か弾けますか?」
「バイオリンを子どものころから練習していましたので、一応弾けます。貴族は何か1つ楽器を練習します」
貴族って英才教育なのね。
子どものころから家庭教師をつけて、勉強だけでなく楽器やダンス、マナーも習うらしい。
「ダンスって、社交ダンスみたいな感じのですか?」
「ワルツです。先日のお披露目会ではありませんでしたが、パーティーで男女ペアで踊りますよ」
理沙が興味津々で聞いているけど、きっと鹿鳴館のような感じで華やかなんでしょうね。
ちょっと見てみたかったけど、まず最初にそのパーティーの主役が踊るのが決まりなので、理沙のお披露目の場合理沙が踊らないからダンス自体がなくなったそうだ。
お昼を食べて午後から今度は、アトリエに案内された。
窓が大きくとられが日当たりのよい部屋で、何人もの画家が大きなキャンバスに向かって何かを描いている。
「今は先日のお披露目パーティーの様子を描いているところです」
「匂いが美術室みたい」
絵の具の匂いが高校の美術室を思い出させたようだ。
理沙が少し遠い目をしているので、ターシャちゃんも心配している。
「理沙、大丈夫?」
「うん。懐かしいな。つい最近のはずなのにね」
まだ1年たっていないのに、日本でのことが遠い昔のように感じる。いろいろあったからね。
「何か描いてみませんか?」
「絵の具を使ってみたいです」
理沙は振袖の絵を描いたり、薬草の絵を描いたり、絵を描くことが好きなようで、この世界の絵の具を使ってみたいと乗り気だ。
それで気づいたのだけど、冒険者、調薬、楽器演奏ときて、今度は絵。これって職業体験よね。
浄化が終わった後に何がしたいかまだ分からないと言った理沙のために、時間が少し空いた今、どんな仕事があるのかを見学や体験させてくれているのだ。
この世界で育っていない私たちにはどんな職業があるのかも分からないから、これはとっても有難い。
「政子さんも描いてみますか?」
「私はいいわ。絵は苦手なの。ターシャちゃんは?」
「化学物質の構造式なら書けます。ベンゼン環や芳香族は得意でしたよ」
ベンゼン環って六角形のあれよね。芳香族は分からないけど、きっと難しい記号でしょう。
つまりターシャちゃんも絵は描けないってことで。ターシャちゃん、おしゃれも苦手なようだし、芸術系は全般苦手なのかもしれない。
理沙は画家の一人が用意してくれたキャンバスに向かって、下書きもせずに絵の具を筆につけて書き始めた。
使い勝手が違うようで、上手く描けないとぼやきながらもすいすいと描き進めていく。
出来上がったのは、緑の草原と木の絵だった。薬草採取をした森かしら。
「理沙、上手ね。こんな短時間ですごいわ」
「美術の授業が一番好きだったの」
「理沙さんは宮廷画家になれそうですね」
近くにいた画家の人も理沙の絵を見て褒めている。聖女へのお世辞もあるんだろうけど、この世界の本職に認められて、理沙も嬉しそうだ。
宮廷画家の仕事は、王族の肖像画や依頼された絵を描くことで、今みんなが取り掛かっている理沙のお披露目パーティーの絵は王様からの依頼で、聖女がこの国に来た様子を描き残すためのものらしい。
「理沙さん、次の旅で浄化の際の絵を描きたいのですが、構いませんか?」
「え?私の絵ですか?」
「はい。浄化の様子を絵で残しておきたいという王の意向です」
なるほど。イベントの様子を写真で記録しておくようなものね。
理沙の行動については日記のように記録を取るというのは聞いているので、プライベートなことは記録しないでほしいとお願いしてある。それに絵も加えたほうが、後々見るときには分かりやすいだろう。
理沙は自分の顔のアップとかでなければ構わないと許可を出した。
この世界、肖像権はなさそうだからちょっと心配よね。でも写真じゃないからそこまで心配する必要はないのかな。
ファンタジーの定番としてやってみたいという軽い気持ちでお願いしたために、多くの護衛までつけてもらったのに申し訳ないと謝った。
現実的に考えて今後理沙が冒険者として活動していくというのは無理だし、ターシャちゃんたちもただの憧れというのは分かっていたので、お楽しみいただけて良かったですと受け止めてくれた。
依頼に行けば危険な目にあう可能性もあるし、早々に止めると言ったことをむしろ歓迎している気もする。
1日休んで今日は、お城の中の見学をしてみませんかとターシャちゃんに誘われ、作業所のようなところに案内されている。
装飾のない広い空間で、楽器の練習をしている人がいる。
「ここは楽師の練習場所です。何か演奏してみますか?」
「ピアノはちょっとやっていました」
「ではこちらへ。チェンバロに近い楽器です」
案内された先にあるのは鍵盤の数は少なくてオルガンのような感じの楽器だった。
お披露目パーティーの時は、バイオリンのような弦楽器しか見なかったけど、鍵盤楽器や打楽器もあった。
理沙は鍵盤を人差し指で押してみて、音を出している。
「政子さんは何か楽器の経験はありますか?」
「ないわ。リコーダーと鍵盤ハーモニカくらいよ」
お稽古事でピアノを習うようなハイソな家じゃなかったもの。
あ、今はハイソって言わないでセレブって言うのよね。会社で若い子にどういう意味ですかって聞かれたときは、時の流れを感じたものよ。
ピアノのような白と黒が交互に並ぶような配置ではないので、どの鍵盤でどの音が出るのかが分からないようで苦戦していた理沙は、弾くのを諦めた。
「ダメ。ピアノと違いすぎて混乱しちゃいます。ターシャさんは何か弾けますか?」
「バイオリンを子どものころから練習していましたので、一応弾けます。貴族は何か1つ楽器を練習します」
貴族って英才教育なのね。
子どものころから家庭教師をつけて、勉強だけでなく楽器やダンス、マナーも習うらしい。
「ダンスって、社交ダンスみたいな感じのですか?」
「ワルツです。先日のお披露目会ではありませんでしたが、パーティーで男女ペアで踊りますよ」
理沙が興味津々で聞いているけど、きっと鹿鳴館のような感じで華やかなんでしょうね。
ちょっと見てみたかったけど、まず最初にそのパーティーの主役が踊るのが決まりなので、理沙のお披露目の場合理沙が踊らないからダンス自体がなくなったそうだ。
お昼を食べて午後から今度は、アトリエに案内された。
窓が大きくとられが日当たりのよい部屋で、何人もの画家が大きなキャンバスに向かって何かを描いている。
「今は先日のお披露目パーティーの様子を描いているところです」
「匂いが美術室みたい」
絵の具の匂いが高校の美術室を思い出させたようだ。
理沙が少し遠い目をしているので、ターシャちゃんも心配している。
「理沙、大丈夫?」
「うん。懐かしいな。つい最近のはずなのにね」
まだ1年たっていないのに、日本でのことが遠い昔のように感じる。いろいろあったからね。
「何か描いてみませんか?」
「絵の具を使ってみたいです」
理沙は振袖の絵を描いたり、薬草の絵を描いたり、絵を描くことが好きなようで、この世界の絵の具を使ってみたいと乗り気だ。
それで気づいたのだけど、冒険者、調薬、楽器演奏ときて、今度は絵。これって職業体験よね。
浄化が終わった後に何がしたいかまだ分からないと言った理沙のために、時間が少し空いた今、どんな仕事があるのかを見学や体験させてくれているのだ。
この世界で育っていない私たちにはどんな職業があるのかも分からないから、これはとっても有難い。
「政子さんも描いてみますか?」
「私はいいわ。絵は苦手なの。ターシャちゃんは?」
「化学物質の構造式なら書けます。ベンゼン環や芳香族は得意でしたよ」
ベンゼン環って六角形のあれよね。芳香族は分からないけど、きっと難しい記号でしょう。
つまりターシャちゃんも絵は描けないってことで。ターシャちゃん、おしゃれも苦手なようだし、芸術系は全般苦手なのかもしれない。
理沙は画家の一人が用意してくれたキャンバスに向かって、下書きもせずに絵の具を筆につけて書き始めた。
使い勝手が違うようで、上手く描けないとぼやきながらもすいすいと描き進めていく。
出来上がったのは、緑の草原と木の絵だった。薬草採取をした森かしら。
「理沙、上手ね。こんな短時間ですごいわ」
「美術の授業が一番好きだったの」
「理沙さんは宮廷画家になれそうですね」
近くにいた画家の人も理沙の絵を見て褒めている。聖女へのお世辞もあるんだろうけど、この世界の本職に認められて、理沙も嬉しそうだ。
宮廷画家の仕事は、王族の肖像画や依頼された絵を描くことで、今みんなが取り掛かっている理沙のお披露目パーティーの絵は王様からの依頼で、聖女がこの国に来た様子を描き残すためのものらしい。
「理沙さん、次の旅で浄化の際の絵を描きたいのですが、構いませんか?」
「え?私の絵ですか?」
「はい。浄化の様子を絵で残しておきたいという王の意向です」
なるほど。イベントの様子を写真で記録しておくようなものね。
理沙の行動については日記のように記録を取るというのは聞いているので、プライベートなことは記録しないでほしいとお願いしてある。それに絵も加えたほうが、後々見るときには分かりやすいだろう。
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