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6章 ベイロール編
7. 推し
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どんちゃん騒ぎしたので二日酔いになるかと心配した翌日、普通にすっきり起きることができた。そういえば、騒ぎはしたけど二日酔いになるほど飲んでなかった。歌い始めたころからはお茶だったし。
お城ではご近所への騒音も気にしないで騒げるから、夜遅くまで歌っていた。
デイジーちゃんには私たちがいろんな歌を歌えることが珍しかったようで、知っている曲をもっと歌ってほしいとリクエストされたので、カラオケパーティーのようにいろんな曲を歌った。
この世界、音楽はそこまでありふれていない。
「理沙様の世界では、音楽に合わせた体操といい音楽が身近なのですね」
「言われてみればそうかも」
「録音再生機能があるお陰でしょうね」
お酒が入っていても状況を冷静に分析しているターシャちゃんが推測していたけど、生演奏しかない環境だといろんな音楽を聴く機会は少なそうだ。
そしてとても重要なことが一つ分かった。
理沙が音痴だった。
最初は私が知らない曲なんだろうと思って気づかなかったけど、何曲目かで気づいたのだ。私の知っている曲だけど、メロディーが違うんじゃないかと。
理沙の歌った失恋ソングも分からなかったんだけど、私が知らないのか、知ってる歌だけど分からなかったのか、謎だ。
でも気持ちよさそうに熱唱していた理沙が可愛かったので、それで十分。
昨日のことを思い出しながらの朝食も終えたので、最近考えていたことを理沙に話そう。
「これからは部屋は別々に用意してもらいましょう」
「え……」
「だって、一人暮らしをしていてもおかしくない歳よ」
クインスでは宿をやっていた時に理沙とは別々に暮らしていたけれど、クインスを出てからはずっと一緒だった。
日本で考えれば大学生の娘と毎日24時間一緒なんて、どう考えても距離が近すぎる。
「間違えたわ。これからは部屋を別々に用意してもらうのがいいと思うんだけど、理沙はどう思う?」
「なんで?まだ怒ってる?」
私があれこれ突っ走るのが良くなかったと反省したのに、また突っ走るところだった。
理沙がどうしたいのか、ちゃんと話をしよう。
「違うわ。理沙にとって何がいいか話し合いましょう。家も仕事も一緒なんて、息が詰まるんじゃない?理沙だけの時間がもっとあっていいと思うの」
「そうだけど」
「もちろん寂しい時は一緒にいるわ。ねえ、母親と同じ部屋で寝起きして、その母親が毎日大学の授業にまでついてくるってどう思う?」
「気持ち悪いかも」
状況は全く異なるけれど、今の状況はあまり一般的ではないと思う。理沙には理沙の時間があったほうが健全なんじゃないかな。
今回のことだって、友人がいて相談できれば、また違ったと思うのだ。
今私たちの世界は私たちとターシャちゃん、護衛のデイジーちゃんたちくらいの狭い範囲で閉じてしまっている。
この世界にもだいぶ慣れてきたのだから、私たちの周りの世界を広げていこう。
その一歩として、部屋を別にしてはどうだろうか。
「次の浄化から帰ってきたら、お試しで別々でもいい?」
「その心は?」
「この5日間、お母さんに嫌われたかなと思って寂しかったから」
もう、この子はなんて可愛いのかしら。ダメって言えないじゃない。
私のほうが子離れできるか心配だわ。
1日ゆっくり休んで、翌日からまた浄化を再開することにした。
やることがあるほうが気が紛れると言ったのは理沙だ。
「周りがみんな知ってるって、恥ずかしいというか、なんかちょっと嫌」
「サークル内恋愛とか、職場内恋愛とかってそんな感じよ。だから秘密するのよ」
「周りのほうが気を遣ったりもしますよね。それが分かって余計にしんどかったり」
これは、ターシャちゃんもグループ内恋愛の経験があるのかしら。
夫はサークルの先輩だったから、付き合いは周りに筒抜けだった。懐かしいわね。
「お母さんは旦那さんとどこで知り合ったの?」
「サークルの先輩よ。私が卒業したら結婚するとみんなが思ってて、成り行きで結婚した感じよ」
「じゃあ後悔してるの?」
「してないけど、もうちょっと遊んでもよかったんじゃないかと今なら思うわね」
とか言いながらも、人生をやり直したらまた同じ選択をするんでしょうけど。
あの頃は若かったから、上手な羽目の外し方も知らなかったしね。
「じゃあやっぱりお母さんも恋愛しようよ」
理沙はこのみんなに見守られているちょっと恥ずかしい感じに私を巻き込みたいからか、ずいぶんと熱心に勧めてくる。
「そういうのはタイミングとかもあるから」
「そうですね。アインシュタインも恋に落ちるのは重力のせいじゃないって言っていましたし」
ここでそのセリフが出てくるのが、さすがターシャちゃんだわ。
でも、いまいち会話がかみ合っていないようにも思うけど、ターシャちゃんの中ではかみ合っているのかしら。
それからベイロールでの日々は、特に変わったこともなく順調に進み浄化を終え、トルゴードへ戻るために出発する日になった。
出発に先立ち、王様や王太子と簡単な挨拶をしてお礼を言われたけど、その場にマー君王子はいなかった。
「マー君王子には会わなくていいの?」
「いい。気まずいし。それにターシャさんにマートル様に似ている人を紹介してもらうことにしたから」
いつの間にそんな話になっていたの。
ずいぶん積極的になったと思ったのだけど、理沙の思惑はちょっと違っていた。
「推しに似た人をたくさん集めて、テレビで見るみたいに眺めるのもいいかなと思ったの」
「……」
「違うよ、ハーレムじゃないよ。ただ鑑賞するだけ。せっかく聖女なんだから権力を振りかざしてみるわ」
その権力の使い方はどうなのよ。
つまり自分で推しグループを作っちゃおうってことでしょう。理沙のお眼鏡に適う人が集まるか分からないけど。
理沙が前向きになれたと喜んでいいのか、ちょっと悩むわ。
もういっそのことアイドルとして売り出しちゃう?聖女様プロデュースなら売れそうよね。
ってこの世界じゃ売るものがないか。
お城ではご近所への騒音も気にしないで騒げるから、夜遅くまで歌っていた。
デイジーちゃんには私たちがいろんな歌を歌えることが珍しかったようで、知っている曲をもっと歌ってほしいとリクエストされたので、カラオケパーティーのようにいろんな曲を歌った。
この世界、音楽はそこまでありふれていない。
「理沙様の世界では、音楽に合わせた体操といい音楽が身近なのですね」
「言われてみればそうかも」
「録音再生機能があるお陰でしょうね」
お酒が入っていても状況を冷静に分析しているターシャちゃんが推測していたけど、生演奏しかない環境だといろんな音楽を聴く機会は少なそうだ。
そしてとても重要なことが一つ分かった。
理沙が音痴だった。
最初は私が知らない曲なんだろうと思って気づかなかったけど、何曲目かで気づいたのだ。私の知っている曲だけど、メロディーが違うんじゃないかと。
理沙の歌った失恋ソングも分からなかったんだけど、私が知らないのか、知ってる歌だけど分からなかったのか、謎だ。
でも気持ちよさそうに熱唱していた理沙が可愛かったので、それで十分。
昨日のことを思い出しながらの朝食も終えたので、最近考えていたことを理沙に話そう。
「これからは部屋は別々に用意してもらいましょう」
「え……」
「だって、一人暮らしをしていてもおかしくない歳よ」
クインスでは宿をやっていた時に理沙とは別々に暮らしていたけれど、クインスを出てからはずっと一緒だった。
日本で考えれば大学生の娘と毎日24時間一緒なんて、どう考えても距離が近すぎる。
「間違えたわ。これからは部屋を別々に用意してもらうのがいいと思うんだけど、理沙はどう思う?」
「なんで?まだ怒ってる?」
私があれこれ突っ走るのが良くなかったと反省したのに、また突っ走るところだった。
理沙がどうしたいのか、ちゃんと話をしよう。
「違うわ。理沙にとって何がいいか話し合いましょう。家も仕事も一緒なんて、息が詰まるんじゃない?理沙だけの時間がもっとあっていいと思うの」
「そうだけど」
「もちろん寂しい時は一緒にいるわ。ねえ、母親と同じ部屋で寝起きして、その母親が毎日大学の授業にまでついてくるってどう思う?」
「気持ち悪いかも」
状況は全く異なるけれど、今の状況はあまり一般的ではないと思う。理沙には理沙の時間があったほうが健全なんじゃないかな。
今回のことだって、友人がいて相談できれば、また違ったと思うのだ。
今私たちの世界は私たちとターシャちゃん、護衛のデイジーちゃんたちくらいの狭い範囲で閉じてしまっている。
この世界にもだいぶ慣れてきたのだから、私たちの周りの世界を広げていこう。
その一歩として、部屋を別にしてはどうだろうか。
「次の浄化から帰ってきたら、お試しで別々でもいい?」
「その心は?」
「この5日間、お母さんに嫌われたかなと思って寂しかったから」
もう、この子はなんて可愛いのかしら。ダメって言えないじゃない。
私のほうが子離れできるか心配だわ。
1日ゆっくり休んで、翌日からまた浄化を再開することにした。
やることがあるほうが気が紛れると言ったのは理沙だ。
「周りがみんな知ってるって、恥ずかしいというか、なんかちょっと嫌」
「サークル内恋愛とか、職場内恋愛とかってそんな感じよ。だから秘密するのよ」
「周りのほうが気を遣ったりもしますよね。それが分かって余計にしんどかったり」
これは、ターシャちゃんもグループ内恋愛の経験があるのかしら。
夫はサークルの先輩だったから、付き合いは周りに筒抜けだった。懐かしいわね。
「お母さんは旦那さんとどこで知り合ったの?」
「サークルの先輩よ。私が卒業したら結婚するとみんなが思ってて、成り行きで結婚した感じよ」
「じゃあ後悔してるの?」
「してないけど、もうちょっと遊んでもよかったんじゃないかと今なら思うわね」
とか言いながらも、人生をやり直したらまた同じ選択をするんでしょうけど。
あの頃は若かったから、上手な羽目の外し方も知らなかったしね。
「じゃあやっぱりお母さんも恋愛しようよ」
理沙はこのみんなに見守られているちょっと恥ずかしい感じに私を巻き込みたいからか、ずいぶんと熱心に勧めてくる。
「そういうのはタイミングとかもあるから」
「そうですね。アインシュタインも恋に落ちるのは重力のせいじゃないって言っていましたし」
ここでそのセリフが出てくるのが、さすがターシャちゃんだわ。
でも、いまいち会話がかみ合っていないようにも思うけど、ターシャちゃんの中ではかみ合っているのかしら。
それからベイロールでの日々は、特に変わったこともなく順調に進み浄化を終え、トルゴードへ戻るために出発する日になった。
出発に先立ち、王様や王太子と簡単な挨拶をしてお礼を言われたけど、その場にマー君王子はいなかった。
「マー君王子には会わなくていいの?」
「いい。気まずいし。それにターシャさんにマートル様に似ている人を紹介してもらうことにしたから」
いつの間にそんな話になっていたの。
ずいぶん積極的になったと思ったのだけど、理沙の思惑はちょっと違っていた。
「推しに似た人をたくさん集めて、テレビで見るみたいに眺めるのもいいかなと思ったの」
「……」
「違うよ、ハーレムじゃないよ。ただ鑑賞するだけ。せっかく聖女なんだから権力を振りかざしてみるわ」
その権力の使い方はどうなのよ。
つまり自分で推しグループを作っちゃおうってことでしょう。理沙のお眼鏡に適う人が集まるか分からないけど。
理沙が前向きになれたと喜んでいいのか、ちょっと悩むわ。
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