17 / 290
精霊の愛し子編
1. 火の子
「ルジェ、家に帰らないか」
食い倒れツアーのためにウィオが生まれ育ったオルデキアを出ていろんな国を周るようになって三年目。
いつもなら冬前に帰ることが多いのに、まだ夏の終わり、家を離れてから半年もたっていないのに、冒険者ギルドで受け取ったお兄さんからの手紙を読んだウィオが、突然帰ろうと言いだした。
『いいけど、何かあった?』
「兄上が、精霊に愛されている子どもを養子に迎えた」
精霊に愛されている人というのは、ウィオのように髪だけでなく目にも属性の色が現れている人のことだ。国によって呼び方があったりなかったりする。
オルデキアでは精霊の声が聞こえる人のことを精霊の愛し子と呼んでいるようだけど、そういう意味では、目に属性の色が現れている人はみんな精霊の愛し子だ。
今、オルデキアで確認されている目に属性の色が現れている人は、騎士団第三部隊の部隊長さんとウィオだけだ。
『属性は?』
「火だ。庶民の家で持て余したようだ」
精霊に愛されている者の周りには精霊が集まり、積極的に力を貸す。それがまだ理性の効かない子どもであってもだ。
ウィオも子どものころは周りをよく氷漬けにしていたらしいが、引き取った子は火だ。おそらく家具に火がついたりして、周りに危険が及んで、育てられなくなったのだろう。
突然の帰省宣言でお父さんたちに何かあったのかと心配したが、お父さんたちはみんな元気だったので一安心だ。
『お兄さんがすぐに帰ってきてって言ってるの?』
「何も。ただ引き取ったと」
『じゃあさ、トゥレボルに戻って火の神子についての情報をもらわない?』
「そうだな、それがいいか」
一月前まで滞在していたトゥレボルでは精霊に愛されている者を神子と呼んで、生まれるとすぐに教会に集めて育てている。
神子といっても崇め奉られたりといったことはなく、専門施設で育てられているだけで、とても強い魔法が使えるので尊敬されている、くらいの感じだ。大人になった神子は教会の所属として辺境の農地の開拓を手伝ったりしているので、庶民からの人気は高い。
ウィオも氷の神子様だと屋台でちょっとオマケがもらえるくらいには歓迎されていた。
トゥレボルに戻り事情を説明して火の神子に関する情報をもらい、オルデキアのお屋敷へと馬車を走らせる。この三年で慣れた道だ。ウィオも冒険者が板についてきたけど、髪の色もあって見た目はいまだに貴族のお忍びっぽい。
着いてみるとお屋敷がちょっといつもと違う。何かが起きているようで、ウィオも少し警戒している。
慌てて出てきた執事さんが、教えてくれた。
「お帰りなさいませ。お出迎えが遅くなりまして」
「構わない。何があった」
「お嬢様が火傷をされました」
養子に迎えた子の魔力が暴走し、お姉ちゃんが肩から首筋に火傷をしてしまったそうだ。しかも、瘴気はないはずなのにポーションを使っても傷が治らず、お医者さんに来てもらったり、教会の人に来てもらったりとここ数日バタバタしていたらしい。
とりあえずお姉ちゃんに会いに行こうと、執事さんについて部屋に向かう。
お姉ちゃんの部屋には、お母さんとお兄さんと、憔悴したお義姉さんがいた。お姉ちゃんは、火傷の痛みと火傷から出た熱のために、うなされている。
お義姉さんがオレを見るなり、駆けよってすがりついてきた。
「ルジェちゃん、あの子の火傷を治してください。治らないの。何をしても治らないの。お願いします。お願いします」
「やめなさい! ルジェくん、何もしなくていい。忘れてくれ。妻はちょっと取り乱しているんだ」
「お願いします。女の子なの。火傷の痕があっては、将来が大変なの」
泣きながら頼むお義姉さんを、お兄さんがオレから引き離そうとしているが、お義姉さんも離されまいと必死だ。
お母さんもウィオも、オレの力を当てにすることには必ず反対するんだけど、今回は何も言えないでいる。
オレはお義姉さんの目を見て告げた。
『お義姉さん、ごめんなさい。できないの』
「どうして!」
『できないの。でも大丈夫だよ。成長したら痕は消えるから。ちゃんと消えるから。大丈夫だよ。大丈夫』
泣き崩れてしまったお義姉さんの手をなめて、そっと治癒の力を流し入れると、お義姉さんは気を失うように眠った。お姉ちゃんが心配で寝てないんだろう。これでちょっと気持ちが落ち着いてくれるといいんだけど。
眠らせたのでお部屋に連れていくようにお願いすると、お兄さんが連れて部屋を出ていったので、それを確認してからウィオがオレに聞いた。
「できないのか?」
『ここじゃなくて別のところでね。お兄さんにもちゃんと話すよ』
オレはお姉ちゃんの手をそっとなめて、傷に残る精霊の力を消した。これがなければ、ただの火傷だ。
火の子の魔力が暴走した結果だけど、実際に火をつけたのは精霊だから、精霊がつけた傷にはポーションも効かない。
『傷口を清潔に保って。もし高熱が出たら、いつでもいいから知らせて』
執事さんから、お姉ちゃんを看病しているメイドさんに伝えてもらって、オレたちは部屋を出た。
食い倒れツアーのためにウィオが生まれ育ったオルデキアを出ていろんな国を周るようになって三年目。
いつもなら冬前に帰ることが多いのに、まだ夏の終わり、家を離れてから半年もたっていないのに、冒険者ギルドで受け取ったお兄さんからの手紙を読んだウィオが、突然帰ろうと言いだした。
『いいけど、何かあった?』
「兄上が、精霊に愛されている子どもを養子に迎えた」
精霊に愛されている人というのは、ウィオのように髪だけでなく目にも属性の色が現れている人のことだ。国によって呼び方があったりなかったりする。
オルデキアでは精霊の声が聞こえる人のことを精霊の愛し子と呼んでいるようだけど、そういう意味では、目に属性の色が現れている人はみんな精霊の愛し子だ。
今、オルデキアで確認されている目に属性の色が現れている人は、騎士団第三部隊の部隊長さんとウィオだけだ。
『属性は?』
「火だ。庶民の家で持て余したようだ」
精霊に愛されている者の周りには精霊が集まり、積極的に力を貸す。それがまだ理性の効かない子どもであってもだ。
ウィオも子どものころは周りをよく氷漬けにしていたらしいが、引き取った子は火だ。おそらく家具に火がついたりして、周りに危険が及んで、育てられなくなったのだろう。
突然の帰省宣言でお父さんたちに何かあったのかと心配したが、お父さんたちはみんな元気だったので一安心だ。
『お兄さんがすぐに帰ってきてって言ってるの?』
「何も。ただ引き取ったと」
『じゃあさ、トゥレボルに戻って火の神子についての情報をもらわない?』
「そうだな、それがいいか」
一月前まで滞在していたトゥレボルでは精霊に愛されている者を神子と呼んで、生まれるとすぐに教会に集めて育てている。
神子といっても崇め奉られたりといったことはなく、専門施設で育てられているだけで、とても強い魔法が使えるので尊敬されている、くらいの感じだ。大人になった神子は教会の所属として辺境の農地の開拓を手伝ったりしているので、庶民からの人気は高い。
ウィオも氷の神子様だと屋台でちょっとオマケがもらえるくらいには歓迎されていた。
トゥレボルに戻り事情を説明して火の神子に関する情報をもらい、オルデキアのお屋敷へと馬車を走らせる。この三年で慣れた道だ。ウィオも冒険者が板についてきたけど、髪の色もあって見た目はいまだに貴族のお忍びっぽい。
着いてみるとお屋敷がちょっといつもと違う。何かが起きているようで、ウィオも少し警戒している。
慌てて出てきた執事さんが、教えてくれた。
「お帰りなさいませ。お出迎えが遅くなりまして」
「構わない。何があった」
「お嬢様が火傷をされました」
養子に迎えた子の魔力が暴走し、お姉ちゃんが肩から首筋に火傷をしてしまったそうだ。しかも、瘴気はないはずなのにポーションを使っても傷が治らず、お医者さんに来てもらったり、教会の人に来てもらったりとここ数日バタバタしていたらしい。
とりあえずお姉ちゃんに会いに行こうと、執事さんについて部屋に向かう。
お姉ちゃんの部屋には、お母さんとお兄さんと、憔悴したお義姉さんがいた。お姉ちゃんは、火傷の痛みと火傷から出た熱のために、うなされている。
お義姉さんがオレを見るなり、駆けよってすがりついてきた。
「ルジェちゃん、あの子の火傷を治してください。治らないの。何をしても治らないの。お願いします。お願いします」
「やめなさい! ルジェくん、何もしなくていい。忘れてくれ。妻はちょっと取り乱しているんだ」
「お願いします。女の子なの。火傷の痕があっては、将来が大変なの」
泣きながら頼むお義姉さんを、お兄さんがオレから引き離そうとしているが、お義姉さんも離されまいと必死だ。
お母さんもウィオも、オレの力を当てにすることには必ず反対するんだけど、今回は何も言えないでいる。
オレはお義姉さんの目を見て告げた。
『お義姉さん、ごめんなさい。できないの』
「どうして!」
『できないの。でも大丈夫だよ。成長したら痕は消えるから。ちゃんと消えるから。大丈夫だよ。大丈夫』
泣き崩れてしまったお義姉さんの手をなめて、そっと治癒の力を流し入れると、お義姉さんは気を失うように眠った。お姉ちゃんが心配で寝てないんだろう。これでちょっと気持ちが落ち着いてくれるといいんだけど。
眠らせたのでお部屋に連れていくようにお願いすると、お兄さんが連れて部屋を出ていったので、それを確認してからウィオがオレに聞いた。
「できないのか?」
『ここじゃなくて別のところでね。お兄さんにもちゃんと話すよ』
オレはお姉ちゃんの手をそっとなめて、傷に残る精霊の力を消した。これがなければ、ただの火傷だ。
火の子の魔力が暴走した結果だけど、実際に火をつけたのは精霊だから、精霊がつけた傷にはポーションも効かない。
『傷口を清潔に保って。もし高熱が出たら、いつでもいいから知らせて』
執事さんから、お姉ちゃんを看病しているメイドさんに伝えてもらって、オレたちは部屋を出た。
あなたにおすすめの小説
平民の薬師と契約結婚した冷徹公爵様ですが、実は私は5年前に失踪した侯爵家の正当令嬢でした~偽りの夫婦が本気の溺愛に変わるまで~
ハリネズミの肉球
恋愛
「これは契約だ。愛は不要だ」
そう言い放った冷徹公爵アルフォンスと、平民の薬師リアの結婚は、打算だけで結ばれた偽りの関係だった。
家も名も持たないリアは、生きるためにその契約を受け入れる。
――けれど。
彼女の作る薬は奇跡のように人を救い、荒れた公爵領は少しずつ変わっていく。
無関心だったはずのアルフォンスもまた、彼女の強さと優しさに触れるたび、心を揺らし始める。
「……お前は、俺のものだろう」
それは契約の言葉のはずだった。
なのに、いつからかその声音は熱を帯びていく。
そんな中、明かされる衝撃の真実。
リアは――5年前に政変で消えた侯爵家の正統令嬢だった。
彼女を陥れた貴族たちが再び動き出す中、アルフォンスは選ぶ。
契約か、それとも――愛か。
偽りから始まった関係は、やがて逃れられない執着へと変わっていく。
※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
婚約破棄されたので、王家の死亡通知を先に出しました
くるみ
ファンタジー
婚約破棄を告げられたセレスティアは、静かに微笑んだ。
「では、王家の救命措置を終了いたします」
その一言で、王国は大混乱。役目を終えたセレスティアは、晴れやかに旅立つ。
あなたがワインを浴びせた相手は、"子爵令嬢"じゃありませんわ
ばぅ
恋愛
公爵令息の恋人と噂されている「ルリア・ラズベルン子爵令嬢」と勘違いされ、夜会でワインを浴びせられた私。でも残念、完全な人違いです。
『病弱令嬢、気付いたら外堀が埋まってました』
りさ
恋愛
前世、日本で大学生だった少女は、
異世界の公爵令嬢
ベリノアル・ソールス≠ネフェリエートとして転生した。
しかし転生先で待っていたのは、
“超病弱”な身体。
少し歩けば倒れ、
熱を出し、
外へ出ることすら許されない。
過保護すぎる家族に囲まれながら、
屋敷で暮らすこと十五年。
そんなソルの夢は、
ただ一つ。
「外でモフモフしたい」
そして迎えた、
人生初のお外デビューの日。
突如、
公爵家の結界を破って現れたのは、
隣国エマンラート王国の第一王子、
ヴェルノア・アシュレイ=エマンラートだった。
冷徹。
合理主義。
そして底知れない美貌を持つその王子は、
ソルを見るなり意味深に告げる。
「――ようやく見つけた」
その出会いをきっかけに、
ソルの日常は大きく変わり始める。
何故か懐く魔獣。
揺れる庭園結界。
隠されていた秘密。
そして、
気付かぬうちに埋められていく外堀――。
これは、
自由を夢見る病弱令嬢が、
腹黒王子にじわじわ囲い込まれていく、
異世界ファンタジー。
神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない・完結
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
捨てられたと思っていたのに、元婚約者が私と秘密の子を迎えにきました
ゆぷしろん
恋愛
かつて黒騎士公爵である婚約者レアンドルに捨てられたと思い、身重のまま王都を逃れた侯爵令嬢ジゼルは、辺境の礼拝堂で息子リュカを密かに育てていた。
だが五年後、黒竜の力を受け継ぐリュカの噂を追って、レアンドルが現れる。彼は別れの手紙を書いておらず、ジゼルをずっと探していたと告げる。
陰謀によって引き裂かれていた真実を知った二人は、リュカを狙う王弟派の手から息子を守るため力を合わせる。誤解と傷を乗り越え、親子三人は公爵家で新たな家族として歩み始める。