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4 脇と脚、どっちがいい?
「お、覚えてるよ! 私のバイト先のカフェにお客さんとして来た陽向くんが「やっと見つけた」って、声かけてくれて、そのまま、付き合おうって……」」
「えー。やっぱり忘れちゃってるじゃん、ひどいなあ」
ぷくっと頬を膨らませて拗ねる陽向くんが可愛い。
「わ、忘れてないよ……」
「俺が言ったこと、嫌だった?」
顔をぐいっと近づけられて、見つめられたあと耳元で囁かれる。
ぶわっと体が熱くなるのを実感した。じわじわ、絡め取られていくような感覚に呼吸が浅くなる。
「っ、嫌じゃなかったけど、びっくりしちゃって……今でもその、私の聞き間違いだったんじゃないかって思っちゃって……その、『お嫁さんになって』なんて……」
「よかった。覚えていてくれて」
優しい声とは裏腹に赤い瞳が妖艶さを増す。闇に浮かぶ彼岸花のようにどこか悲しげで。
「聞き間違いだったなんて言わせない。何度でも言うよ。なおちゃん、俺のお嫁さんになって」
格好良くて優しい陽向くん。きっと、誰もが陽向くんを好きになる。
それなのに、なんで私なんかに、そんなこと言ってくれるの。
目尻に溜まった涙を陽向くんは何も言わずに指で拭ってくれた。ペロッと舐め取る音がして思わず目を向ける。
「あ……」
涙を拭ってくれたのは陽向くんの左手で挑発するように、にんまりと笑う唇。真っ赤な長い舌と陽向くんの顔についている口よりもずっと鋭い牙を主張する鬼の口。
「ごめん、久々に出ちゃった……怖い?」
陽向くんの手のひらには『鬼の口』があって、普段は隠しているけれど感情が昂ぶると出てしまうんだって言っていた。見たのも、触れたのも今日が初めてではないし、それに怖くなんかない。
じわっ、と内側からなにかが滲むような感覚に思わず陽向くんと距離を取る。といっても、人力車に並んで座っているから拳1個分も空いていないけれど。
あ~~~~~なんでこんなときに……。
「やっぱり――」
「違うの! 怖いんじゃなくて、その……着物、慣れなくて……思っていたより、通気性が……その……」
モゴモゴ言って、陽向くんに完全に背を向けるようにして丸まってつぶやいた。
「汗が……すごくて……ごめんなさい」
汗がすごい。蒸れて、内ももの汗がとんでもないことになっている。
そのうえ今日に限ってハンカチもティッシュも忘れていることに気づく。季節的にいらないだろうと制汗シートも持ってきていない。終わった。
どこかコンビニに寄ってもらえないだろうか、そう願うように顔を上げると陽向くんは私の肩をそっと抱いて引き寄せた。
「なおちゃん」
着物越しに感じる、見た目よりもずっと逞しい胸にどきりとする。
「脇と脚、どっちがいい?」
陽向くんの綺麗な笑みの横で左手がべえっと舌を出す。まるでご馳走を前にした獣みたいに。
「――……ぇ?」
「えー。やっぱり忘れちゃってるじゃん、ひどいなあ」
ぷくっと頬を膨らませて拗ねる陽向くんが可愛い。
「わ、忘れてないよ……」
「俺が言ったこと、嫌だった?」
顔をぐいっと近づけられて、見つめられたあと耳元で囁かれる。
ぶわっと体が熱くなるのを実感した。じわじわ、絡め取られていくような感覚に呼吸が浅くなる。
「っ、嫌じゃなかったけど、びっくりしちゃって……今でもその、私の聞き間違いだったんじゃないかって思っちゃって……その、『お嫁さんになって』なんて……」
「よかった。覚えていてくれて」
優しい声とは裏腹に赤い瞳が妖艶さを増す。闇に浮かぶ彼岸花のようにどこか悲しげで。
「聞き間違いだったなんて言わせない。何度でも言うよ。なおちゃん、俺のお嫁さんになって」
格好良くて優しい陽向くん。きっと、誰もが陽向くんを好きになる。
それなのに、なんで私なんかに、そんなこと言ってくれるの。
目尻に溜まった涙を陽向くんは何も言わずに指で拭ってくれた。ペロッと舐め取る音がして思わず目を向ける。
「あ……」
涙を拭ってくれたのは陽向くんの左手で挑発するように、にんまりと笑う唇。真っ赤な長い舌と陽向くんの顔についている口よりもずっと鋭い牙を主張する鬼の口。
「ごめん、久々に出ちゃった……怖い?」
陽向くんの手のひらには『鬼の口』があって、普段は隠しているけれど感情が昂ぶると出てしまうんだって言っていた。見たのも、触れたのも今日が初めてではないし、それに怖くなんかない。
じわっ、と内側からなにかが滲むような感覚に思わず陽向くんと距離を取る。といっても、人力車に並んで座っているから拳1個分も空いていないけれど。
あ~~~~~なんでこんなときに……。
「やっぱり――」
「違うの! 怖いんじゃなくて、その……着物、慣れなくて……思っていたより、通気性が……その……」
モゴモゴ言って、陽向くんに完全に背を向けるようにして丸まってつぶやいた。
「汗が……すごくて……ごめんなさい」
汗がすごい。蒸れて、内ももの汗がとんでもないことになっている。
そのうえ今日に限ってハンカチもティッシュも忘れていることに気づく。季節的にいらないだろうと制汗シートも持ってきていない。終わった。
どこかコンビニに寄ってもらえないだろうか、そう願うように顔を上げると陽向くんは私の肩をそっと抱いて引き寄せた。
「なおちゃん」
着物越しに感じる、見た目よりもずっと逞しい胸にどきりとする。
「脇と脚、どっちがいい?」
陽向くんの綺麗な笑みの横で左手がべえっと舌を出す。まるでご馳走を前にした獣みたいに。
「――……ぇ?」
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