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3 忘れちゃったの?
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状況をうまく飲み込めないうちにあれよあれよと雷門の前に到着する。
そこで陽向くんを指さして『あ! あそにいた!』と叫んでいる女性たちが目に入った。さっきの着付け師さんの『誰が担当するか揉めていた』というセリフが蘇る。
なるほど……なんとなくだけど、逆ナンされ過ぎて立っていられなくなったから人力車に乗った……という展開が容易に想像できてしまった。
私の人生ではありえないことだけれど、陽向くんにとってそれらは日常なのだ。それにこんなことは今日が初めてではない。
目をハートにした女性たちが張り付いているタクシーが滑走していると思ったら中から陽向くんが出てきたときや、一緒に海に行ったらモーゼ?ってくらい人の波を押しのけて現れたときはさすがに夢かと思った。
でもこれは夢じゃない。隣にいる私をみて『なんであの子?』って顔をする周りの目のにも早く慣れてしまいたい、のに。
黙ったままになってしまった私を陽向くんが心配そうに覗き込む。
「なおちゃん、大丈夫? 突然人力車に乗せてごめんね」
陽向くんに心配かけちゃだめだ。笑わないと。
「ううん、初めて乗ったから楽しいよ。それに……浅草で着物デートしたいってわがまま言っちゃったし」
「全然わがままじゃない。俺もなおちゃんとデートしたいもん。食べ歩きとか、仲見世でお土産みたりしたい……だめ?」
めちゃくちゃかっこいい顔で愛らしく首を傾げる破壊力はとんでもなくて、私は「だめなわけないです……」と頭から湯気を出すことしかできなくなってしまった。
仲見世通りを冷やかしながら歩いて、悩みに悩んでお揃いの練り香水を買った。お寺にお参りもして、SNSで見て絶対食べたかった焼き立てメロンパンに、いちご飴、それから三色団子に焼き芋ようかん、揚げ饅頭に網焼きおにぎり。
「か、買いすぎちゃった……」
両手いっぱいに食べ歩きの戦利品を抱える私を陽向くんは「いっぱい食べるなおちゃん好き」とにこにこしている。
嬉しいけど、外で言われるのは恥ずかしい。
「陽向くんも食べて! これ美味しいから!」
「ん、一口ちょーだい」
照れ隠しで差し出したいちご飴を陽向くんは受け取らずに私の手から食べた。これはこれでまた、恥ずかしい。
「そ、そういえば、さっきまで人すごかったのに、人力車降りてから全然話しかけられたりしないよね」
私が一緒にいようと声をかけてくる人がいてもおかしくない。というより、今までのデートでは話しかけてくる人もいた。
それなのに、今日は全くだから逆に違和感がある。
周りは人の声でざわざわしているのに、なぜか静まりかえっている気がするのも変な感じだ。
「あー……みんな遠慮してくれてるんじゃない? デート中だもん」
陽向くんの優しい声にそっかあ、と納得してしまう。少し、頭がぼうっとするような。
「なおちゃん?」
「……っ、ごめんね、陽向くんと一緒にいられるの嬉しくて、ちょっとはしゃぎすぎちゃったかも」
「人多いと疲れるよね。どっか座れるところいこ……って、そこのカフェもさっき満席だったか」
そもそも、私が両手に抱えている食べ物を持ったまま飲食店に入るのは難しいだろう。
空回って申し訳ない。情けなくて、草履を見つめるしかなかった。
私みたいなのが彼女じゃなければ、陽向くんももっと……。
あ、と思いついたように陽向くんはいった。
「さっきの人力車待たせてるんだ。すぐそこの通りまで呼ぶから、休憩しよう。乗ったまま食べたり飲んだりもできるし」
行こう、と私の手をとった陽向くんの優しさに泣かないように堪えるのが精一杯だった。
人力車に乗ってすぐ、陽向くんは備え付けのひざ掛けをかけてくれた。そして、私の目を真っ直ぐ見つめる。
「なおちゃん、どこか辛い?」
私は大きく首を横に振って否定した。
「ううん。ちょっと頭がぼうっとしちゃって……でも全然大丈夫!」
自分の声が出したいそれよりもずっと空元気っぽくて嫌になってしまう。
ふわりと頬に触れた陽向くんの手がひんやりとしていて気持ちいい。見つめてくる赤い瞳は妖艶で腰がぞわりとする。
「ごめんね、俺はなおちゃん以外見えてないけど、声かけられたりするの見るのは嫌だったよね。なおちゃんに声かけてくるやつを消すついでに消しておけばよかったのに甘かったね」
私に声をかけてくる人なんているわけないのに、あえてそういう言い方をしてくれる陽向くんはやっぱり優しい。
私の思考を読んだように陽向くんが続ける。
「だって、俺がなおちゃんに告白したんだよ? 忘れちゃったの?」
そこで陽向くんを指さして『あ! あそにいた!』と叫んでいる女性たちが目に入った。さっきの着付け師さんの『誰が担当するか揉めていた』というセリフが蘇る。
なるほど……なんとなくだけど、逆ナンされ過ぎて立っていられなくなったから人力車に乗った……という展開が容易に想像できてしまった。
私の人生ではありえないことだけれど、陽向くんにとってそれらは日常なのだ。それにこんなことは今日が初めてではない。
目をハートにした女性たちが張り付いているタクシーが滑走していると思ったら中から陽向くんが出てきたときや、一緒に海に行ったらモーゼ?ってくらい人の波を押しのけて現れたときはさすがに夢かと思った。
でもこれは夢じゃない。隣にいる私をみて『なんであの子?』って顔をする周りの目のにも早く慣れてしまいたい、のに。
黙ったままになってしまった私を陽向くんが心配そうに覗き込む。
「なおちゃん、大丈夫? 突然人力車に乗せてごめんね」
陽向くんに心配かけちゃだめだ。笑わないと。
「ううん、初めて乗ったから楽しいよ。それに……浅草で着物デートしたいってわがまま言っちゃったし」
「全然わがままじゃない。俺もなおちゃんとデートしたいもん。食べ歩きとか、仲見世でお土産みたりしたい……だめ?」
めちゃくちゃかっこいい顔で愛らしく首を傾げる破壊力はとんでもなくて、私は「だめなわけないです……」と頭から湯気を出すことしかできなくなってしまった。
仲見世通りを冷やかしながら歩いて、悩みに悩んでお揃いの練り香水を買った。お寺にお参りもして、SNSで見て絶対食べたかった焼き立てメロンパンに、いちご飴、それから三色団子に焼き芋ようかん、揚げ饅頭に網焼きおにぎり。
「か、買いすぎちゃった……」
両手いっぱいに食べ歩きの戦利品を抱える私を陽向くんは「いっぱい食べるなおちゃん好き」とにこにこしている。
嬉しいけど、外で言われるのは恥ずかしい。
「陽向くんも食べて! これ美味しいから!」
「ん、一口ちょーだい」
照れ隠しで差し出したいちご飴を陽向くんは受け取らずに私の手から食べた。これはこれでまた、恥ずかしい。
「そ、そういえば、さっきまで人すごかったのに、人力車降りてから全然話しかけられたりしないよね」
私が一緒にいようと声をかけてくる人がいてもおかしくない。というより、今までのデートでは話しかけてくる人もいた。
それなのに、今日は全くだから逆に違和感がある。
周りは人の声でざわざわしているのに、なぜか静まりかえっている気がするのも変な感じだ。
「あー……みんな遠慮してくれてるんじゃない? デート中だもん」
陽向くんの優しい声にそっかあ、と納得してしまう。少し、頭がぼうっとするような。
「なおちゃん?」
「……っ、ごめんね、陽向くんと一緒にいられるの嬉しくて、ちょっとはしゃぎすぎちゃったかも」
「人多いと疲れるよね。どっか座れるところいこ……って、そこのカフェもさっき満席だったか」
そもそも、私が両手に抱えている食べ物を持ったまま飲食店に入るのは難しいだろう。
空回って申し訳ない。情けなくて、草履を見つめるしかなかった。
私みたいなのが彼女じゃなければ、陽向くんももっと……。
あ、と思いついたように陽向くんはいった。
「さっきの人力車待たせてるんだ。すぐそこの通りまで呼ぶから、休憩しよう。乗ったまま食べたり飲んだりもできるし」
行こう、と私の手をとった陽向くんの優しさに泣かないように堪えるのが精一杯だった。
人力車に乗ってすぐ、陽向くんは備え付けのひざ掛けをかけてくれた。そして、私の目を真っ直ぐ見つめる。
「なおちゃん、どこか辛い?」
私は大きく首を横に振って否定した。
「ううん。ちょっと頭がぼうっとしちゃって……でも全然大丈夫!」
自分の声が出したいそれよりもずっと空元気っぽくて嫌になってしまう。
ふわりと頬に触れた陽向くんの手がひんやりとしていて気持ちいい。見つめてくる赤い瞳は妖艶で腰がぞわりとする。
「ごめんね、俺はなおちゃん以外見えてないけど、声かけられたりするの見るのは嫌だったよね。なおちゃんに声かけてくるやつを消すついでに消しておけばよかったのに甘かったね」
私に声をかけてくる人なんているわけないのに、あえてそういう言い方をしてくれる陽向くんはやっぱり優しい。
私の思考を読んだように陽向くんが続ける。
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