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まわりだす
しおりを挟む鍛冶屋から少し歩くと、多くの店が並ぶ街中に出た。
中央には噴水が設置された広場があり、憩いの場なのかベンチや花壇も綺麗に整えられている。
店はというとアパレル系や雑貨屋、食料品など、このあたりだけで一通り生活に必要なものは揃えられそうなくらい多くの店が建ち並んでいた。
「ここの通りはすごいな。」
「そりゃあリンドブルムの港町で一番栄えている場所だもの。ここにくればなんでも揃うし、たまにあそこの広場に違う国の品物を売る屋台が来たりするのよ。」
「違う国ねぇ。」
(そういえば俺はどこの国にいたんだろう。それもモヤがかかったかのように思い出せない)
育った土地さえもぼんやりとしか思い出せないのは気味が悪いが、もはや覚えていることの方が少ないので気にしていられない。
わざと意識を逸らすように頭を軽く振って、店の紹介をしながら歩くリーナの隣に並んだ。
それからはリーナに次々と店を案内され、あっという間に30分が経過していた。リーナはまだあちこち行く気なのか、次は服屋と~とあれこれ独り言を言いながら歩みを進めている。
別に30分で戻らないといけないわけでもないのだが、そろそろ鍛冶屋に戻らないと、長時間剣を置いてもらうのも気が引ける。
「そろそろ時間も経ったし、一回戻らないか?」
いざ次の店へ、と意気込んでいたリーナにそう声をかけると、時間が経っていたことに気づいたのか慌てて時計を見ながらこちらを振り返った。
「ホントだこんな時間! 戻りましょうか。」
また今度ゆっくり一緒に来ようね、と笑いながら言うリーナにはっきりと答えることはできず、俺は鍛冶屋へと歩いて行った。
「いらっしゃいま……、お兄さん! 双剣すごく綺麗になりましたよ!」
「おう、ありがとな。」
店に入るなりこちらに駆け寄りながら報告する店員に思わず笑ってしまった。子供らしくてとても可愛い。
ほら、と奥から持ってきた双剣を見ると確かに見違えるくらいとても綺麗だった。海水と、あと血……やらなんやらで汚れていたとは思えない、新品と言われても信じれる出来だ。
「見事なもんだな。ここまで綺麗になるとは。」
「意外と簡単に汚れが取れましたので何もしてないようなもんですよ! いつもは商売なのでお代頂くんですけど、今回はサービスってことにしておきます!」
そこまで言われて気づいた。そうだ、俺お金持ってねえ。
「よかったわね、フィン。あなた今無一文だし。まぁ私が出すつもりだったけど。」
「無一文って言うな。その通りで言い返せねえよ。」
子供の前で情けないことを暴露され少し辛い気持ちになった。
料金はサービスとは言われたが、さすがにここまで綺麗にしてもらって何も渡さないというのも気が引ける。かと言ってリーナが言う通りお金は持っていないので渡せるものと言ったら身につけているものくらいなのだが。
(そうだ、このネックレスなら売ってもそこそこ値段いきそうだしいいかもしれない)
昔から趣味で作っていたネックレス。我ながらなかなかの出来の、嫌味にならない程度の大きさの赤い宝石がキラキラと輝いている。作った中でもお気に入りでよくつけていたこれをつけたままでいられたのは幸運だったかもしれない。
よし、これを渡そう、と意気込むも心なしか哀れんでいるような表情をしている店員を真っ直ぐ見ることはできず、少し目線を逸らして話しかけた。
「もしよければこのネックレス受け取ってくれ。俺が作ったものだが売ったら良い値段になると思うし。」
「えっ!? これお客さんが作ったんですか?」
「趣味みたいなもんでな。作った中でもこれは一番良い出来だったし、売れないことはないと思うから。」
そう言って店員の手に乗せるとただでさえ大きな瞳がさらに大きく見開かれて、綺麗、と呟きながら嬉しそうに眺めている。
「こんな綺麗なもの売れません! 一生大切につけます! そういえばまだ名乗ってませんでしたね、シンティア・グロームです!」
ニコニコしながら手を差し出してくるシンティア。可愛らしいな、と思いながらその手をとった。
「俺はフィン・クラウザーだ。こっちはリーナ。」
「リーナ・フルールよ。よろしく。さて、私も実はここに用があるのよね。武器を見せてほしくて。」
「武器でしたらこちらですよ!
……あの、実は敬語って慣れなくて、その、普段の話し方でもいいですか……?」
「変に気を遣われるより全然いいわ。ね、フィン。」
「そうだな。普通に話してくれると嬉しい。」
俺がそう言えばシンティアは嬉しそうに笑った。年相応の方が見ているこちらも安心する。
その後は意外と気が合うのか、2人は仲良く話しながら様々な武器を見ていた。俺も一応は一緒にいるが、女同士の会話に入るだけの度胸も話題もなく、あの武器使いやすそうだなとただ武器を見つめるだけである。
(なんかさっきから俺のことディスってるんだよなぁ)
気がつけば話題の標的は俺になっており、ああいうタイプは彼女できても放置しそうだの、イチャイチャしなさそうだの、好き勝手言ってくれている。
そんなことねえよめっちゃイチャイチャするわ、と言い返せたらいいのだが、生憎生まれて彼女などできたことがない。
彼女ができたらずっと引っ付くし俺が作ったアクセサリーで周りの男牽制するし、と思っているだけで実際のところわからないのが悲しかった。
(彼女欲しい……)
早く話題変わってくれ、と願いながら俺は無言で2人を見つめていた。
それから少しして、お気に召すものがあったらしいリーナが一つの武器を手に取った。
それは綺麗な銀色のスピアで、凛としたリーナによく似合っていた。
「これ買うわ。いくら?」
「本当は5000エールだけどネックレス嬉しかったし、2000エールでいいよ!」
あのネックレスそんなに気に入ったのかとか、勝手に値引きして店長とかに怒られないかとか少し不安になるくらいシンティアは俺たちを贔屓していた。
「そんなに値引きして怒られないの?」
さすがにリーナも不安になったらしくそう聞くが、ちゃっかり財布からは2000エールだけ出してシンティアに渡している。
「この店シンティアのだから大丈夫だよ。」
「シンティアのって……。おまえが一人でやってるのか?」
こんなどう見ても12歳かそこらにしか見えない子供が? と少し失礼なことを思いつつも気になって聞いてしまった。
子供が親の店で働くのはよくあることだが、一人で自分の店を仕切っているのはそうそうない。
とはいえ俺も店を構えていたわけではないがアクセサリーを趣味で売ったりはしていたため、少しだけ親近感も感じていた。
「親は数年前の戦争で死んじゃったんだ。あ、これ武器買ってくれたお礼の飴! 特別にフィンのもあげる!」
サラッと重いことを聞いたが、なんて返したらいいかわからず差し出された飴を手に取った。綺麗な青色に輝くそれは、今はどこか物悲しさを感じさせる。
「ありがとう、スピアも大事にするわ。フィン、帰りましょうか。」
そうだな、と返して扉を開けようとしたとき、ちょうど他の客がきて扉が開いた。
「おいおい、とっくに逃げたかと思ったのにまーだこの街にいたのかよ? さっさと逃げた方がいいぜ、そこのイケメン。」
入ってくるなり俺に向かってそう告げた男。イケメンと言われたのは嬉しいが逃げるってなんだよ、と怪訝な顔をしてしまった。
何を言われているのかよくわからないのはリーナも同じだったようで、目の前の男を睨むように見ている。
「すまないが、逃げた方がいいというのは一体?」
そう問いかけると男は予想外の返しだったのか、本気で言ってんのか? とこちらを探るような目で見ながら呟いた。
何を言われているのか本当にわからない俺はただ目の前の男を見つめるしかなかった。
それにしてもこの銀髪に紫の瞳、かなり整った顔立ちは男の俺から見ても相当なイケメンで、こいつは彼女いるんだろうなぁと場違いな羨望の感情さえ生まれる。
不躾にもじろじろと観察していると、その視線に落ち着かなくなったのか男が再び口を開いた。
「指名手配されてんの知らねえの? さっきどっかのお偉いさんが広場に来てビラ配ってたぜ。ほら、これキミのことだろ。フィン・クラウザーさんよぉ。」
そう言って見せてきたビラには確かに自分の名前と、いつ撮られたのかわからない顔写真が載っていた。
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